前兆:1932年当時,入山する人が少ない上,荒天であったことも災いして,噴火開始のタイミングはよく分かっていません.ですから,何時までが前兆なのかも不明です.
7月21日朝,国見温泉で人体に感じる地震が認められました.7月24日に荒天をついて横長根(カルデラの南東縁)を通過した登山者が,「曇天で周囲は全く見えないものの,衣服に灰が付着するのを不思議に思った」という証言をしています.
噴火の概要:視界の開けた7月25日に,登山者が新火口を発見しました.北東-南西方向に配列した11個ほどの火口が形成され(図2),ここから火山岩塊・火山礫・火山灰が噴出しました.最大の火口の大きさは,長径約70m,深さ約18mと記録されています.降灰は東方約15kmまで確認されました.火口近傍に落下した岩塊や礫はいずれも,火口周囲を構成している岩石で,熱いマグマ由来の岩塊(本質岩塊)は噴出しなかったようです.つまり,水蒸気爆発の可能性が高いと言えます.噴火は1ヶ月後にはほぼ完全に終息しました.
噴火の影響:死傷者や家屋の損壊などは皆無でした.ただ,国見温泉の泉温は従来36.5℃と,体温並みであったのが,同年8月に45℃に跳ね上がり,以後,おおよそその温度が保たれているようです(現在の源泉温度は約55℃).
図2 1932年噴火により形成された火口群.須藤・石井(1987)より引用