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阿蘇カルデラ阿蘇 4 火砕流堆積物分布図 解説分布図
  2:阿蘇カルデラと阿蘇4噴火

2. 1 阿蘇カルデラ周辺の基盤岩類及び火山岩類 注1)
 阿蘇カルデラの位置する中部九州地域は鮮新世〜第四紀の火山噴出物に広く覆われている.大分県北東端の姫島から南南西方向に両子山(ふたごさん),鶴見岳(つるみだけ),九重山(くじゅうさん)そして阿蘇山(あそさん)の各火山が配列し,火山フロントをなしている.また,九州を東西に横断する別府– 島原地溝(松本,1979)には,火山フロントから背弧に向かって鶴見岳,由布岳(ゆふだけ),九重山,阿蘇山,雲仙岳(うんぜんだけ)などの活火山が東北東– 西南西方向に配列している( 第1図).

 中部九州地域では,阿蘇カルデラ以外の地域でも大規模火砕流の噴出が繰り返し発生している.九重火山北方の猪牟田(ししむた)カルデラからは,耶馬溪(やばけい)火砕流(1.0 Ma)と今市(いまいち)火砕流(0.85 Ma)が噴出した(Kamata,1989;鎌田ほか,1994).また由布川(ゆふがわ)火砕流(0.6 Ma;星住ほか,1988;星住・鎌田,1991)や九重火山起源の宮城(みやぎ)火砕流(0.15 Ma),下坂田(しもさかた)火砕流(0.11 Ma),飯田(はんだ)火砕流(0.054 Ma)(小野ほか,1977;鎌田ほか,1998;長岡・奥野,2015)などのカルデラを伴わない規模の火砕流の噴出も知られている.

 注1) 2. 1 節「阿蘇火山周辺の基盤岩類及び火山岩類」,及び 2. 2 節「阿蘇火山の噴火活動史」は,「大規模火砕流分布図3 阿蘇4火砕流分布図」,「大規模火砕流分布図4 阿蘇3火砕流分布図」で内容が共通するため,ほぼ同一の解説文を用いている.


 2. 2 阿蘇カルデラの噴火活動史
 阿蘇火山は,九州中央部に位置する複成のカルデラ火山である.阿蘇カルデラの地形的カルデラ壁は,南北約25 km,東西約18 km,比高 300〜700 mであり,国内最大級の大きさを誇る.カルデラの内側には堆積物で埋積された平坦なカルデラ底が広がり,その中央部には東西に延びる後カルデラ中央火口丘群(以下,中央火口丘群)がある.中央火口丘群は,現在も活発な噴火活動を繰り返す中岳のほか,いくつもの完新世の若い火山体を含む活火山群である(小野・渡辺,1985).本論では,阿蘇カルデラとそれに伴う中央火口丘群を阿蘇火山と総称し,4 回の大規模火砕流噴火によって形成された陥没凹地及び陥没構造を阿蘇カルデラと呼ぶ.

 阿蘇火山噴出物は,全岩化学組成がカリウムやナトリウムなどのアルカリ元素に富み(小野ほか,1977;小野・渡辺,1983など),阿蘇火山周辺に分布し阿蘇火山より古い先阿蘇火山岩類(小野,1965)や,阿蘇火山と同時代の九重火山などの火山岩とは明確に異なる特徴を示す.

 阿蘇火山は,繰り返し大規模火砕流を放出し,現在の阿蘇カルデラを形成した.小野ほか(1977)は,間に顕著な休止期を挟まない一連の噴火活動を“噴火サイクル”と呼び,阿蘇火山では大規模な火砕流を放出する“噴火サイクル” が4回あったことを明らかにし,それぞれの噴火サイクルで噴出した火砕流堆積物を古い方から阿蘇1,阿蘇2,阿蘇3,阿蘇4火砕流堆積物 注2)と呼んだ.本報告ではこれらの大規模火砕流噴火を,それに伴う降下テフラの活動も含めて,阿蘇1噴火,阿蘇2噴火,阿蘇3噴火,阿蘇4噴火と呼ぶこととする.阿蘇1,2火砕流堆積物は,カルデラからおよそ 20〜30 kmまで分布を確認できる.阿蘇3火砕流堆積物は九州東岸にまで,阿蘇4火砕流堆積物は長崎県島原半島や山口県にも分布する.これらの大規模火砕流噴火の間には,大規模火砕流噴火よりは小規模な降下火砕物や溶岩を放出する噴火活動が知られている(小野ほか,1977;星住ほか,2022).

