溶岩流
 
 東岩手−薬師岳火山噴出物においては,流れ下った溶岩流地形が比較的明瞭に残されており,空中写真判読によって山麓部への分布域が比較的明瞭に判断され,その流下範囲は山頂から約6kmである(図1).薬師岳火山山頂部を噴出源とする溶岩流の流下方向は,約7千年前の大規模山体崩壊の崩壊壁が地形的障壁となって流下方向を規制しており,山頂から北〜東方向と,西側の西岩手カルデラ内に流下する方向にほぼ限定されている.
 溶岩の流下による災害は,高温の溶岩による埋積と,それに伴う構造物の破壊が主なものである(図2).また,岩手火山のような内陸の火山体の場合,山麓部には山体表層部を浸透した地下水の湧出地が分布する.このような湧水域に溶岩が流下した場合,地下水と高温の溶岩が相互作用を起こし,溶岩流の二次爆発が発生する可能性がある.
 山頂噴火の場合,溶岩が山頂火口内に一旦が滞留し溶岩湖を形成する可能性がある.この際,火口縁が崩壊し大量の溶岩が一気に急傾斜の斜面に流れ出すと火砕流として流下する場合がある(例えば,アレナル火山;Alvarado and Soto, 2002).
[成層火山特有の噴火災害要因へのリンク]


図1.岩手火山における溶岩の分布

地形的に比較的明瞭な,西岩手−御神坂および御苗代火山噴出物,東岩手−平笠不動および薬師岳火山噴出物の主な溶岩流分布域を示した.


図2.溶岩流の流下による災害要因の概念図


図3.薬師岳火山から西岩手カルデラ内に流下する溶岩流
[撮影:石塚吉浩]

 岩手火山を西方上空から望む.薬師岳火山,西岩手カルデラとその内部に形成された中央火口丘群(西岩手−御苗代火山噴出物)が見える.薬師岳火山からは,溶岩流側端崖が明瞭な幾筋もの溶岩流が西岩手カルデラ内に流下している.これらの溶岩は,植生に覆われ地表の露出が不十分なため活動期区分ができず,岩手火山地質図では薬師岳主火山体(Y0)として一括した.


図4.薬師火口北東縁よりあふれ出した溶岩流 [撮影;太田一也]
 薬師岳火山の山頂火口をほぼ真東から望む.中央の黄土色の山体が妙高岳スコリア丘(Ym)で,右手のピークが薬師岳標高点(2038m)である.写真手前中央の黒色の,火口縁の表面をほほ水平に覆う溶岩が薬師岳第3期溶岩(Y3)で,薬師岳火口から溢れ出し北東側斜面に向かって流れ出した.斜面上では,崩落が進行したため,流下した溶岩は一部が残されているだけである.