aistgsj
第四紀火山>活火山>岩手
岩手火山地質図 解説地質図鳥瞰図
5:有史時代の噴火活動 - 6:最近の火山活動

5:有史時代の噴火活動

 14~15世紀の噴火:この活動に関する古記録は現在のところ見いだされておらず,地質調査でのみ確認される.噴火活動は,薬師火口から細粒のスコリアを放出する活動が繰り返された後,尻志田[しりしだ]スコリアが噴出した.その後,薬師火口東部の表層部が滑り落ち,崩壊物は山腹部の表土や火山灰層を巻き込みながら流下し,山麓部に一本木原岩屑なだれ堆積物として定置した.薬師火口東縁の崩落壁はこのときの痕跡と考えられる.その後,薬師岳火口内では小規模な噴火活動が継続し,スコリア丘および溶岩流からなる妙高岳スコリア丘が形成した.また,この一連のマグマ噴火の直前には,大地獄谷において小規模な水蒸気爆発が発生している.

 1686年噴火:江戸時代に薬師岳火山で発生した山頂噴火で,古文書記録が残されている.前兆現象として,噴火の10日ほど前から鳴動があったとの記録が残されているが,詳細は不明である.1686年3月25日(旧暦;貞享三年三月二日)早朝には盛岡城下に大音響が届き,北上川に樹木や家屋の一部が流れ着くなど,爆発的な噴火はこの頃から始まっていたと思われる.翌3月26日には,薬師岳山頂から立ち登る噴煙柱が盛岡城から目視された.山麓部に降灰をもたらす噴火活動は3月27日未明には終了したが,山頂部周辺に降灰や火山弾を放出する活動や小規模な水蒸気爆発は12月頃まで継続した.

 この噴火は薬師火口内の妙高岳スコリア丘の側面に御室火口を開き,火砕サージ堆積物と刈屋[かりや]スコリアを噴出した.3月25日の大音響が,噴火初期のマグマ水蒸気爆発に対応される可能性がある.刈屋スコリアは山頂から北東および南東方向に降下し,盛岡城下でも降灰が記録されている.また,この噴火では3月25日~27日にかけて積雪の融解により土石流が発生し,東麓部(現在の一本木周辺)で家畜と家屋4軒が被災した.

 1732年噴火:薬師岳火山の北東部で発生した山腹噴火である.噴火活動に先立って,1732年1月20日(旧暦:享保十六年十二月二十三日)頃から北東山麓部で地震が発生し始めた.その後,1月21日深夜から22日にかけて,地震活動の活発化と共に,山腹にほぼ一直線に配列する複数の火口が開き,スコリア丘の形成とともに溶岩流が流出し始めた.溶岩流出は約1週間継続した.この噴火で流出した溶岩が,現在の焼走り[やけはしり]溶岩である.火口列あるいは溶岩分布域からは噴気や火山ガスの放出が,同年11月頃まで継続した.

 1919年噴火:西岩手火山の大地獄谷で発生した水蒸気爆発で,1919年(大正8年)7月14日頃に噴火し,その後数日間は噴気活動が活発な時期が続いた.降灰は南西方向に約4kmまで達したと伝えられるが,現在この時の噴出物を確認できるのは大地獄谷周辺だけである.


6:最近の火山活動

 1998年以前:東北大学により高精度の地震・地殻変動観測網が1994年に整備された後,1995年9月15日には継続時間45分に及ぶ火山性微動が観測された.1995年9月~1996年5月末までは,岩手山周辺の地震は薬師岳東山腹約10km深で発生していたが,1996年6月~1997年12月末にかけて薬師岳山頂直下約2km深に活動域が移動した.その後,1997年12月29日からは,鬼ヶ城からその南麓の深さ2~4km付近で高周波地震や火山性微動が発生するようになった.

 1998年2月以降: 1998年2月中旬頃から,南西山腹で微小地震が増え始め,震源域は徐々に西方に拡大した.これと共に黒倉山-姥倉山付近の南北方向の伸びや,三ッ石山を中心とする隆起運動が観測された.6月下旬には震源域は三ッ石山付近にまで到達し,東南東-西南西方向約13kmの範囲内で活発な地震活動が継続した.1998年9月3日には,葛根田[かっこんだ]川上流(本地域西方)を震源として岩手県内陸北部地震(M6.2)が発生し,雫石町篠崎地区(本地域南方)に延長約800m,最大垂直変位40cmの南北走向の地震断層が出現した.この地震の後,震源域は薬師岳-犬倉山付近に縮小し,日別地震回数も漸減した.

 1999年3月からは,大地獄谷とその周辺及び黒倉山から姥倉山に至る稜線付近において地熱活動が活発化し,表面現象として顕在化し始めた.特に1999年5月以降は植生の破壊地域が拡大し.大地獄谷では噴出ガスの温度上昇や硫黄の飛散が認められた.また,黒倉山から姥倉山に至る稜線地域では,東西走向の断層列に沿って噴気活動が活発化し,複数箇所から立ち上る蒸気が山麓から確認される様になった.2000年3月以降は噴気地点の拡大傾向は鈍化し, 2003年には噴気活動も低下傾向に転じた.


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む