 注2) 阿蘇4火砕流の表記として,“Aso-4火砕流”(小野ほか,1977; 小野・渡辺,1985など)や“阿蘇–4火砕流”(今井ほか,1982;星住ほか,1988など)という表記がこれまで使われてきたが,火砕流に 由来する広域火山灰は阿蘇4火山灰と呼ばれ(町田ほか,1985;町田・新井,2003など),表記が統一されていない.ここでは,星住ほか (2015)などと同様に,“阿蘇4火砕流”という表記を用いる.阿蘇1,2,3火砕流なども同様に表記する.


 阿蘇火山噴出物の層序の概略を 第2図にとりまとめた.阿蘇火山の最初期の噴出物は,阿蘇カルデラ東縁に分布する約28万年前に噴出した古閑(こが)溶岩である.古閑溶岩は安山岩溶岩で,他の阿蘇火山噴出物と同様に,先阿蘇火山岩類に比べてアルカリ元素に富む全岩化学組成をもつことから阿蘇火山の噴出物とみなされる.古閑溶岩は土壌層をはさんで阿蘇1火砕流堆積物に覆われる(田島ほか,2017).

  阿蘇1噴火は約27万年前(松本ほか,1991)に発生した阿蘇火山最初の大規模火砕流噴火である.その堆積物の基底部には降下軽石層を伴う(小野ほか,1977).田島ほか(2017)は,阿蘇1噴火堆積物を下位から阿蘇1P降下火砕堆積物,阿蘇1火砕流堆積物の主部であるデイサイト質の阿蘇1A火砕流堆積物,阿蘇1噴火末期の玄武岩質安山岩質の阿蘇1B火砕流堆積物に区分した.

 阿蘇1噴火と阿蘇2噴火の間には,溶岩流(阿蘇2/1溶岩)や降下火砕物(阿蘇2/1テフラ群)の噴火が知られている.阿蘇2/1溶岩は,カルデラ東方の玉来川(たまらいがわ)溶岩(小野ほか,1977),カルデラ北縁の象ヶ鼻溶岩及び北西縁の的石溶岩(小野・渡辺,1983),カルデラ西縁付近の外牧(ほかまき)溶岩(渡辺ほか,2021)のほか,カルデラ西方では秋田溶岩(渡辺・小野,1969)が知られている.また同じくカルデラ西方の赤井火山もこの時期に砥川(とがわ)溶岩を流下させた(渡辺・小野,1969).阿蘇2/1テフラ群は,小野ほか(1977)にその存在が記されているが詳細な層序は報告されていない.

 阿蘇2噴火は約14万年前(松本ほか,1991)に発生した.その噴出物は下位から阿蘇2A火砕流堆積物,阿蘇2B火砕流堆積物(渡辺・小野,1969),阿蘇2T降下スコリア(小野ほか,1977)である.阿蘇2A火砕流堆積物の下位には,阿蘇2R火砕流堆積物(小野・渡辺,1974),阿蘇2TL降下軽石,阿蘇2V降下スコリア(小野ほか,1977)が報告されている.これらのユニットは,2A火砕流の噴出に先行する噴火堆積物であるが相互の噴出順序はよくわかっていない.

 阿蘇2噴火と阿蘇3噴火の間には軽石を含む降下火砕物(阿蘇3/2テフラ群)の噴出が知られており,その噴出物は下位からS,R,OPQ,Uと呼ばれる(小野ほか,1977).このうち,3回目のOPQテフラが最も規模が大きい.

 阿蘇3噴火は約13万年前(松本ほか,1991;長橋ほか,2007)に発生した大規模火砕流噴火である.阿蘇3噴火の詳細については「大規模火砕流分布図 3阿蘇カルデラ阿蘇3火砕流堆積物分布図」にて報告する.この噴火の噴出物は下位から阿蘇3W降下軽石,阿蘇3A火砕流堆積物,阿蘇3B火砕流堆積物,阿蘇3C火砕流堆積物である(小野ほか,1977).阿蘇3A火砕流堆積物は本質物としてデイサイト軽石を,阿蘇3B火砕流堆積物は安山岩スコリアを,阿蘇3C火砕流堆積物は多斑晶の安山岩スコリアを含む.

