火砕サージ

 火砕サージ堆積物は,岩手火山の構成物としてしばしば認められるほか,東麓部において薬師岳火山から噴出した火砕物のユニットとして複数のユニットが知られている.
 「岩手火山地質図」においては,以下のユニットの分布域を地質図あるい付図に示したほか,本データベースにおいて大規模山体崩壊に伴って発生した火砕サージ堆積物(伊藤,1999c)について解説した[リンク]
  • 刈屋スコリア下部の火砕サージ堆積物 
  • 巣子スコリアを覆う火砕サージ堆積物(巣子火砕サージ堆積物;Iw-SuS-s)
  • 平笠岩屑なだれ堆積物を覆う火砕サージ堆積物 
成層火山体における火砕サージの発生要因として,以下が挙げられる.
  1. 火口付近が積雪などに覆われたために発生したマグマ水蒸気爆発
  2. マグマ頭位の急激な降下に伴うマグマ水蒸気爆発
  3. 山体崩壊に伴う急激な減圧・発泡
 刈屋スコリア下部の火砕サージは,噴火時期が初春(1868年3月末)であったことから,山頂部に積雪があったためマグマ水蒸気爆発が発生した可能性(上述の要因1)と考えられている(伊藤,1999).
 一方,巣子火砕サージ堆積物は山頂から10km以遠の北上川沿いでも存在が確認されるほど分布域が広いことと,比較的噴火規模の大きな巣子スコリアの噴出に引き続いて発生していること,更に火砕流の発生が認められないことから,噴火活動末期のマグマヘッドの急降下(magma drain back)による大規模なマグマ水蒸気爆発により発生した可能性(上述の要因2)が考えられる.
 平笠岩屑なだれ堆積物を覆う火砕サージ堆積物については,山体崩壊発生直後に発生していること,噴出物の構成物から,山体崩壊に伴う急減圧によって山体内部の地下水による水蒸気爆発から山体内に貫入してきたマグマの噴火に至ったと考えられている(伊藤,1999c).

 このほかに,生出スコリアの下位の小規模な噴火堆積物層中にマグマ水蒸気爆発噴出物が挟在される事が報告されている(伊藤ほか,1998;土井・越谷,1998).これは,薬師岳スコリア丘形成期の比較的マグマヘッドの高い時期に,山頂部の積雪やマグマヘッドの上下動などにより,小規模ながら多様な噴火活動が発生する中で発生した現象と考えられている(伊藤,2002b).
 

 

図1.刈屋スコリアとその下位のベースサージ堆積物と,巣子スコリアとその上部の火砕サージ堆積物の分布域