霧島火山地質図 解説目次
1:はじめに - 霧島火山周辺の地質 - 霧島火山の地形と地質
2:霧島火山の活動史 - 歴史時代の噴火
3:火山活動の監視体制 - 火山防災上の注意点 - 火山の恵み
4:謝辞 - 文献(火山地質図での引用)
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3:火山活動の監視体制 - 火山防災上の注意点 - 火山の恵み
火山活動の監視体制
鹿児島地方気象台では,新燃岳の南西約1.7kmの地点に地震計を設置しているほか,主要な噴気地帯の噴気ガスの温度や組成の観測を定期的に行っている.東京大学地震研究所霧島火山観測所では,地震計15点,磁力計7点,GPS基地3点など多数の観測点を配置し,地震,地磁気,噴気・地中温度,地殻変動などの連続・繰り返し観測を行ない,噴火予知の研究を進めている( 第5図).
また,地質調査所,東京工業大学,京都大学,鹿児島大学,防災科学技術研究所などによる臨時観測および調査も行われている.この地質図には,気象庁,東大地震研究所が設置し,常時観測を行っている地震計の位置を示した.
火山防災上の注意点
霧島火山の歴史時代の噴火は,御鉢,新燃岳,硫黄山で発生しているが,1998年に周辺自治体によって作成された『霧島火山防災マップ』では,これらに加えて顕著な地震が観測されている,大幡池付近での噴火を想定している.歴史時代の噴火では,噴出物の量が岩石換算体積(DRE)の総量で1×108m3を超えるものはまれで,ほとんどがDREの総量で1×106m3以下の規模のものであった.『霧島火山防災マップ』では,DREの総量で1.6×108m3程度の噴火を大規模(500年に一度発生),DREの総量で4×106m3程度の噴火を中規模(数10年に一度発生)として,それぞれの危険区域を想定している.
新燃岳で最近300年間に起こった比較的規模の大きな噴火では,時間の経過とともに,水蒸気爆発,マグマ水蒸気爆発からマグマ噴火と噴火様式が変化したことが明らかにされている.新燃岳の今後の噴火災害の予防・軽減のためには,このような噴火の推移の特徴をよく理解しておく必要があるだろう.
霧島火山では,平均すると数1000年に一つくらいの割合で,新たな火山体が生じるような噴火活動が行われてきており,今後もそのような活動が起こる可能性がある.そのときには,局地的な地震や地殻変動などの顕著な異常現象が予想されるので,注意深く監視を続ける必要がある.また,過去には山体の大規模な崩壊も夷守岳や韓国岳で発生している.大規模な山体崩壊が発生した場合,被災地域は壊滅的な打撃を受けるので,夷守岳,大幡山,高千穂峰,御鉢など,比較的急峻な山容をもつ火山では注意が必要である.
一方,霧島火山には数多くの噴気変質地帯が存在しており,そこでは水蒸気爆発,地すべり,陥没などが,ごく普通に発生する可能性がある.最近では,1971年に手洗温泉付近の噴気変質地帯で地すべりと水蒸気爆発が発生しているほか,1980年には硫黄谷地区で高温ガスの異常突出によって道路の一部が陥没した.また,噴気地帯での火傷や温泉入浴中のガス中毒などの事故も発生している.噴気地帯に不用意に近づくことは慎み,温泉入浴に際しては換気などに注意をはらう必要があろう.
火山の恵み
霧島火山は,日本で最初に指定された国立公園の一つで,四季を通じて多くの登山客や観光客が訪れ,火山を中心とした雄大な景観を楽しんでいる.また,霧島火山には周辺部を含めて温泉も多く,その種類も多様で,「霧島の温泉」は南九州観光の目玉の一つとなっている.さらに火山深部のエネルギーを利用した,地熱発電も行われている.現在,大霧(3万kW)と霧島国際ホテル(100kW)の二つが稼働している.山麓に分布する溶岩流の一部は石材として採石されており,小林軽石や御池軽石などのテフラは園芸用土として利用されている.