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岩手火山地質図 解説地質図鳥瞰図
4:岩手火山の活動史

各噴火ステージの火山活動を下位より概説する.


1 西岩手-鬼ヶ城ステージ
西岩手主火山体が形成された噴火ステージで,噴出物は主に安山岩質の溶岩流や降下火砕物であり,噴出規模の小さな火砕流堆積物が複数枚認められる.末期には玄武岩質の小山体(黒倉火山)が形成された.

 このステージでは,大規模な山体崩壊が少なくとも4回発生し,岩手火山の周辺域を広く覆った.それらは古い順に,五百森[ごひゃくもり]岩屑なだれ堆積物(分布域は主に東-北東域;約19万年前),青山町[あおやまちょう]岩屑なだれ堆積物(東-南東域:約15万年前),雫石岩屑なだれ堆積物(南域ただし本図幅域以外:約13万年前),大石渡[おおいしわたり]・小岩井岩屑なだれ堆積物(東-南東域;約12万年前)である.


2 東岩手-鬼又[おにまた]ステージ
 大石渡・小岩井岩屑なだれの発生源である西岩手主火山体南東部の崩壊カルデラを埋積するように,玄武岩マグマの噴火活動が起こり鬼又火山を形成した.噴火期間は約12万年前から9万年前と考えられる.


3 西岩手-御神坂[おみさか]ステージ
 鬼又火山形成後に,西岩手火山で約8万年前から噴火活動が再開した.御神坂沢谷頭部では鬼又火山を不整合に覆う安山岩質の小規模な火山体(御神坂火山)を形成した.また,噴出源は不明であるが,本地域の南西端に分布するカルクアルカリ岩系の安山岩-デイサイト質の火砕流(篠ヶ森[しのがもり]火砕流堆積物)や雪浦[ゆきうら]軽石が噴出した.


4 西岩手-御苗代[おなしろ]ステージ
 成因は不明であるが西岩手火山の中心部に西岩手カルデラが形成された後,カルデラ内で噴火活動が発生し中央火口丘群が形成された.噴火の中心は主に現在の御苗代湖付近であったが,初期には大地獄谷周辺から溶岩が氾溢し,小規模な山体を形成した.御苗代湖付近からの活動では,カルクアルカリ岩系安山岩の焼切沢溶岩と御苗代溶岩が噴出した後,ソレアイト岩系安山岩の御釜[おかま]溶岩,金沢火砕流が噴出した.御苗代溶岩および御釜溶岩はいずれも厚い溶岩流(あるいは溶岩ドーム)で,頂部には複数の火口が開いている.金沢火砕流堆積物は,北西山麓に断片的に分布する小規模な火砕流堆積物で,噴出年代は約3万年前と考えられる.


5 東岩手-平笠不動[ひらかさふどう]ステージ
 約3万年前に西岩手火山の北東部が山体崩壊を起こし,山子沢[やまこざわ]岩屑なだれが発生した.その後,現在の薬師岳付近を噴出中心として,平笠不動火山が2万年前までに形成された.平笠不動火山は玄武岩質の成層火山で,北部では西岩手主火山体を覆い,南部では鬼又火山を覆う.


6 西岩手-大地獄谷ステージ
 大地獄谷では,少なくとも約7千年前から現在に至るまで噴気・地熱活動が活発で,水蒸気爆発が複数回発生している.大地獄谷周辺には火口地形が認められ,変質岩塊に富む水蒸気爆発噴出物が厚く堆積する.また,規模の大きな水蒸気爆発により放出された降灰は東岩手火山東麓部まで到達している.


7 東岩手-薬師岳ステージ
 約7千年前に平笠不動火山が北東方向に崩壊し,平笠[ひらかさ]岩屑なだれが発生した.その後の噴火活動により,現在の薬師岳を山頂とする薬師岳火山が形成された.薬師岳火山の主火山体は平笠岩屑なだれをもたらした崩壊カルデラの大半を埋積し,一部は西岩手カルデラ内を覆う.山麓のテフラ層序から,噴火活動は比較的静穏な時期を挟む4つの活動期に区分される.

 第1期噴出物は,およそ6~5千年前に北-北東山麓部(一部は東麓部)に流下した薬師岳第1期溶岩が主要な噴出物である.第2期噴出物はおよそ5~4千年前に噴出した巣子[すご]スコリアとそれに伴う火砕サージ堆積物および薬師岳第2期溶岩からなる.第3期噴出物は約3.7~1.8千年前の噴出物で,薬師岳スコリア丘,生出スコリア,薬師岳第3期溶岩からなる.薬師岳スコリア丘は現在の薬師岳山頂部を構成する溶岩およびアグルチネートで,溶岩の一部は東麓部に流下する.生出スコリアは複数の降下ユニットからなる粗粒な降下スコリア層で,薬師岳の南東から北東方向に分布する.薬師岳第3期溶岩は生出スコリアの噴出後,薬師火口から溢れ出した溶岩流で薬師火口北東縁,不動平,北部山麓および東部山麓に分布する.この活動期の最末期には極少量の珪長質ガラス火山灰(薬師岳-不動平火山灰)が噴出している.薬師岳第3活動期のあと約1千年近くの静穏期を挟んで,14~15世紀頃から薬師岳第4活動期が始まった.これは現在にまで至る活動期である( 第2表).


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