阿蘇カルデラ阿蘇3火砕流堆積物分布図 解説目次
1:はじめに
2:阿蘇カルデラと阿蘇3噴火
3:阿蘇3火砕流堆積物分布図
4:阿蘇3噴火の噴出量
5:謝辞・出典 / 引用文献
6:Abstract
付図
付録
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4:阿蘇3噴火の噴出量
阿蘇3噴火の噴出物の総体積は,阿蘇3火砕流堆積物とそれに先行する阿蘇3W降下軽石,及び阿蘇3噴火によって遠方に降下した阿蘇3火山灰の体積の合計である.これまでにいくつかの研究により阿蘇3噴火の噴出物の体積が見積もられている.阿蘇3火砕流堆積物の見かけ体積をAramaki(1984)は40 km3以上,町田・新井(1994)は10〜100 km3,第四紀火山カタログ委員会(1999)は150 km3以上,町田・新井(2003)は100 km3以上と見積もった.町田・新井(1994)は,阿蘇3W降下軽石の体積を1〜10 km3とした.
阿蘇3火山灰の見かけ体積について,町田・新井(2003)は,分布地域の広がりから50 km3以上と見積もった.これは,阿蘇3火山灰の見かけ密度を1,000 kg/m3,緻密岩石密度を2,500 kg/m3と仮定すると,DRE(緻密岩石換算)体積で10 km3以上に相当する.須藤ほか(2007)は町田・新井(2003)の阿蘇3火山灰の等層厚線を補完し,その距離層厚関係を用いて阿蘇3火山灰の見かけ体積を130 km3と見積もった.これはDRE体積で52 km3に相当する.
山元(2015)は阿蘇3噴火全体(火砕流+降灰)の噴出量を町田・新井(2003)及び須藤ほか(2007)の推定値からDRE体積で96 km3とした.
4. 1 阿蘇 3 火砕流堆積物の噴出量推定
阿蘇3火砕流堆積物の地表に露出した分布域と推定伏在域(
第5図),及び層厚分布(
第7図)を元に,阿蘇3火砕流堆積物の体積推定を行った(
第11図).地表分布域と推定伏在域それぞれについて,10 kmメッシュ毎に分割し,メッシュ毎の面積を算出した.メッシュ毎の層厚は,層厚分布図のデータから,メッシュ内に層厚データがある場合は,その平均値を求めた.メッシュ内に層厚データが存在しない場合は,周囲のデータがあるメッシュの値を用いて按分し,層厚を推定した.メッシュ毎の分布面積に層厚を乗じて,メッシュ毎の体積を算出し,地表分布域と推定伏在域の体積を求めた.その結果,地表分布域の体積は約10 km3,推定伏在域の体積は約90 km3となり,合計約100 km3と求められた.DRE体積では,約40 km3 に相当する.この見積もりには削剥を受けたのちの現存の層厚データを用いているため,得られた推定値は下限値であると考えられる.なお,この推定値には,カルデラ内を埋積しているであろう阿蘇3火砕流堆積物の体積は,層厚データが不明のため含んでいない.
4. 2 阿蘇3火山灰及び阿蘇3W降下軽石の噴出量推定
阿蘇3W降下軽石について,分布図の等層厚線(
第3図)を用いて,体積を見積もった.阿蘇3W降下軽石の分布図を元に,宝田ほか(2001)で使用した区間積分法を用いて見かけ体積を計算した結果,約40 km3(DRE体積では,約15 km3 )と求められた.最小体積を与える Legros(
2000)による簡便法では,>4 km3(DRE体積では,>1.6 km3)と求められた.また,Fierstein and Nathenson(1992)による(層厚)-√(面積)の関係から算出した結果,約4 km3(DRE体積では,約1.6 km3)となった.
阿蘇3火山灰の分布図(
第4図)を元に,区間積分法を用いて見かけ体積を計算した結果,約210 km3(DRE体積で約85 km3)と求められた.Legros(2000)による簡便法では,>76 km3(DRE体積で>30 km3)と求められた.また,Fierstein and Nathenson(1992)による手法では,約75 km3(DRE体積で約30 km3)となった.
以上の結果から,阿蘇3噴火の総噴出量は,降下火砕物に対して Legros(2000)の簡便法を用いた場合は,阿蘇3W降下軽石>4 km3,阿蘇3火砕流堆積物が約100 km3,阿蘇3火山灰が>76 km3となり,全体で>180 km3(DRE体積では>70 km3)と見積もられる.降下火砕物に対してFierstein and Nathenson(1992)の手法を用いた場合は,阿蘇3W降下軽石が約4 km3,阿蘇3火砕流堆積物が約100 km3,阿蘇3火山灰が約75 km3となり,全体では約180 km3(DRE体積では約70 km3)と推定される.区分積分法を用いた見積もりでは,阿蘇3W降下軽石が約40 km3,阿蘇3火砕流堆積物が約100 km3,阿蘇3火山灰が約210 km3となり,全体では約350 km3(DRE体積では約140 km3)と推定される.
阿蘇3噴火噴出物はその大部分が阿蘇4噴火噴出物やそれ以降の堆積物に被覆されておりその層厚分布には大きな推測があること,噴火後の侵食や削剥により失われた堆積物が大きいこと,降下火砕物については遠方の層厚データが不足していることなどから,その体積見積もりには大きな不確定性を伴う.堆積物の広域な分布範囲を考慮すると,阿蘇3噴火はVEI7クラスの噴火であったと推定される.
