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第四紀火山>活火山>日光白根及び三岳
日光白根及び三岳火山地質図 解説地質図鳥瞰図
5:完新世の小規模噴火 - 6:最近の火山活動 - 7:火山防災上の注意点

5:噴出物の岩石学的特徴

5.1 三岳火山
 三岳火山の噴出物は,SiO2 = 59~68 wt.%,安山岩からデイサイトまでの組成範囲を持つ ( 第8図).斑晶鉱物として斜長石,単斜輝石,直方輝石,普通角閃石,不透明鉱物が普遍的に存在し,石英やかんらん石を含むことがある.刈込湖溶岩は黒雲母斑晶を稀に含む.刈込湖溶岩はSiO2 = 60~68 wt.%,光徳溶岩はSiO2 = 59~67 wt.%の組成範囲を持ち,光徳溶岩のほうが若干低いSiO2量を示す.SiO2–TiO2 ,SiO2–K2O変化図ではほぼ直線的な変化を示す.


5.2 日光白根火山
 日光白根火山の噴出物は,SiO2 = 60~71 wt.%,安山岩から流紋岩までの広い組成範囲を持つ (
第2表
).斑晶鉱物として斜長石,単斜輝石,直方輝石,普通角閃石,不透明鉱物が普遍的に存在し,その他石英やかんらん石を含むことが多い.デイサイト及び流紋岩中には,黒雲母斑晶を含むこともある.一部の噴出物は安山岩や流紋岩の限られた組成幅をもつものの,ほとんどの噴出物で,SiO2 = 61~68 wt.%と広い組成範囲を示す.活動期を通じて組成幅に顕著な変化は見られず,SiO2–TiO2,SiO2–K2O変化図でほぼ直線的に増加する.全岩化学組成は三岳火山の噴出物とほぼ重複するが,日光白根火山の噴出物はわずかにTiO2量に乏しい.


6:最近の火山活動
 1952年の噴気発生以降は,日光白根火山下で1993~1995年と2001年に地震活動が活発化し,2011年の東北地方太平洋沖地震後にも地震活動が活発化した (気象庁,2013).


7:火山防災上の注意点
 日光白根火山は,2022年現在,気象庁により24時間の監視が行われている.また,2016年12月から 「噴火警戒レベル」 が運用されている.本火山地質図から示唆される,火山防災上で留意すべきと思われる事項を以下に述べる.

7.1 三岳火山
 三岳火山では溶岩ドームが形成されたが,歴史記録や現在の山体に顕著な噴気は認められず,少なくともここ数百年程度の火山活動は低調であるといえる.三岳火山は小真名子や山王帽子火山のような,日光地域に複数存在する単成火山的な活動である公算が大きく,三岳自体が再噴火する可能性は低いとみられる.ただし,周辺に新たに別の単成火山が出現する可能性はある.

7.2 日光白根火山
 日光白根火山の噴火活動について,過去の噴火のパターンから今後考えられるのは,頻度の高い順に 1) 明治時代のような水蒸気噴火と火口噴出型ラハールの発生,2) 1649年噴火,7~8世紀及び12世紀の噴火のようなマグマ水蒸気噴火,3) 溶岩の噴出及び火砕物降下に至る規模大きいマグマ噴火,である.

 噴火のパターン1と2は,白根山の山頂周辺を火口として発生すると考えられる.最近1.4千年間に同様の活動が繰り返し発生しているため,将来も噴火する可能性が最も高い.噴火は数か月~1年程度の間で,複数回発生する場合もある.個々の噴火の規模は,水蒸気噴火の場合VEIスケールで1~2,マグマ水蒸気噴火の場合は3程度であると考えられる.

 噴火のパターン1の特徴を,詳しい記録の残る明治年間の噴火からまとめると,その推移は以下のようになる.①噴煙活動の活発化,②噴火直前に鳴動,③噴火により火砕物の降下と火口噴出型ラハールの発生.噴火の前後に噴気活動が認められない時期があること,現在の日光白根火山には噴気孔や噴煙などは認められないことから,噴気・噴煙活動の発生は,火山活動活発化の重要な指標となる.

 噴火のパターン1及び2が発生した場合は,白根山近傍で径数十 cmの岩片が火口から放出されると想定されるため,山頂から半径1 km の範囲にある白根山,座禅山,弥陀ヶ池,五色沼周辺などは非常に危険である.山麓では白根山の東~南東に位置する戦場ヶ原で降灰の可能性が高く,季節や天候によっては日光市街,北側の福島県や西側の片品村へも降灰する可能性がある.また,厚く堆積した噴出物が数年に渡って土石流の原因となる可能性もある.

 片品村側では,火口噴出型ラハールを直接の原因とした災害に特に注意する必要がある.白根温泉周辺は川幅が狭いため,水位が急激に上昇し被害が発生する可能性が高い.融雪や降雨時に発生するとラハールの規模が大きくなり,被害も大きくなる可能性もある.

 噴火のパターン3で新たにマグマ噴火が起こる場合,溶岩流出または火砕丘をつくるブルカノ式噴火及びそれらに伴う火砕流の発生に注意が必要である.日光白根火山は最近7.6千年間に,3つの噴出中心(白根山及び座禅山山頂部と血ノ池地獄周辺) で安山岩~デイサイトの溶岩流出とテフラの噴出を繰り返している.白根山山頂部ばかりでなく,より幹線道路に近い血ノ池地獄周辺からマグマ噴火が発生する場合も考慮しておく必要がある.


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