aistgsj
第四紀火山>活火山>口永良部島
口永良部島火山地質図 解説地質図鳥瞰図
7:噴気活動及び温泉 - 8:火山観測体制 - 9:噴火活動の特色

7:噴気活動及び温泉

 新岳山頂火口周辺及び古岳火口内部には,活発な噴気地帯が分布している.これらの噴気地帯では,大正年間から昭和初期にかけて硫黄の採掘が行われていた.このうち,1980年噴火の割れ目火口付近の噴気地帯では,1992年には342℃の噴気が記録されているが,2000年以降は100℃を下回っており,1980年噴火以降長期的には温度低下の傾向がみられる(平林ほか,2002).一方,地震活動が活発化した2002年以降新岳火口底及びその火口縁周辺では噴気・地熱地帯の拡大と温度上昇が観察されている.このほか,野池南斜面にも微弱な噴気・地熱地帯が分布している.

 口永良部島の海岸付近では,数ヶ所から温泉が湧出している.このうち,新岳西側海岸のニシマザキ付近では海底から温泉が湧出し,しばしば変色水域として観察される.また,北海岸の寝待,湯向,西の湯地区では海岸線付近から40~60℃の温泉が湧出しており,利用されている.


8:火山観測体制

 口永良部島火山では1999年ごろからの地震活動の活発化に対応して,気象庁及び京都大学防災研究所を中心とした各機関により,各種の観測が実施されている( 第10図).気象庁は新岳を中心に地震計を4台設置し火山活動の監視を行っている.また本村には遠望カメラ及び空振計を設置している.京都大学防災研究所では新岳を中心として地震計,GPS,全磁力計を展開し,火山活動の継続的な観測を行っている.また2004年11月には,京都大学防災研究所を中心として地震波構造探査・比抵抗構造探査が実施され,火山体の地下構造の調査が行われた.産業技術総合研究所では京都大学防災研究所と協力して新岳とその周辺に3点のGPS観測点を設置し連続観測を行っている.そのほか,気象庁及び海上保安庁による上空からの目視観測,気象庁による現地機動観測が随時行われている.これらの観測結果を基に,2005年2月以降,気象庁は口永良部島火山の活動度を0~5の6段階に評価・公表している. 2005年2月以降,2006年12月現在までの活動度は2(やや活発な火山活動)である.


9:噴火活動の特色

 江戸時代末期以降の活動は,新岳山頂火口からの爆発力の強いブルカノ式噴火や水蒸気噴火が特徴である.過去の噴火では明瞭な直前予兆現象はほとんど記録されていないため,突発的な噴火に対する注意が必要である.過去に発生した規模の大きなブルカノ式噴火ではマグマ物質の放出が認められることから,このようなブルカノ式噴火の直前には火口浅部までマグマが上昇・貫入すると予想される.一方,1980年噴火のような水蒸気噴火の場合,火口直下へのマグマの上昇・貫入を伴わずに発生する可能性が高い.

 記録に残る江戸時代末期以降の噴火は全て新岳山頂火口及びその周辺で発生しているが,古岳火口でも江戸時代末まで噴火が発生していたことが明らかになった.七釜付近に分布する約200年前の火砕流堆積物は古岳火口から噴出したものであり,近年までマグマ噴出を伴う噴火活動が発生していたことを示している.現在も古岳火口底の噴気活動は活発であり,古岳火口からの噴火の可能性も考慮する必要がある.

 昭和初期及び中期に発生したようなブルカノ式噴火が再び発生した場合,火山岩塊の落下が最も大きな災害要因となるだろう.過去1万年間に新期古岳及び新岳火口で発生したブルカノ式噴火による噴出物の調査からは,直径20 cm以上の投出岩塊は古岳・新岳火口から約3.5 kmまで,それより小さい径数cmの火山礫は風向きにより番屋ヶ峰地区を除くほぼ全島に降下したことが明らかになっている.強い爆発を伴った1966年11月22日の噴火では,新岳火口から3.5km離れた寝待温泉付近にまで径50cm以上の火山岩塊が到達している.古岳・新岳火口での爆発的噴火では,山麓まで短時間で到達・落下する投出岩塊への対策が必要である.また,過去のブルカノ式噴火ではしばしば小規模な火砕流が発生し,新岳・古岳の中腹~山麓部まで流下している.今後の噴火でも火砕流の発生にも警戒を要する.噴火に伴う火山灰は風向きにより島のすべての地域に降下する可能性があるほか,種子島・屋久島地域でも火山灰が降下する可能性がある.また山頂部に堆積した火砕物による二次的な土石流(ラハール)の発生も懸念される.


 前をよむ 前を読む 次を読む 次を読む