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浅間火山地質図 解説地質図鳥瞰図
2:第四紀の火山岩類

鼻曲火山噴出物(Hn)
 軽井沢北西の県境の稜線部を占める一連の安山岩質火山岩類が形成する山体を鼻曲火山と総称する.一ノ字山東方の雌滝付近の溶岩流は正常帯磁で,約1×106年のK-Ar年代を示す.岩石は斑晶に富む普通輝石紫蘇輝石安山岩が主である.

浅間牧場安山岩類(Ab)
 湯川上流(白糸滝の谷)以北にひろがる浅間牧場の平坦な大地は一個の独立した火山体であると考えられ,浅間牧場安山岩類と呼ぶ.噴出中心は白糸滝の北方,県境付近であるらしく,噴出物の大部分は本質凝灰角礫岩(普通輝石紫蘇輝石安山岩又はデイサイト)から成る.小型火砕流の堆積物も含まれ,白糸火砕流と呼ぶ.

高度山安山岩類(Tk)
 高度山安山岩類は,白糸滝の谷の南側にひろがる,平らな山地を構成し,主として,普通輝石紫蘇輝石安山岩質の凝灰角礫岩と溶岩流の互層から成る.溶岩流の一部は,千ヶ滝の谷に露出している.

西千ヶ滝安山岩類(Ns)
 浅間牧場・高度両安山岩類と類似した特徴をもつ,凝灰角礫岩と溶岩流の互層が西千ヶ滝の台地を構成している.構造は不明である.

烏帽子火山(Eb)

 浅間火山の西に接して東西にのびる山稜を成す複合火山で,数ケの成層火山と溶岩円頂丘から成る.火山体は互いに一部重なり合い,東端のものがおそらく最も新しい.籠の登・高峯等の山塊をつくるのは,普通輝石紫蘇輝石安山岩質の溶岩流と火砕物質の互層から成る成層火山である.

草津白根火砕流堆積物(Ks)
 草津白根火山の噴出物で,浅間火山北麓に分布する厚い火砕流堆積物である.吾妻川・万座川の峡谷に露出し,高さ数10mの連続した崖をつくる.堆積物は非溶結から中程度に溶結した部分まで変化し,粗大な柱状節理をつくる.本質岩塊は灰白色の普通輝石紫蘇輝石デイサイト質で溶結作用が進んだ部分では,平行したレンズとなる.

三原層(Mi)
 現在の吾妻川の少し南側に,広く浅い低地が東西にのびていた.その低地を埋めた河川堆積物と湖底堆積物を総称して三原層と呼ぶ.最大厚さ50m以上で,河床礫,砂,粘土層や,泥流堆積物等の複雑な互層から成り,水平方向の岩相の変化が著しい.

離山溶岩円頂丘(Ha)・雲場火砕流(Kpf)
 軽井沢と中軽井沢の間にそびえる離山は,黒雲母普通輝石角閃石紫蘇輝石デイサイトから成る溶岩円頂丘である.円頂丘の東側と西側に各々厚く短い溶岩流が付着しているため,東西に伸長した地形を示す.黒雲母を特徴的に含む雲場軽石流堆積物も離山と同じ火口から噴出したものと考えられる.

浅間火山の地形と山体の構成
 浅間山の最高点は,現在の釜山火口の北東縁にあり,海抜約2,560mである.三角点は前掛山の海抜2,450.6mが最高である.浅問山の西部は黒斑山と呼ばれ,直径約1.5kmの旧火口が東へ向かって大きく口を開いた形になっている.その火口底は湯の平と呼ばれる.湯の平のすぐ東に前掛山があり,その山頂火口は2重になっている.外側の火口は東西1,100m,南北900mあり,西の縁が前掛山,東の縁が東前掛山である.内側の火口は釜山とよばれ,直径350mの火口縁の内側には径300m,深さ200mの垂直な壁を持つ火口があり,現在も活動している.

 火山としての浅間山は, 第1図に示すように,4つの火山体に分けられる.最も古いのが黒斑山であり,おそらく数万年くらい前から活動を開始した.次に仏岩溶岩流が噴出し,火山体を作った.これと平行して,あるいはその後に大規模な軽石流の噴出が起こり,主に南と北の裾野に展開した.これが第2期の活動である.第3期の活動は前掛山の噴火であり,数千年前から始まり,今でもなお続いている.

黒斑山(古期成層火山)
 黒斑山は富士山に似た成層火山で,中心に一個の山頂火口を持つ比較的単純な構造を示す.黒斑山の斜面は南側と北側によく発達し,多くの谷によって刻まれているが,原地形の大要は保存されている.黒斑成層火山の中心火口の位置は,現在の湯の平火口底の中央にあり,前掛山の新しい溶岩流の末端付近に来る.山頂火口の直径を500mと仮定すると,最盛期の山体の高さは2,800から2,900m位であった.
 黒斑山は,主としてかんらん石を含む普通輝石紫蘇輝石安山岩の溶岩と火砕物質から成るが,構成する岩石の岩相と構造上の不整合から次の三つのグループに分けられる.

