aistgsj
第四紀火山>活火山>富士山
富士火山地質図 解説地質図鳥瞰図

富士火山地質図 解説目次

1:はじめに - 2:地質概説 - 3:研究史
4:地質記載
5:噴出物の岩石学的特徴 - 6:終わりに
謝辞 / 引用文献

前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む

5:噴出物の岩石学的特徴 - 6:終わりに

5:噴出物の岩石学的特徴

 富士火山の噴出物は主に玄武岩からなり,玄武岩質安山岩,安山岩,デイサイトを極少量伴う.このうち玄武岩は全活動期を通じて噴出し,斑晶として斜長石±かんらん石±単斜輝石±斜方輝石から無斑晶状までの幅広い組み合わせを持つ.一方,玄武岩質安山岩は須走-c期に,安山岩及びデイサイトは須走-c期のS-13(砂沢)降下スコリア堆積物(町田,1964;宮地,1988;本地質図に図示されない)及び須走-d期の宝永噴出物下部といった限られた噴火ユニットに産出するにすぎず,これらの斑晶組合せの多様性は乏しい.

 全活動期を通じて噴出する玄武岩に注目すると,噴出物の全岩化学組成は SiO2=48.7〜51.9 wt%,MgO=4.2〜6.5 wt%,K2O=0.47〜1.00 wt%,FeO*/MgO比=1.7〜2.8の組成幅を持つ.SiO2量が増加するとMgO量は減少,K2O量は増加する傾向にあり, K2O量,FeO*/MgO比のばらつきが大きいのが特徴であるが(富樫ほか,1991;高橋ほか,1991;高橋ほか,2003;Yoshimoto et al., 2004;石塚ほか,2007;Kaneko et al., 2010;金子ほか,2014),全活動期を通して分化の進んだ玄武岩マグマのみが噴出している(藤井,2007). 付表1 には,本地質図で図示した岩相層序単元ごとに,全岩SiO2量,MgO量,K2O量の平均値をまとめた.

 玄武岩を活動期ごとに見ると,噴出物の岩質及び全岩化学組成は活動期ごとに異なっているが,これらは漸移的に変化している.星山期火山噴出物では,長径3 mm以下の斜長石斑晶を含むかんらん石玄武岩を主とし,液相濃集元素に乏しいことで特徴づけられる(富樫ほか,1991;高橋ほか,1991;富樫・高橋,2007).一方で活動期の境界付近では,西山麓と南山腹でのボーリングコアで,地下に伏在する星山期の末期から富士宮期への噴出物はマグマの組成変化は連続的である(富樫ほか,1997;宮地ほか,2001).星山期のマグマ供給系として,Kaneko et al.(2010) は古期富士テフラの全岩化学組成とメルトインクルージョンを分析し,大量の深部マグマ溜まり由来の玄武岩マグマと少量の浅部マグマ溜まり由来の安山岩マグマの混合が卓越するモデルを提示している.

 富士宮期の噴出物は,下位の星山期のものとは岩質が異なり,最大長径が4〜12mmの大型の斜長石斑晶に富む玄武岩が卓越し,無斑晶状玄武岩を伴う.特にSiO2量が増加するとK2O量,FeO*/MgO比のばらつきが大きいのが特徴である.南西山麓でのボーリングコアでは,この期の溶岩流は,FeO*/MgO比が下位のもので1.7〜2.3,上位のもので2.2〜2.8と明瞭な違いがあり,この組成変化は富士宮期途中の Cal BC 9600〜Cal BC 8600年頃におきたとされる(山元ほか,2007).

 須走期では,降下スコリア堆積物の化学組成は,町田(1964)の古期富士テフラ群よりも系統的に高いSiO2量を持っており,その原因は須走-a期の活動低下期を挟んで浅部マグマ溜まりの分化が進んだことにあると考えられている(金子ほか,2014).


6:終わりに

 富士火山では,宝永噴火を最後に噴火は発生しておらず,表面的には火山活動が停止しているかのように見える.2015年現在,噴気活動も確認できない.しかし,1980年代以降,富士山の地下10〜20 kmを震源とする低周波地震が繰り返し群発していることが認識され,特に2000年9月から2001年5月には過去と比較して一桁以上の高い発生率の群発地震が発生している(Ukawa, 2005;鵜川,2007).その後,低周波地震は元の活動レベルに戻ったものの,この時の群発地震は富士山でも噴火の危機があることを強く印象づけることとなった.このような背景から,富士山噴火のハザードマップが内閣府の主導のもと作成され,2004年に公表されている(荒牧,2007).

 火山噴火の詳細な履歴は,対象とする火山の将来予測に不可欠な情報であることは言うまでもない.過去11,000年間の,さらに,詳細な過去2,200年間の噴出率変化(階段ダイアグラム)は宮地(2007)よって示されている.本地質図で明らかにしたように,最近8,000年間では須走-a,-b,-c,-dのように1,000年から数1,000年間継続する活動期が設定でき,活動期内においては類似した噴火活動が繰り返されている.その一方で,活動期が変わると卓越する噴火様式も変化し,しかも,その変化に特定の傾向は認め難い.BC 300年頃から始まった山腹割れ目噴火による溶岩流出の卓越する活動も,明らかにAD 1100年頃から停止しており,AD 1707年の爆発的な宝永噴火はそれ以前の須走-d期の活動としては特異なものである.このような活動様式の変遷を踏まえると,富士火山の活動期は既に新たなステージへと移行している可能性が高く,次の噴火の様式を想定することは非常に困難な時期にあると言えよう.富士火山でおこり得る様々な噴火様式を想定した内閣府のハザードマップは,このような富士山の噴火履歴の特徴を反映しており,防災対応としては現実的である.本地質図で明らかとなった噴火履歴の詳細化が,かえって噴火様式予測の不確実性を炙り出す結果となっているが,この点を理解した上での対応が,今後の富士山の防災計画にも求められよう.


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む