阿蘇カルデラ阿蘇4火砕流堆積物分布図 解説目次
1:はじめに
2:阿蘇カルデラと阿蘇4噴火
3:阿蘇4火砕流堆積物分布図
4:阿蘇4噴火の噴出量
5:謝辞・協力・出典 / 引用文献
6:Abstract
付図
付録
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4:阿蘇4噴火の噴出量
これまでいくつかの研究により阿蘇4噴火の噴出物の体積が見積もられている.たとえば,町田ほか(1985),町田・新井(2003)は阿蘇4火砕流堆積物と阿蘇4火山灰の見かけ体積をそれぞれ200 km3以上,400 km3以上と見積もった.山元(2015)は阿蘇4噴火の噴出量を町田・新井(2003)の推定値からDRE(緻密岩石換算)体積で384 km3とした.Takarada and Hoshizumi(2020)は阿蘇4噴火の噴出量の見かけ体積を930〜1,860 km3,質量を1.2〜2.4×1015 kgと見積もった.
4. 1 阿蘇4火砕流堆積物の分布復元及び噴出量推定
Takarada and Hoshizumi(2020)は,阿蘇4火砕流堆積物の現存分布,合計約3,000点のボーリングコア,露頭,地形データなどによる層厚データに基づき,阿蘇火砕流堆積物の噴火直後の層厚分布を推定した.現在の阿蘇カルデラの地形的カルデラ壁よりも外側の火砕流堆積物については,町田ほか(1985)や町田・新井(2003)の推定による阿蘇4火砕流堆積物分布域を7.0×5.5 kmのグリッドに分割し,グリッド内に含まれる層厚測定地点からそれらの最大値,最小値及び平均値を得た.また復元分布域の外周では,火砕流堆積物の層厚を0とした.層厚測定地点が含まれないグリッドの層厚は,周囲の層厚測定値からクリギング法(空間補間法;Davis,1986;Yamamoto,2000)を用いて推定した.各グリッドに与えられた層厚とグリッド面積を乗じて各グリッド内の火砕流堆積物の体積を算出し,すべてのグリッドを合計して火砕流堆積物の見かけ総体積とした.計算には層厚の最大値,最小値及び平均値をそれぞれ用いた.溶結部と非溶結部は個別に体積を算出し,非溶結部(平均密度1,100 kg/m3)及び溶結部(平均密度2,000 kg/m3)の質量を合計して総質量を算出した.以上から,阿蘇カルデラ外部に堆積した阿蘇4火砕流堆積物の見かけ体積を245〜720 km3,質量4.2〜11.8×1014 kgと推測した.カルデラ内部の火砕流堆積物については,カルデラ内部でのボーリングデータにより確認された阿蘇4火砕流堆積物の層厚(NEDO, 1995; 星住ほか,1997)を,重力異常分布から推測されるカルデラ陥没領域(駒沢,1995)の面積で乗じ,カルデラ内部に堆積している阿蘇4火砕流堆積物の見かけ体積を90〜220 km3,質量1.4〜3.0×1014 kgと推測した.なお,阿蘇カルデラ内部のボーリングはすべて阿蘇4火砕流堆積物の基底に届いていないため,得られた層厚及びそれに基づく体積見積もりは最小値である.カルデラ内外で推測された阿蘇4火砕流堆積物の体積及び質量を合計し,阿蘇4火砕流堆積物の復元体積を見かけ体積340〜940 km3(DRE(緻密岩石密度2,500 kg/m3と仮定)体積225〜590 km3以上),質量5.6〜14.8×1014 kgと見積もった.
4. 2 阿蘇4火山灰の分布及び噴出量推定
阿蘇4火山灰は,日本列島全域及び周辺の広い範囲で見出されている(
第9図 ).これらの層厚データを基に,いくつかの研究により阿蘇4火山灰の体積が見積もられている.
町田ほか(1985)は,阿蘇4火山灰のおおよその分布面積を4×106 km2と見積もり,そこに平均層厚を10 cmと仮定して,見かけ体積を400 km3以上と見積もった.これは,阿蘇4火山灰の見かけ密度を1,000 kg/m3,緻密岩石密度を2,500 kg/m3と仮定すると,DRE体積で160 km3に相当する.
須藤ほか(2007)は,町田・新井(1992)の阿蘇4火山灰の等層厚線を補完し,その距離層厚関係を用いて阿蘇4火山灰の見かけ体積を1,051 km3と見積もった.これはDRE体積で420 km3に相当する.
Takarada and Hoshizumi(2020)は,阿蘇4火山灰の陸域と海域の層厚データから等層厚線を作成し,それぞれの等層厚線に囲まれる面積と層厚との関係を指数関数で近似し,宝田ほか(2001)で使用された区分積分法を用いて阿蘇4火山灰の見かけ体積を算出した.現在の阿蘇カルデラの地形的外縁(層厚300 cmと仮定)で囲まれる領域より外側で,108 km2(層厚0.1 mm)の等層厚線で囲まれる領域の内側の領域を3区間に分けて積分し,その合計体積を求めた.その際,北海道東部に知られている阿蘇4火山灰層が厚く堆積する地域を等層厚線に包含した場合と,異常値として無視した場合の二通りの等層厚線分布を作成し,それぞれに対して阿蘇4火山灰の見かけ体積として,920 km3及び590 km3を得た.これはDRE換算体積で370 km3及び240 km3に相当する.
Rougier et al.(2022)は,阿蘇4火山灰の地点層厚データから機械学習と統計処理により層厚分布を作成し,阿蘇4火山灰の見かけ体積の95 %の信頼区間として220〜370 km3と見積もった.これは,DRE 換算で88〜149 km3に相当する.
