津波についての知識
調査方法
試料の採取
過去の津波堆積物は,海岸沿いの低地の地下に残されています.標高数メートル以下の地域では,数千年前には海だった場所が多く,柔らかい地層が厚くたまっています.特に,過去の海岸砂丘の名残である浜堤の背面や,浜堤と浜堤の間にある堤間湿地(水田として利用されている事が多い)では,湿原や沼のような環境が形成されて静かにゆっくりと泥や泥炭がたまっています.こうした場所には津波堆積物が残りやすいため,そうした場所を狙って堆積物試料を採取します.
地下の地層を採取するには様々な方法があります.最もよく用いられる方法は,ボーリングとよばれる円筒状の穴を掘る作業です.ボーリング試料よりも地層を観察しやすい方法として「板状の地層抜き取り装置」を採用した調査もあります.また,トレンチやピットとよばれる大きな溝を掘って地層を観察することもあります.しかし,こうした方法にはクレーン車などの大型機械が必要なため,使用できる場所に制限があります.
トレンチ調査の様子
Trench survey
ボーリング調査の様子
Taking a borehole
地層抜き取り装置(ジオスライサー)を用いた調査風景
Geoslicing tsunami deposits
採取した試料の分析
地層を採取して,その変化(例えば,粘土層に挟まれた砂層)を観察しただけでは津波堆積物を認定することができません.津波堆積物は,数十年以上という地質学的な時間規模から考えると,一瞬で堆積した地層です.この一瞬で堆積した地層は「イベント堆積物」と呼ばれ,洪水や高潮,高波によって運ばれた堆積物もこれに含まれます.
津波堆積物を認定するためには,その地層が海から来たのか,地層の平面的な広がりはどれくらいあるのか,イベント堆積物の構造はどうなっているのかなど,様々な角度から検証しなくてはいけません.特に,地層が海から来たのかどうかを知るためには,そこに含まれている微生物の化石を調べたり,化学分析を行う必要があるため,採取した試料を崩れないように研究室に持ち帰り,丁寧に検討する必要があります.また,堆積物の構造を観察するために,地層のはぎ取り標本を作製して検討することもあります.
堆積物の年代測定
津波堆積物を認定できた場合,その年代を知る必要があります.過去2万年程度の試料であれば,放射性炭素を使った年代測定を行います.また,噴出年代があらかじめ分かっている火山灰(テフラ)が見つかれば,おおよその堆積年代を知ることができます.津波堆積物の年代を詳細に知ることで,過去に発生した巨大津波の再来間隔を知ることができます.