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阿蘇カルデラ阿蘇4火砕流堆積物分布図 解説目次
1：はじめに
2：阿蘇カルデラと阿蘇4噴火
3：阿蘇4火砕流堆積物分布図
4：阿蘇4噴火の噴出量
5：謝辞・協力・出典 / 引用文献
6：Abstract
付図
付録
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3：阿蘇4火砕流堆積物分布図
3. 1 分布
阿蘇4火砕流堆積物の現存分布を
第3図 に示す．本図は，20万分の1日本シームレス地質図 V2，2022年3月11日版（産総研地質調査総合センター，2022）及び 20万分の1日本火山図 Ver.1.0d（産総研地質調査総合センター，2021)を基に，文献データや現地調査の結果を加えて編集した．参照した文献のリストを付録1に掲載した．阿蘇4火砕流堆積物が，薄い降下テフラや段丘堆積物により被覆されている場合は，被覆層を省略した場合がある．阿蘇4火砕流堆積物が，孤立して小規模に分布する場合は，位置を示す記号で示した．また，参照した文献に分布地の地名しかない場合は，その地名の位置に小規模分布地点の記号を示した．なお，2. 3章で述べたように，阿蘇4火砕流堆積物は多数のサブユニットに区分されているが，25万分の1という小縮尺の地図では表示が困難なことと，サブユニット間の境界が不明瞭な場合があることから，ここではサブユニットの分布を区分せず一括して阿蘇4火砕流堆積物の分布としている．
阿蘇カルデラの近傍での阿蘇4火砕流堆積物は，より古い阿蘇1〜阿蘇3火砕流堆積物とあわせて広大な火砕流台地を形成して分布している．阿蘇カルデラ東側では，阿蘇カルデラ中心から約70 km離れた九州東岸の大分県臼杵（うすき）市付近まで，西側では阿蘇カルデラ中心から約60 km離れた有明海沿岸まで火砕流堆積物がほぼ連続的に追跡できる．阿蘇カルデラから南北方向は九州山地などの地形的高地に阻まれて火砕流堆積物の分布は限定的だが，北方では約50 km離れた大分県日田（ひた）市付近，南方では20 km以上離れた熊本県山都町（やまとちょう）付近までほぼ連続的に分布する．それより遠方では阿蘇4火砕流堆積物の地上での分布は断片的となる．阿蘇4火砕流の遠方の分布は，北北東ではカルデラ中心から約170 km離れた山口県中北部まで，北西ではカルデラ中心から約140 km離れた長崎県松浦市まで，南西及び南東ではカルデラ中心から約100 km離れた天草市や宮崎平野まで阿蘇火砕流堆積物の分布が知られている．
海岸近くの平野部には阿蘇4火砕流堆積物が伏在していることが，ボーリングデータによって知られている．熊本平野（石坂ほか，1992），大分平野（首藤・日高，1971），筑紫（つくし）平野（下山ほか，1994），福岡平野（下山ほか，1991；木村ほか，2013），八代（やつしろ）平野（東ほか，2014）などの報告がある．また，内陸部の河川沿いや山間盆地の沖積層，段丘堆積物や扇状地堆積物，阿蘇4火砕流堆積物よりも若い火山の山麓地域などでも，その下位に阿蘇4火砕流堆積物が確認される場合がある．これらの伏在確認地点は断片的で地下での阿蘇4火砕流堆積物の分布の詳細はよく分かっていない．本報告では，阿蘇4火砕流堆積物がより若い地層・岩体や埋立地の下位に存在している，あるいは存在していた可能性が高い地域を「阿蘇4火砕流堆積物推定分布域」として分布図に示した．
阿蘇4噴火、約9万年前の海水準高度は，Cutler et al.（2003）や遠藤（2015）の海水準変動曲線に基づくと-50 mである．分布図には参考として，現在の-50 m等深線を示した．-50mの等深線の位置は，阿蘇4噴火後の堆積・侵食作用や地殻変動を考慮していないが，阿蘇4噴火時の海岸線に近い位置を示していると考えられる．
3. 2 堆積原面高度分布
