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第四紀火山>活火山>恵山
恵山火山地質図 解説地質図鳥瞰図
4:噴出物の岩石学的特徴 - 5:完新世小規模噴火の規模と様式

4:噴出物の岩石学的特徴

 溶岩ドームを構成する岩石の全岩化学組成は,幅広い範囲のSiO2量を示し,海向山 (Ka):59~61 wt% (以下同じ),北外輪山 (Ns):57~64,南外輪山 (Ss):58~67,椴山:60~61,スカイ沢山:60~62,恵山山頂:63~64,御崎:63~64である ( 図4).溶岩ドーム毎のSiO2の組成範囲は,海向山,椴山,スカイ沢山の各溶岩ドームは,安山岩組成で互いに類似した化学組成を持ち,恵山山頂と御崎溶岩ドームはデイサイトで,化学組成はほぼ等しい.北外輪山及び南外輪山溶岩ドームは,他の溶岩ドームとは対照的に幅広いSiO2量を示す.


5:完新世小規模噴火の規模と様式
5.1 完新世小規模噴火の活動史
 完新世活動期のEsMP,恵山山頂及び御崎溶岩ドームを形成した噴火の前後には,溶岩ドームの形成を伴うマグマ噴火と比較して,溶岩の流出等を伴わない比較的小さい噴火によると考えられる堆積物が複数認められている (Miura et al., 2013;2019).本稿では,Miura et al. (2019)の層序を基に,恵山山頂,御崎溶岩ドーム及びEsMP火砕堆積物を除いて,約1万1千年前のEs-mからEs-1874まで,15層準の噴火堆積物を再定義する ( 図8).これら噴火イベント層準は,有意な時間間隙を示唆する古土壌の挟在を証拠に区分した.但し,火砕流堆積物に挟在する黒色細粒炭質物層は,火山灰層が作る低角の斜交葉理に沿って挟在しており,火砕流が以前の噴火で炭化した木片を取り込んだものと解釈した.小規模噴火の堆積物は,更新世のマグマ噴火堆積物にも随伴して僅かに認められる.堆積物に顕著な本質岩片を含まないことから,溶岩ドームの浸食・解体に関連する小規模な噴火があったと考えられる.

Es-m火砕堆積物 (旧称Es-0を再定義)
 Es-m火砕堆積物は,厚さ15 cm,中~細礫の黄褐色で緻密な火山礫を含む,中~細粒砂サイズ火山灰からなる降下火山灰である.トレンチ調査地点A ( 図8) においてのみ堆積物が見つかっている (Miura et al.,2019).黒色古土壌の最下部に挟在し,上位のEsMP火砕流堆積物との間には,厚さ16 cmの古土壌が発達する.すなわちEs-m火砕堆積物は,EsMP噴火に先行する,完新世初頭の噴出物である.直下の古土壌から11,610~11,260 cal yBP の14C年代が得られている.

Es-l火砕堆積物 (新称)
 Es-l火砕堆積物は,火口原の西側から北麓の八幡川沿いで層厚50~110 cmを示し,数cm厚の細粒砂サイズ黄褐色~灰白色降下火山灰と,数cm厚の火砕流堆積物が互層をなす.付着物質の析出による 「カタ」様の固結が認められる.火山豆石を多く含む.EsMP噴火の後に最初に生じた小規模噴火の堆積物である.

Es-k火砕堆積物 (新称)
 Es-k火砕堆積物は,火口原東側からタカノス沢沿いで,厚さ6~8 cmの極細粒砂サイズの黄褐色降下火山灰である.粗粒砂サイズの結晶を含む.厚さ10~15 cmの黒色古土壌を挟んで,Ko-f降下火砕堆積物 (約6千3百年前;奥野ほか,1999) を覆う.