 阿蘇3噴火と阿蘇4噴火の間には,37層以上の降下火砕物(阿蘇4/3テフラ群)を噴出した活動が認められる.この間の噴火活動は苦鉄質スコリア噴火から始まり,徐々に噴火間隔が短くなってから珪長質軽石噴火へ変化してから噴火規模が大きくなった.阿蘇4火砕流噴出の約1万年前からは噴火頻度が低下し,斑晶組み合わせも変化した(星住ほか,2022).また,阿蘇カルデラ西方の大峯(大峰)火山 注3) は,阿蘇4噴火前の近い時期に噴出したもので,火砕丘と厚い溶岩流から構成される(渡辺・小野,1969).

 注3) 渡辺・小野(1969)は大峰火山と表記したが,地理院地図の地名表記にあわせて大峯火山と表記する.


 阿蘇4噴火は約9万年前に発生した阿蘇火山最大の噴火である.松本ほか(1991)は,阿蘇4火砕流堆積物のK–Ar年代測定値として89±7 kaを報告した.長橋ほか(2004,2007)は長野県高野層中の阿蘇4火山灰の層位と酸素同位体比との対応から,阿蘇4噴火を88.0 kaとした.Aoki (2008)は北西太平洋海洋底のコア中の阿蘇4火山灰の層位と酸素同位体比から,阿蘇4噴火の年代を87 kaとしている.Albert et al.(2019)は,阿蘇4火砕流堆積物中の角閃石結晶の40Ar/39Ar年代値として86.1±1.1 kaを報告している.阿蘇4噴火の詳細については次章で記述する.

 阿蘇4噴火のあと,カルデラ内に現在の中央火口丘群が生成された.中央火口丘群は,高岳(標高 1592.3 m),中岳(1506 m),烏帽子岳(えぼしだけ)(1336.7 m),杵島岳(きしまだけ)(1326 m),往生岳(1237.5 m),米塚(こめづか)(954 m)などの山体の集合体であり,玄武岩質からデイサイト質の成層火山体,火砕丘,溶岩ドームなどからなる.また,これらの火山体の下位にはもとの火山体の形がわからないより古い噴出物が一部に露出している(小野・渡辺,1983,1985).

 中央火口丘群の噴火活動では,数10層にも及ぶ降下火砕物の噴出が認められる(宮縁ほか,2003,2004;Miyabuchi,2009,2011).その多くは降下スコリアであり,降下軽石を伴っている20世紀半ば以降の噴火活動は,すべて中岳第1火口で起きている(気象庁,2013).黒色砂状の火山灰を放出する灰噴火(小野ほか,1995;Ono et al.,1995)のほか,活発な時期にはスコリアを放出するストロンボリ式噴火やマグマ水蒸気爆発をしばしば起こしている(渡辺・池辺,1996;池辺ほか,2008;Miyabuchi et al.,2018).


2.3 阿蘇4噴火の推移と阿蘇4火砕流堆積物
 阿蘇4噴火は,最初期の小規模な降下火砕物と火砕流を噴出する活動で開始し,大規模火砕流の噴出に移行した.阿蘇4火砕流堆積物は,本質物の種類(軽石かスコリアか),堆積物の岩相(色調,粒度,溶結度など),本質物の岩質(斑晶量,斑晶組み合わせ,全岩化学組成など)の違いにより複数のサブユニットに区分される( 第1表).これらのサブユニット間には長い時間間隙を示す土壌層や顕著な侵食間隙などは認められないことから,ほぼ連続的に噴出・堆積したと考えられる.阿蘇カルデラの西側では阿蘇4火砕流堆積物の粒度や構成物の変化が大きく,多数のサブユニットに区分されている.一方,東側には西側にはない最初期のサブユニットが確認されるが,西側で認められるスコリアを多量に含むサブユニットを欠いている.このようにサブユニット区分は,カルデラの西側と東側で異なっている.これらのサブユニットを本質物の化学組成や斑晶組み合わせの変化や岩片濃集層の存在などに着目して,阿蘇4噴火を噴火の推移の順に第1期から第4期の4つのステージに区分した( 第1表).Watanabe(1979)が,西側の阿蘇4火砕流堆積物を本質物の全岩組成変化から識別した2つの“サブサイクル” は,本報告の第3期及び第4期に相当する.

