aistgsj
第四紀火山>活火山>岩手
岩手火山地質図 解説地質図鳥瞰図
1:はじめに - 2:岩手火山周辺の地質 - 3:岩手火山の概要

1:はじめに

 岩手火山は岩手県盛岡市の北方約18kmに位置する活火山で,江戸時代以降に限っても3回噴火している.また,1998年3月からは活発な地震活動と共に地殻変動が観測され,地下でマグマの活動が活発化し始めたと考えられたが,噴火には至らなかった.

 この火山地質図は,岩手火山の地質と噴火活動史についての研究成果をまとめたもので,今後の研究のみならず,噴火予知や火山防災・学校教育などの資料として利用されることがあれば幸いである.なお,引用・参照させて頂いた研究成果については紙面が限られることから,本文中では引用を明記せず,巻末に参考文献としてまとめた.


2:岩手火山周辺の地質

 新第三期中新世の飯岡層及び鮮新世の三ッ森山安山岩と鮮新世後期-更新世前期の玉川溶結凝灰岩類を基盤として,前期更新世(約180万年前)以降の火山活動により松川安山岩類,網張火山群および岩手火山が形成された.松川安山岩は,安山岩質の溶岩及び火砕岩からなるが全体として強い熱水変質作用を被り,明瞭な火山地形を保持していない.網張[あみはり]火山群は三ッ石山(本地質図の範囲外)から鞍掛山まで東西約12kmの範囲に分布する比較的なだらかな山頂をもつ安山岩-玄武岩質の火山群で,火山地形の保存の程度から前期及び後期に区分される.前期には独立した噴出中心を持つ小型の成層火山群が形成された.一方,後期には爆発的な活動による火口の形成とその後の溶岩流出を主体とする活動が起こった.後期の溶岩流は原地形が比較的保存され,一部は西岩手主火山体(後述)を覆う.稜線部には東西走向の正断層群が発達し,特に黒倉山から犬倉山にかけての地域では地溝状の変位地形が認められる.また,本地域北西部には更新世前-中期の八幡平火山噴出物が分布し,松川上流部の松尾岩屑なだれ*堆積物は,これを起源とすると考えられる.


3:岩手火山の概要

 岩手火山は主に玄武岩-安山岩マグマによって形成された大型の成層火山体で,大規模な火山体の崩壊とその後の噴火による山体の再生を過去30万年間に少なくとも6回繰り返してきた.岩手火山は,薬師岳(標高2038m)を頂部とするほぼ円錐形の東岩手火山と,その西部で山頂部に東西約2.5km,南北1.5kmの西岩手カルデラをもつ西岩手火山に大別される.いずれの火山の噴火活動も,1~数万年程度の休止期を挟む複数のステージに区分される.

 岩手火山の噴火活動は,約30万年前の西岩手火山の活動から始まり,成層火山の成長(約2万年の休止期を挟み西岩手-鬼ヶ城[おにがじょう]ステージと西岩手-御神坂[おみさか]ステージに細分される)の後,山頂部に西岩手カルデラが形成された.カルデラ内では中央火口丘群が形成され(西岩手-御苗代[おなしろ]ステージ),その後噴気・地熱活動が現在まで継続している(西岩手-大地獄谷[おおじごくだに]ステージ).一方,東岩手火山は,大規模な山体崩壊の後,崩落部を埋積し山体を形成する噴火を1~2万年程度継続し,その後休止期に入るという活動サイクルを10万年以降3回繰り返してきた(下位より東岩手-鬼又[おにまた]ステージ,東岩手-平笠不動[ひらかさふどう]ステージ,東岩手-薬師岳ステージ).西岩手火山と東岩手火山の噴火ステージは交互に発生したり,一部では活動期間が重複している( 第1図).

 岩手火山における噴火様式は火山灰や火砕サージ,火砕流の噴出,溶岩流の氾溢や火砕丘の形成など多様である.また,最近約7千年間の活動を見ると,東岩手火山ではマグマ噴火,西岩手火山では水蒸気爆発が発生するが,両火山の活動が一連の噴火イベントの中で連動して発生した事例も認められる.

 岩手火山の岩石:岩手火山の噴出物は,ソレアイト系列に属する玄武岩-安山岩が大半を占める.カルクアルカリ系列に属する安山岩-デイサイトの噴出もわずかに認められるが,噴出時期,噴出中心ともに限定的(西岩手-御神坂及び御苗代ステージ)である.一方,ソレアイト系列岩は例えばK2O量は西岩手火山噴出物が東岩手火山噴出物に比べて多いなど,火山ごとに特徴ある組成を示す( 第1表).


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む