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第四紀火山>活火山>恵山
恵山火山地質図 解説地質図鳥瞰図
1:はじめに - 2:恵山火山の概要

1:はじめに

 恵山火山は,西南北海道,渡島半島の東端に位置する複合火山体であり,現在も活発な噴気活動が見られる活火山である (気象庁, 2013; 図1). Miura et al.(2013) は恵山火山をEsan Volcanic Complexと呼び,過去50,000年間に5つのマグマ噴火活動期があり,直方輝石及び単斜輝石斑晶を多く含む安山岩及びデイサイトの溶岩ドームと火砕堆積物で構成されることを明らかにした.恵山火山において,最も高頻度と考えられる噴火堆積物は,大規模なマグマ噴火ではなく,小規模噴火の堆積物である.火口近傍の火山体上には,完新世の小規模噴火堆積物が数多く残されている.西暦1846年及び1874年は小規模な噴火が生じ,降灰があったとされる.1846年の噴火ではラハール (火山泥流) による人的被害も報告されている.また1764, 1845, 1857, 1876, 1962年には噴気の活発化や硫黄の燃焼が報告されている (勝井ほか,1983;恵山町史編纂室, 2007).2010年以降は,恵山の山頂付近を対象として,気象庁の地震及び地殻変動等の観測網が整備された.また,地質調査から,小規模噴火堆積物が,現在の居住地域付近まで到達したことも判明している.本地域は多くの旅行客や登山者が訪れる観光地であることから,その防災対策上も火山地質図の作成は急務であった.ここでは,恵山火山の特徴を理解するため,完新世の活動だけでなく,後期更新世の最近5万年前以降の噴火活動史を解説する.


2:恵山火山の概要

2.1 地形

 恵山火山は,山頂標高点 (41°48'17"N,141°9'58"E,標高618 m) と周囲の複数のピークで代表される山群で構成され ( 図1),その地形的要素は溶岩ドーム (溶岩円頂丘),火砕物台地,火山麓扇状地,段丘である (勝井ほか, 1983).溶岩ドームは,北西側から時計回りに,海向山,北外輪山,御崎,恵山山頂,スカイ沢山,南外輪山,椴山であり,いずれも明瞭な溶岩ドーム地形を示す.海向山,椴山,南外輪山及び御崎は,比較的なめらかな表面地形を有するが,恵山山頂,北外輪山は起伏の多い表面形態を示し,スカイ沢山は南側に開いた大きな崩壊壁を伴う.火砕物台地は,いわゆる火口原と呼ばれる,溶岩ドーム群に取り囲まれた中央の平坦面,恵山山頂北東麓の緩傾斜平坦面,古武井~柏野地区にかけて,溶岩ドーム群南麓の緩傾斜平坦面が認められる.勝井ほか (1983) は,海向山及び椴山の西麓の地形面も他と同様に「火砕物台地」と呼んだが,この地域は他の火砕物台地と異なり,侵食開析及び地すべりによる丘状の尾根や谷が発達し,微起伏が著しい特徴を持つ.火山麓扇状地は,海向山及び北外輪山北麓の扇状地が明瞭である.段丘は,南西側に海成中位段丘 (中川,1961) と沖積低地が発達する.火山体は,東側と南側で直接海岸線に接しており急峻な斜面が海面下に続いている ( 図2).


2.2 基盤

 恵山火山の下位に露出する基盤は,中新世古武井層の頁岩,絵紙山層の火山砕屑岩及び凝灰質砂岩,木直層の安山岩溶岩及び火山角礫岩(安藤,1974;勝井ほか,1983),更新世地すべり及び岩屑なだれ堆積物,海成段丘堆積物 (中川, 1961),及び銭亀-女那川テフラ (山縣ほか, 1989;町田・新井,2003) である.北西側に更新世の恵山丸山火山噴出物が近接して分布する (庄司・高橋,1967;藤原・国府谷,1969).

 海向山及び椴山西麓の「火砕物台地」(勝井ほか,1983) は,地すべり及び岩屑なだれ堆積物からなる.山体東側の御崎溶岩の下位には,南に急傾斜した堆積面を持つ地すべり及び岩屑なだれ堆積物 (ブロック相) が分布する.後期更新世の海成中位段丘堆積物には,砂とシルト層に挟まれた降下軽石層とその再堆積相が認められるが,給源火山は不明である.

 恵山丸山火山は,恵山火山の北方に近接する唯一の火山であり,複数の溶岩流と火山砕屑物からなる (庄谷・高橋,1967;藤原・国府谷,1969).恵山丸山火山の東部溶岩における K-Ar 年代は,およそ 20万年前である (産総研地質調査総合センター,2013).この更新世の火山の南東縁は,恵山火山の北西麓に隣接しているが,恵山火山の溶岩ドーム群とは対照的に,侵食が進んでいること,地形的に想定される噴出中心は現在の恵山丸山付近であること,活動時期が15万年ほど隔たることから,恵山火山とは独立した火山と考えられる.

 銭亀-女那川テフラは,函館沖海底の銭亀カルデラに由来する降下火砕堆積物で,4万5千~5万年前の広域鍵層テフラである (町田・新井,2003).恵山火山の降下火山灰は,いずれも銭亀-女那川テフラの上位にあり,銭亀-女那川テフラは,恵山火山の山体を覆っていないことから,恵山火山の活動は,銭亀-女那川テフラより新しいと考えられる (Miura et al., 2013).


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