 阿蘇4噴火最初期,第1期の噴出物はカルデラ東側近傍(カルデラ壁から10数 km以内)で観察できる.下位から阿蘇4X降下軽石及び阿蘇4X火砕流堆積物である.阿蘇4X降下軽石は,阿蘇4/3テフラ群最上部のYテフラを土壌を挟んで覆い,他の阿蘇4噴火の堆積物とは異なり黒雲母斑晶を含むことが特徴である.熊本県高森町胡桃原(くるみわら)では,厚さ約1.3 mの阿蘇4X降下軽石があり,それを同質の火砕流堆積物(阿蘇4X火砕流堆積物)が直接覆う(星住ほか,2022).

 第2期の噴出物は,下位から4L降下火山灰及び4S火砕流堆積物である.阿蘇4L降下火山灰は,カルデラ縁から東側10 km以内で確認され,後述の4S火砕流堆積物の基底にある成層した青灰色の火山灰層である.最大層厚はカルデラ東縁で15 cmである.阿蘇4S火砕流堆積物は,カルデラ縁の東側と北側10 km以内で確認できる.白色軽石を含む非溶結の火砕流堆積物で角閃石斑晶をわずかに含み,第3期の阿蘇4A火砕流堆積物の岩片濃集層に覆われる.

 第3期の噴出物は,阿蘇4噴火による噴出物の大部分を占める.第3期の噴出物基底には顕著な岩片濃集層を含むのが特徴である.阿蘇カルデラ西側では6つのサブユニットに区分される(Watanabe,1978).

 阿蘇4O火砕流堆積物は,カルデラ西方の熊本県益城町小谷(ましきまちおやつ)付近に分布する白色軽石を多量に含む非溶結の火砕流堆積物である.Watanabe(1978)の “Oyatsu white pumice-flow” に相当し,層厚が厚いにもかかわらず全体に非溶結であるのが特徴である.本質物は白色軽石で黒色スコリアをわずかに伴う.阿蘇4O火砕流の基底部には,軽石火山礫や異質角礫に富み細粒物が乏しい岩片濃集層を伴っている(中澤ほか,2018).阿蘇4O火砕流堆積物と後述の阿蘇4K火砕流堆積物の直接の上下関係は分布地域が重複しないため不明であるが,Watanabe(1978)は阿蘇4O火砕流堆積物をカルデラ西側地域での阿蘇4噴火最初期の堆積物としているので,ここでもそれに従う.

 阿蘇4K火砕流堆積物は,熊本県南関町肥猪(なんかんまちこえい)などに分布するほぼ全量が火山灰粒子からなる溶結した火砕流堆積物であり,Watanabe(1978)の “Koei ash-flow” に相当する.軽石火山礫をわずかにしか含まないことのほか,他の阿蘇4火砕流堆積物の本質物と比較して角閃石斑晶をほとんど含まない特徴がある(Watanabe,1979).

 阿蘇4H火砕流堆積物は,熊本県宇城(うき)市鳩平(はとのひら)などに分布する Watanabe(1978)の “Hatobira pumice-flow” 注4)に相当する大部分が溶結した火砕流堆積物である.各地で阿蘇4K火砕流堆積物を覆っている.堆積物に含まれる溶結レンズのサイズが数cm以下で上位の阿蘇4Y火砕流堆積物よりもやや粒径が小さい.

 阿蘇4Y火砕流堆積物は,Watanabe(1978)の “Yame pumice-flow” に相当する.阿蘇4K火砕流堆積物及び阿蘇4H火砕流堆積物を各地で覆うのが観察される.西側の阿蘇4火砕流堆積物のサブユニットの中で最も広範囲に分布する大規模な噴出物で福岡市,天草(あまくさ)市など遠方まで到達している.火砕流堆積物の厚い部分では下部が溶結し上部に非溶結部を伴う.非溶結部が風化した部分は,かつて “八女(やめ)粘土” (郷原ほか,1964)と呼ばれていた.