阿蘇4火砕流堆積物の復元堆積原面高度分布を 第4図に示す．堆積原面高度の読み取りは以下の方法で行った．阿蘇4火砕流堆積物分布域に水平あるいは緩傾斜する平坦面が広がる場合にはそれを火砕流堆積面とみなしその高度を読み取った.平坦面がない地域では，堆積面に近い高度と考えられる尾根や峠などの標高を読みとった．読み取りは国土地理院の地理院地図を用い，堆積面上の等高線から高度を読み取った．阿蘇4火砕流堆積物が厚い堆積物に覆われている場合には，阿蘇4火砕流堆積物の露頭の上端標高を火砕流堆積面標高とした．阿蘇4火砕流堆積物がより新しい堆積物に覆われて伏在している地域では，ボーリング資料などに記載された阿蘇4火砕流堆積物の上面高度を用いた．近隣に複数の地点がある場合は，その中で最も標高の高いデータを採用した．谷底など明らかに火砕流堆積物堆積後に侵食を受けている地点のデータは採用していない．
復元した堆積原面高度は，基本的にはカルデラ縁で最も高く，外側に向かって緩やかに高度を下げていく．ただし， 標高が高い山地がある場所では堆積原面高度も高くなっている．例えば南側のカルデラ縁から南方の緑川流域に向かって堆積原面高度は低下するが，さらに南方の九州山地では堆積原面高度は上昇する．同様に福岡県平尾台や山口県の中国山地においても堆積原面高度は上昇している．
3.3 層厚分布
阿蘇4火砕流堆積物の現存層厚分布を 第5図に示す．阿蘇4火砕流堆積物の層厚は，文献調査やボーリングコア情報の公開サイトなどに加え現地調査による層厚データを加えている．参照した文献やボーリングコア情報のリストを 付録 2に掲載した．
阿蘇4火砕流堆積物の層厚は，概ねカルデラ近傍で厚く，遠方で薄くなる傾向がみられる．しかしながら，細かく見ていくとかなり複雑に変化している．これは，谷埋めをした場所では厚く，台地や山地に乗り上げた場合には薄くなることや，堆積後の削剥の程度の差を見ていると考えられる．
3. 4 軽石と石質岩片の最大粒径
阿蘇4火砕流堆積物中の軽石の最大粒径を116地点，石質岩片の最大粒径を111地点で測定した．露頭面に露出する最大の軽石及び石質岩片を1露頭あたり約10〜20個抽出し，その長軸の長さ（長径）を測定した．露頭ごとの平均値，最大値，最小値を求めた． 第6図に各露頭の軽石の長径の平均値の分布を示す． 第7図に，各露頭の石質岩片の長径の平均値を示す．平均値に加え，各地点での最大粒径の範囲（最大と最小の長径）を示した．
軽石の長径の平均値は，カルデラ近傍では，300〜600 mm程度と比較的大きい地点が多数見られる．とくにカルデラ北側や東側，南東側で比較的大きい傾向がある．カルデラ中心からの距離が60 km以上の地点になると，長径の平均粒径は200 mm以下となり，多くの地点で10〜100 mm程度となる．距離100 km以上の地点では，長径の平均粒径は5〜19 mm程度とかなり細粒となる．
石質岩片の長径の平均値は，カルデラ西で587 mm，南東部で468 mmと比較的大きい値を示す（岩片濃集層）．カルデラ中心からの距離60 kmの地点までは，平均値は徐々に値が小さくなり，10〜100 mm程度となる．60〜100 kmの地点では，5〜40 mm程度となる．およそ 100 km以上の地点では，2〜6 mmと小さくなり，測定可能な岩片が含まれていない地点も5地点存在する．
3. 5 軽石長軸配列方向分布
阿蘇4火砕流堆積物中に含まれる軽石の長軸配列方向を34地点で計測した．長軸/短軸比がおおよそ2以上の軽石粒子を各露頭で約20個抽出し，その長軸方向（方位及び伏角）を測定した． 第8図には，それぞれの地点における軽石粒子の長軸方向をシュミットネット上に下半球投影し，かつその方位頻度分布をローズダイヤグラムで表している．
阿蘇4火砕流堆積物中の軽石の長軸の卓越方向は，概ねカルデラから放射方向を示す傾向が見られる（例えば，地点1，8，12，14，15，22，27）が，各地点の局所的な谷の方向を示す地点が多い（例えば，地点2，4，13，16，20， 21，24，26，34）．一方で，あまり明確な卓越方向を示さない地点（例えば，7，9，18，17，19，29，32，33）や，局所的な谷の方向とも斜交する地点も見られる（例えば，5，25，31）．