Es-j火砕堆積物 (旧称Es-1aを再定義)
 Es-j火砕堆積物は,火口原東側からタカノス沢沿いで,厚さ3 cmの細粒砂サイズ黄褐色降下火山灰,及び厚さ17~48 cmの灰色火砕流堆積物からなる.緻密な岩塊を含む無層理塊状相と,低角の斜交葉理を持つ細粒火山灰の火砕サージ相をもつ.直下の古土壌から5,650~5,590cal yBP の14C年代が得られている.

Es-i火砕堆積物 (旧称Es-1bを再定義)
 Es-i火砕堆積物は,火口原東側~タカノス沢沿いで,厚さ3 cmの細粒黄褐色降下火山灰,及び厚さ50~270 cmの灰色火砕流堆積物からなる.火砕流堆積物は緻密な火山岩塊を含む無層理塊状相と,低角の斜交葉理を持つ細粒火山灰の火砕サージ相をもつ.

Es-h火砕堆積物 (旧称Es-1cを再定義)
 Es-h火砕堆積物は,火口原東側からタカノス沢沿いで,厚さ20~45 cmの黄褐色~灰色火砕流堆積物である.緻密な火山岩塊を含む塊状の基質支持相である.

Es-g火砕堆積物 (旧称Es-2を再定義)
 Es-g火砕堆積物は,火口原~南麓で,厚さ 5~20 cm の極細~細粒灰白色降下火山灰である.降下火山灰直下の黒色古土壌から4,570~4,420 cal yBPの14C年代が得られている.

Es-f火砕堆積物 (旧称Es-3aを再定義)
 Es-f火砕堆積物は,南麓で厚さ3~20 cmの細粒黄褐色降下火山灰,東麓の恵山岬で厚さ25 cmの茶褐色火砕流堆積物からなる (地点C:41°49'1"N, 141°10'55"E).降下火山灰は火山灰の偽礫や緻密な火山礫を含む.南麓の降下火山灰直下の古土壌から3,840~3,700 cal yBP の14C年代が得られている.

Es-e火砕堆積物 (旧称Es-3bを再定義)
 Es-e火砕堆積物は,恵山山頂溶岩ドームの東麓及び南麓で厚さ 3~10 cmの細粒黄褐色降下火山灰,及び灰白色火砕流堆積物からなり,黄褐色ラハール堆積物を伴う.火砕流及びラハール堆積物は火口原に分布する.直下の古土壌から3,210~3,010 cal yBP の14C年代が得られている.

Es-d火砕堆積物 (旧称Es-3c,3dを再定義)
 Es-d火砕堆積物は,恵山山頂溶岩ドームの南麓で厚さ3~20 cmの細粒黄褐色降下火山灰,及び厚さ 50~70 cm の灰白色火砕流堆積物からなる.火砕流堆積物は緻密な火山岩塊を含む無層理塊状相と,低角の斜交葉理を持つ細粒火山灰からなる火砕サージ相からなる.降下火山灰直下の古土壌から2,920~2,780 cal yBP の14C年代が得られている.

Es-c火砕堆積物 (旧称Es-3eを再定義)
 Es-c火砕堆積物は,火口原~恵山山頂溶岩ドーム南麓で厚さ5~10 cmの極細~細粒黄褐色降下火山灰と,恵山山頂溶岩ドーム東麓の恵山岬で厚さ75 cmに達し,低角の斜交葉理を示す細粒な灰白色火砕流堆積物からなり,黄褐色ラハール堆積物を伴う (地点C).降下火山灰は恵山山頂から南西 2 kmの地点 ( 図8B) で,緻密な火山岩塊及び火山礫を含み,インパクト構造を有することから,火口からの弾道放出物と考えられる (Miura et al., 2019).降下火山灰直下の黒色古土壌から2,680~2,350 cal yBPの14C年代が得られている.

Es-b火砕堆積物 (新称)
 Es-b火砕堆積物は,火口原西部から八幡川にかけて,厚さ5~10 cmの極細~細粒黄褐色降下火山灰である.厚さ2 cmの黒色古土壌を挟んで白頭山―苫小牧火山灰 (B-Tm) に覆われることから,約1,100年前頃に噴出したものと考えられる.