 阿蘇4m火砕流堆積物は,熊本県和水町用木(なごみまちもてぎ)などに分布する Watanabe(1978)の “Motoigi pumice-flow” 注5)に相当する.阿蘇4Y火砕流堆積物を覆う.粗粒の灰色軽石を含む非溶結の火砕流堆積物であり,しばしば少量の縞状軽石やスコリアを伴う.


注4) Watanabe(1978)は鳩平を “Hatobira” と読んだが,国土地理院地図では“はとのひら”.
注5) Watanabe(1978)は用木を “Motoigi” と読んだが,国土地理院地図では “もてぎ” .


 阿蘇4BS火砕流堆積物は,熊本県菊池市旭志弁利(きょくしべんり)などに分布する Watanabe(1978)の“Benri scoria-flow” に相当する.阿蘇4m火砕流堆積物を覆う.黒色スコリアを含む非溶結の火砕流堆積物であり,灰色の軽石や縞状軽石を伴う.以上の阿蘇カルデラ西側のサブユニットのうち,阿蘇4O火砕流堆積物,阿蘇4K火砕流堆積物,阿蘇4H火砕流堆積物及び阿蘇4m火砕流堆積物はカルデラ縁からおよそ40 km以内に,阿蘇4BS火砕流堆積物は,カルデラ縁から10数 kmの範囲に分布する.それより遠方では阿蘇4Y火砕流堆積物と第4期の阿蘇4T火砕流堆積物のみが分布している.

 阿蘇カルデラ北〜東〜南側での第3期の噴出物は,阿蘇4A火砕流堆積物である.阿蘇4A火砕流堆積物は,厚いサブユニットで,とくに谷埋め地域で下半部が強溶結し,上部へ向かい弱溶結部をへて非溶結部に漸移する.基盤岩類や阿蘇3火砕流堆積物などの台地上や斜面に堆積した層厚の薄い地域では全体が非溶結である.強溶結部は,暗灰色基質中に黒色ガラスレンズを含む堅固な岩石である.弱溶結部では灰〜暗灰色基質中に偏平化した軽石を含む.溶結部では径1〜2 mの柱状節理が発達する.非溶結部では灰〜暗灰色火山灰基質中に軽石を含む.軽石中の気泡は引き延ばされている場合が多い.ガラスレンズの露頭面での長さや軽石の粒径(長径)は,カルデラに近い地域では1 mを超えるものもあるが遠方では数 mm〜数 cm程度となる.阿蘇4A火砕流堆積物は,西側の阿蘇4Y火砕流堆積物と分布が連続していて共通の岩相を示すことから,両者は同時期に噴出したものなのであろう.阿蘇4A火砕流堆積物の基底部に,軽石火山礫や角閃石斑晶をほとんど含まない火山灰主体の部分が認められる場合があり,カルデラ西側の阿蘇4K火砕流堆積物に相当する可能性がある(吉岡ほか,1997).また阿蘇4A火砕流の基底部付近の非溶結部に黒色スコリアをわずかに含む場合がある.西側でも基底部に微量のスコリアを含む阿蘇4O火砕流堆積物が認められることなどを考慮すると,東側の阿蘇4Aは西側の阿蘇4Yだけではなく,阿蘇4Oから阿蘇4mまでに対比されるのかもしれない.

 阿蘇4A火砕流堆積物の基底には,しばしば非溶結で異質角礫を多く含み細粒物に乏しい岩片濃集層(小野ほか,1977の“異質角礫火砕流” )を伴うことがある.カルデラ壁では含まれる岩片や軽石の径が大きく厚い傾向にあるが,層厚や径のカルデラからの距離による変化は不規則である(小野ほか,1977).含まれる岩片の種類は,カルデラ近傍では先阿蘇火山岩類に由来する輝石安山岩などが最も多い.基盤に由来するとみられる花崗岩類や変成岩類なども少量認められる(笹田,1987;高木ほか,2007).カルデラから離れた地域では,火砕流が流走した地域の地質を反映した岩種となっており,流走中に火砕流に取り込まれたものが多いと考えられる.

