秋田駒ヶ岳火山の活動は,噴火様式と形成山体の様相の違いから,主成層火山形成期,カルデラ形成期,後カルデラ活動期に3分することができます.
主成層火山形成期
主成層火山形成期は,約10万年前頃に開始し,恐らく1万数千年前頃まで継続したと思われます.山体は現在のカルデラ外輪山として残っていますが,カルデラ形成以前には現在の阿弥陀池付近に標高1700mあまりの山頂を持ち,北東-南西にやや伸張した「成層火山体」をなしていた,と推定できます(須藤・石井,1987).山麓部では薄い溶岩流が成層し,山頂部のカルデラ壁ではアグルチネート(溶結降下火砕物)が多く見られます.このことから,流動性に富んだマグマが,北東-南西方向に伸張あるいは並列した火口からハワイ式〜ストロンボリ式噴火を繰り返し,成層火山体を形成したことが伺えます.成層火山体では,未細分を含め29の噴出物が識別されています.構成岩石は,低カリウム,ソレアイト系列の玄武岩〜安山岩が圧倒的に多く,中カリウム,カルクアルカリ系列安山岩から成るのは2噴出物のみです.
カルデラ形成期
カルデラ形成期は,約13,000年前に起こったカルデラ(須藤・石井,1987による南部カルデラ)形成の時期に当たり,爆発的な噴火活動で特徴づけられます.爆発的噴火によって生保内火砕流ならびに小岩井軽石(和知ほか,1997のAK-13)を降らせたプリニー式噴火が発生し,成層火山の中央部から南部にかけての陥没によってカルデラが形成されました.
11,500年前頃に起こった,柳沢軽石(同じくAK-12)をもたらしたプリニー式噴火によっても,カルデラの陥没は更に進行した可能性があります.こうした,降下テフラをもたらす爆発的なプリニー式噴火と凹地形成は,約10,000年前の荒沢軽石(AK-9)でも起こったと考えられます.噴出したマグマの組成はいずれも低カリウム,ソレアイト質玄武岩質安山岩です.
後カルデラ活動期
後カルデラ活動期は,南部カルデラおよび藤縄・他(2004)による北部第1馬蹄型火口(あるいは須藤・石井,1987の北部カルデラ)が形成後,これらの凹地内にマグマが噴出し,山体を形成した時期です.噴出中心の位置と噴出時期とから,北部地域と南部地域に2分されます.また,カルデラ形成期から引き続いて,山体形成とともに降下テフラの堆積が行われました.山体東方にはカルデラ形成期および本期の活動に由来するテフラ層が合計13層確認されています.北部山体で10噴出物,南部山体では9噴出物が識別されています.テフラ層と山体構成物との対比から,北部山体の活動は約9,000年前から7,000年前頃までと,休止期を挟んで4,000年前頃に認められ,南部山体の活動は約2,500年前以降に限られます.最新のマグマ噴火活動は,1970-71年に女岳山頂で起こった溶岩流出をともなうストロンボリ式噴火です.後カルデラ期のマグマ活動は,溶岩流出を伴いつつ,火砕丘を形成する,ストロンボリ式噴火が主体であったと考えられます.噴出したマグマは低カリウムソレアイト系列の玄武岩〜安山岩が圧倒的ですが,唯一4,000年前頃に北部山体でカルクアルカリ安山岩マグマの噴出が確認されています.
カルデラ形成期〜後カルデラ活動期における降下テフラの模式柱状図(和知ほか,1997)