Es-a火砕堆積物 (旧称Es-4を再定義)
 Es-a火砕堆積物は,火口原から東麓及び南麓の火砕物台地上で厚さ5~10 cmの中~細粒黄褐色降下火山灰,東麓の火砕物台地上で,厚さ60 cm以上の中~細粒灰白色火砕流堆積物からなり,白頭山―苫小牧火山灰 (B-Tm) を覆う (地点D:41°48'45"N,141°10'19"E).火砕流堆積物は低角の斜交葉理を持ち,炭質物片を多量に含む.降下火山灰直下の黒色古土壌から920~800 cal yBPの14C年代が得られている.

Es-1846火砕堆積物 (旧称Es-5を再定義)
 Es-1846火砕堆積物は,恵山山頂溶岩ドーム東麓の火砕台地上で厚さ10~15 cmの中~細粒黄褐色降下火山灰,及び厚さ50 cmの中~細粒灰白色火砕流堆積物で,厚さ5 mのラハール堆積物 (弘化泥流:勝井ほか,1983;田近,2006) を伴う.火砕流堆積物は低角の斜交葉理を示す火山灰からなり,炭質物片を多量に含む.北海道駒ヶ岳d降下火砕堆積物 (Ko-d) を覆う (地点E:41°48'53"N,141°10'34"E).田近 (2006)は,文献による1846年7月当時の元村地区の被害状況と,弘化泥流堆 の火砕台地上で厚さ10~15 cmの中~細粒黄褐色降下火山灰,及び厚さ50 cmの中~細粒灰白色火砕流堆積物で,厚さ5 mのラハール堆積物 (弘化泥流:勝井ほか,1983;田近,2006) を伴う.火砕流堆積物は低角の斜交葉理を示す火山灰からなり,炭質物片を多量に含む.北海道駒ヶ岳d降下火砕堆積物 (Ko-d) を覆う (地点E:41°48'53"N,141°10'34"E).田近 (2006)は,文献による1846年7月当時の元村地区の被害状況と,弘化泥流堆積物の空間的不一致を指摘し,他の泥流,土石流が元村地区に達した可能性を指摘した.

Es-1874火砕堆積物 (旧称Es-6を再定義)
 Es-1874火砕堆積物は,噴火堆積物が保存されている最新の噴火とされている (勝井ほか,1983).地質調査では,Es-1874火砕堆積物と考えられる厚さ5 cmの粗粒黄褐色降下火山灰が,恵山山頂溶岩ドーム東麓で,局所的に認められ,下位のEs-1846火砕堆積物を直接覆う.

硫黄噴出物
 1845,1857,1876,1962年には硫黄の燃焼現象が報告されている(勝井ほか,1983;恵山町史編纂室,2007).恵山山頂溶岩ドームの,2つの爆裂火口 (X,Y火口) 内部の噴気地帯には,噴気孔周辺に飛散した硫黄噴出物が認められるが,噴出物の年代を特定できないことから地質図上では省略した.


5.2 完新世小規模噴火の規模と様式

 完新世の小規模噴火堆積物として認定した15の火砕堆積物において,恵山火山の全域に及ぶ規模のものは認められない.恵山山頂溶岩ドームの爆裂火口群を想定火口とした場合,半径 3 km の円内に,これら堆積物の確認地点がほぼ収まり,降下火山灰の最大層厚は20 cm以下である.一方で,Es-g,-k,-m火砕堆積物を除き,火砕流堆積物が,各イベント層準で確認されている.東麓,南麓,北麓のいずれの方向にも,山麓の集落付近まで達する火砕流堆積物が確認された.小規模噴火において,火山灰の降下は普遍的であり,かつ火砕流を発生する場合が多いことが特徴である.


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