牙(ぎっぱ)グループ(Kl)
 黒斑成層火山の初期に噴出された物質(主として火砕物質と溶岩流)は,三つのグループの内で最も多量であり,また岩相の変化が最も少ない.山体の中心部の牙グループは溶結した本質凝灰角礫岩や小量の凝灰集塊岩と比較的薄い溶岩流から成る.全体がよく溶結し,浸食に抵抗して独特の尖塔状の地形をつくる.

三ッ尾根グループ(K2)
 三ッ尾根グループは牙グループの上位に,目だった不整合を伴わずにのる.現在の山腹斜面を広く覆うため地質図上の分布は広いが,厚さは薄いので体積は黒斑成層火山全体の1/3を占めるにすぎない.溶岩の多くは,かんらん石斑晶を含むのが特徴である.

仙人グループ(K3)
 最上部層の仙人グループの溶岩流は仙人岩の北方斜面にのみ限られて分布する.牙・三ッ尾根両グループのものよりも明らかに珪長質で,流下の際の粘性が大きかったらしい.石基はきわめて細粒であり,捕獲岩片や捕獲結晶が部分的に濃集している.

黒斑山の降下軽石と火山灰堆積物
 浅間火山の東麓に堆積した降下火砕物の最下位に来る軽石層は,岩質から見て,黒斑成層火山の後期に噴出されたものと考えられる.関東地方北西部の「上部ローム」の下部にある,板鼻褐色浮石層(略称BP)は,主として濃褐色の雑色軽石と,多量の岩片から成るが,これも,黒斑上部の降下軽石堆積物に対比されるようである.

石尊山溶岩円頂丘(S)
 前掛山の南側中腹に位置する石尊山は比高約250mの溶岩円頂丘である.溶岩は珪長質の安山岩で,斑晶は斜長石・紫蘇輝石・普通輝石・不透明鉱物が主であり,石基には多量のトリディマイトと石英がみられる.

黒斑山東部の大崩壌と岩屑流(塚原岩屑流,K4,塩沢岩屑流,Sd,応桑岩屑流,Ok)
 小諸市の西方,岩村田南方の千曲川右岸約10km
2の地域には高さ数m-十数mの特徴ある形をした小丘(流れ山)が何十個とみられる.この地域に展開しているのは,黒斑山の東部の大崩壊によって発生した岩屑流の堆積物である.この堆積物は,1888年の磐梯山や1980年のセントヘレンズ火山の大噴火の際に生じた岩屑流と同じで,浅間山の東麓一帯を広く覆ったものと考えられる.塚原地域に見られるものを塚原岩屑流と呼び,南軽井沢地域に広がるものを塩沢岩屑流と呼ぶことにする.北麓では,応桑岩屑流堆積物が似た岩相を示し,これも黒斑火山の崩壊の産物である.この岩屑流が原因で,吾妻川から利根川上流にかけて発生した大規模な土石(泥流)の堆積物は現在でも各所に見られる(前橋泥流).

 黒斑火山の大崩壊の結果,火口壁の北東端にある仙人岩から北東に走る崖と,火口壁南東端,剣ヶ峰から南東に走る崖が生じた.両方の崖の面には溶岩流と火砕物質の互層が露出し,成層火山の構造をよく示している.

仏岩溶岩流(H1)
 現在の前掛山の南東斜面,高度2,200m付近の位置に頂上を持ち,南,南東,東に向かって傾斜する扇状あるいは4分の1円錐状の火山体が,前掛山の噴出物の下に隠れている.この山体は殆ど全部珪長質(SiO2=70-74%)のデイサイトの厚い溶岩流から成り,火砕物質は少ない.また,小浅間山は同質のデイサイトから成っているので,これら全体を総称して仏岩溶岩と呼ぶ事にする.

 仏岩溶岩はすべて斑晶として普通角閃石と強磁性チタン鉄鉱を特徴的に含む.石基は部分的に変化が著しく,急冷相ではガラス質だが,中心部は完晶質で斜長石,普通輝石,紫蘇輝石,不透明鉱物の他にアルカリ長石,トリディマイト,石英等が目立つ.

 前掛山の南側中腹にほぼ南北に連なる二段の大きな崖があり,仏岩又は弥陀ケ城岩と呼ばれる.この崖は断層崖の一つで,上下の崖面にはそれぞれ1枚ずつの厚い溶岩流の断面が露出している.巨大な柱状節理と流理構造が顕著で溶岩流の(断面の)下限と上限に近い部分はガラス質の石基を持つが,中心部は石質で灰白色の岩相を示す.

小浅間溶岩円頂丘(H2)
 小浅間山は仏岩溶岩主体と非常によく似た岩相のデイサイトから成る溶岩円頂丘であり,比高は約200m,円頂丘のほぼ中央を南北に断層が走り,西半分が東半分に比べて少し落ちているらしい.小浅間山の東方にある白糸の滝周辺には,白色の降下軽石堆積物が分布し,厚さは最大30mに達する(白糸降下軽石).これは小浅間山の活動の初期に同じ火口から噴出したものと考えられる.


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