aistgsj
第四紀火山>活火山>恵山
恵山火山地質図 解説地質図鳥瞰図

恵山火山地質図 解説目次

1:はじめに - 2:恵山火山の概要
3:恵山火山の形成史
4:噴出物の岩石学的特徴 - 5:完新世の小規模噴火
6:最近の活動状況 - 7:火山活動の監視体制 - 8:火山防災上の注意点
謝辞 - 引用文献

前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む

6:最近の活動状況 - 7:火山活動の監視体制 - 8:火山防災上の注意点

6:最近の活動状況

 恵山山頂溶岩ドームには,西側の爆裂火口内を始め,数カ所に硫黄鉱床が存在した.硫黄は火薬等の原料資源として,1763年に採掘が始まり,その翌年,1764年には,「硫黄気発動して工夷多く死亡せり」(「福山秘府」,「蝦夷旧聞」;椴法華村,1989) との記録がある.1845,1857,1876,1962年には噴気の活発化と硫黄の燃焼現象が報告されている (勝井ほか,1983).

 弘化3年 (1846年) の噴火 (Es-1846) では,大雨のため山崩れが発生し,山麓の人家が流亡したとされる (「大日本地震史料」;武者,1943).田近 (2006) はこれらの記述を再検討し,局地的な地震とそれに続く山鳴りを伴う水蒸気噴火により降灰及びラハールが発生し,一部では,豪雨による斜面崩壊,土石流が発生した可能性があると結論した.

 明治7年 (1874年) の噴火 (Es-1874) では,明治7年6月8日午後6時頃から,恵山山頂溶岩ドームの爆裂火口で,轟音を伴って激しい発炎がおこり,爆発のようにみえたという (「開拓史日誌」;勝井ほか,1983).恐らく噴気活動が急に活発化し,ごく小規模な水蒸気がおこったのであろう.この活動は約8時間後には終息した.


7:火山活動の監視体制

 恵山火山の常時観測は,気象庁が担っている.恵山山頂溶岩ドームの爆裂火口を想定火口とし,地震計 (3カ所,広帯域地震計を含む),傾斜計 (2カ所),空振計 (1カ所),GNSS (1カ所),監視カメラ (2カ所)を設置し,火山活動の監視・観測を行っている.また,2016年3月23日14時00分発表の噴火予報 (恵山) により,恵山に噴火警戒レベルの運用が開始された.広域地震観測網による浅部の地震活動及び深部低周波地震活動(1997年10月~2012年6月) では,恵山の南西側と北西側で深部低周波地震が起こっていることが判明している (佐鯉ほか,2001).恵山山頂溶岩ドームの爆裂火口付近の機動観測 (2005年7月24日~11月18日) では,海抜深さ0~1 km付近で発生する,火山性地震が観測されている(札幌管区気象台,2006).


8:火山防災上の注意点

 恵山火山において,現在も活発な噴気や地震活動が継続しているのは,完新世活動期の火山体付近のみであり ( 図6),完新世の小規模噴火はいずれも完新世活動期が継続している結果と考えられる.今後も完新世活動期が継続するならば,恵山山頂溶岩ドームの爆裂火口付近は最も噴火の発生しやすい場所であり,最も発生しやすい噴火様式は小規模噴火である.小規模噴火では降下火山灰をもたらすだけでなく,火砕流やラハールを伴う例が多い.過去の噴出物の到達域は,現在の居住地域に近接しているため,防災対策の立案においては過去の事例を十分考慮する必要がある.マグマ噴火の発生頻度は小規模噴火に比して低いが,恵山火山の活動は溶岩ドームの成長とそれに伴う火砕噴 火の発生が特徴であり,そのような噴火発生した場合は,噴火の継続時間が数ヶ月から数年に及ぶ可能性がある.前回のマグマ噴火から既に8,500年以上が経過していることから,マグマ噴火の可能性は中長期的視野に入れておく必要がある.

 恵山火山では,火山観測機器の設置以降に噴火が発生していないことから,観測によって,予兆となる火山現象を捉え,適切な警告を発することが確実ではない.小規模噴火の場合は,前兆が捉えられても,警告の発令が間に合わない可能性もあることから,避難準備等の事前対策を講じる必要がある.恵山火山では,2016年3月より運用開始された噴火警戒レベルの特徴として,火山活動が高まっている場合は,レベル2 (火口周辺規制) からレベル4 (避難準備) に一足飛びにレベルを上げることになっている.このような運用の工夫も,恵山火山の噴火特性に基づいて想定されたものである.噴火危機時の具体的対応については,自治体が公表する防災情報に詳述されている.


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む