 第4期の噴出物は,阿蘇4T火砕流堆積物,阿蘇4B火砕流堆積物,阿蘇4KS火砕流堆積物である.阿蘇4T火砕流堆積物(星住ほか,1988)は,非溶結でオレンジ色をした火砕流堆積物であり,Watanabe(1978)のTosu orange pumice-flowに相当し,かつては鳥栖(とす)ローム(郷原ほか,1964)と呼ばれていた.層厚は1〜2 m程度と薄い場合が多い.カルデラ近傍では,岩片,軽石火山礫や中〜極粗粒砂サイズの火山灰に富み細粒物に乏しい岩片濃集層を伴うか,岩片濃集層のみが分布する(Suzuki-Kamata and Kamata,1990;鎌田,1997).阿蘇4T火砕流堆積物は,宮崎県国富町(くにとみちょう),熊本県天草市,福岡県北部や山口県など遠方でも観察されるため,薄く広く流走する広域拡散型火砕流(low aspect-ratio ignimbrite)であると考えられている(Watanabe,1984;渡辺,1986).

 阿蘇4B火砕流堆積物は,阿蘇4A火砕流堆積物の上部非溶結部を覆う強溶結のサブユニットで,カルデラの近傍東側に分布する.阿蘇4Aの強溶結部と同様に柱状節理が発達する.阿蘇4B火砕流堆積物の上面はしばしば赤色酸化し,薄い(1〜2 m程度)弱溶結部や非溶結部が認められることがある.4Aと4Bの境界では,数 m以内で非溶結から強溶結へと漸移する様子が各地で観察され,間には土壌や降下火砕物などは認められない.カルデラ近傍では,阿蘇4A火砕流の岩片濃集層を直接阿蘇4B火砕流堆積物が覆う場合もある.カルデラ北方では,非溶結の阿蘇4T火砕流堆積物の上位に溶結した阿蘇4B火砕流堆積物が累重する(鎌田,1997)が,カルデラ東側近傍では,阿蘇4A火砕流堆積物を阿蘇4B火砕流堆積物が直接覆い阿蘇4T火砕流堆積物を欠いているように見える.さらにカルデラ東方遠方の4B到達限界より東側では,阿蘇4A火砕流堆積物の上位に阿蘇4T火砕流堆積物が重なる(寺岡ほか,1992;酒井ほか,1993など).このことは,渡辺(1986)が指摘したように,4T火砕流堆積物は4B火砕流堆積物と同時異層の可能性がある.阿蘇4KS火砕流堆積物は,熊本県菊池市九ノ峰などに分布するWatanabe(1978)のKunomine scoria-flowに相当する.黒色スコリアを含む非溶結の火砕流堆積物で白〜オレンジ色の軽石を伴う.カルデラ東側では,阿蘇4KS火砕流堆積物のような黒色スコリアを主体とする火砕流堆積物はないが,阿蘇4B火砕流堆積物上面の非〜弱溶結部に微量の黒色スコリアを含むことから,阿蘇4KSと阿蘇4Bも同時異層である可能性が考えられる.

 第3期と第4期の間の時間間隙の有無について,Watanabe(1978)は, “Benri scoria-flow deposit” (阿蘇4BS火砕流堆積物)の上面がわずかに風化し“Tosu orange pumice-flow deposit”(阿蘇4T火砕流堆積物)に覆われるため,若干の時間間隙があったと考えている.中島・藤井(1998)は,阿蘇4A火砕流堆積物と阿蘇4B火砕流堆積物の残留磁化方位がやや異なることから,両者の間には地磁気永年変化を反映するほどの時間間隙があるとした.藤井ほか(2000)は,山口県の阿蘇4T火砕流堆積物の磁化方位が阿蘇4Aと4B の中間であるとした.日本各地の阿蘇4火山灰の磁化方位は阿蘇4A火砕流堆積物の磁化方位と一致する(中島・藤井,1998;Fujii et al.,2001).一方,すでに述べたようにカルデラ近傍での阿蘇4A火砕流堆積物と阿蘇4B火砕流堆積物の間には,風化土壌や顕著な侵食間隙はこれまでに確認されていない.第3期と第4期の間の時間間隙の評価については,今後さらに検討が必要である.

 阿蘇4火砕流噴出時に発生した細粒火山灰(阿蘇4火山灰)が,広域火山灰として九州以東の日本列島を広く覆っている(町田ほか,1985;町田・新井,2003).阿蘇4火山灰を含む阿蘇火山起源の火山ガラスの化学組成は,他の火山起源のテフラと大きく異なり,アルカリ元素に富んでいる(古田ほか,1983;奥村,1985;青木・町田,2006;など).


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