雲仙火山地質図 解説目次
1:はじめに - 雲仙火山周辺の地質 - 雲仙火山の概要
2:古期雲仙火山 - 新期雲仙火山
3:1663-64年噴火および1792年の噴火活動
- 1990年以降の噴火活動
4:火山活動の監視・観測 - おわりに
5:文献(火山地質図での引用)
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4:火山活動の監視・観測 - おわりに
火山活動の監視・観測
雲仙岳では,島原市に九州大学理学部島原地震火山観測所が,また小浜町雲仙温泉に気象庁雲仙岳測侯所があって雲仙岳周辺での地震活動などを監視し,観測体制を強化してきた.噴火開始後は,これらの機関に加えて,大学合同観測班や地質調査所,陸上自衛隊などが互いに協力しながら火山活動の監視・観測を行っている.得られた観測データをもとに,火山噴火予知運絡会が火山活動状況の検討を行っている.以下に地質調査所での主な観測について述べ,他の機関の観測についても項目を記した.光波測距観測点と地震計の配置については本図に示した.
地質調査所では,雲仙普賢岳の噴火活動に際して様々な観測を行ってきた.1991年2月に地獄跡火口の南側に最初の光波測距用の反射鏡を設置し,その後普賢岳周辺に測定網を展開していった.1991年5月13日には,明らかな山体の膨張(距離の短縮)が認められ,最大で10cm/日の変動が続いて1週間後に溶岩が出現した( 第6図)この時,地獄跡火口周辺は地溝状に沈降しその外側が押し出された.溶岩噴出後には,山体の膨張傾向は緩やかに続いていたが,1993年3月や11月-1994年7月に,山体北西側や南側で山体の一部が急激に膨張した.一方,眉山についても光波測距による山体変動観測を行っているが,異常は全く観測されてない.また,雲仙岳測侯所の地震計に記録された火砕流流走時の振動波形のエネルギー量から,火砕流の規模(崩落量)を推定した.この手法により,天候などに左右されずに火砕流崩落後ただちに規模が計算できるようになった.また,火砕流の累積堆積量は1994年9月14日の時点で,0.2km3となった.
他の機関の観測について,主なものを項目別にまとめた.
地震・火山性微動:九州大学や気象庁などによって設置された地震計により,微小地震の震源が精密に決められている.
目視観測:島原地震火山観測所及び大学合同観測班は,陸上自衛隊の協力を得て,上空から溶岩ドームの成長や火砕流の流下の状況を観測している.陸上自衛隊は24時間体制で火砕流や落石の監視を定点から行っている.
地殻変動(距離):普賢岳周辺と島原半島内にGPS観測点が設置され,山体変動や距離の変化が観測されている(九州大学,京都大学,国土地理院など).
地殻変動(高さ):水準測量が島原半島東海岸や西海岸などで行われている(国土地理院・京都大学).島原半島とその周辺の検潮場で,月平均潮位が測られている(国土地理院).
地殼変動(傾斜):普賢岳に設置した傾斜計で観測した振動の大きさや回数から日別の溶岩噴出量が求められている(九州大学・東京大学).
電磁気:プロトン磁力計により全磁力を測定している(京都大学,九州大学,気象庁).
重力:普賢岳周辺に重力計が設置され,精密重力測定が行われている(東北大学ほか).
おわりに
本火山地質図作成のために,既に公表されている多くの方々の研究成果を参考にした.現地調査では,九州大学島原地震火山観測所の太田一也所長をはじめ同所のスタッフの方々,大学合同観測班や,気象庁雲仙岳測侯所,及び陸上自衛隊の方々には大変お世話になった.また,応用地質(株)の小野晃司氏及び堀伸三郎氏,(株)京都フィッション・トラックの檀原徹氏からは貴重なご教示をいただいた.以上の関係各位に感謝申し上げる.