活断層・火山研究部門地質調査総合センター



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用語解説

イベント堆積物(あるいは,イベント層)(いべんとたいせきぶつ あるいは いべんとそう)

突発的な出来事により,数千,数百,数十年という地質学的な時間感覚からすると瞬時に形成される堆積物を「イベント堆積物」「イベントを表す地層」などといいます.イベント堆積物には,津波堆積物のほか,洪水堆積物,高潮堆積物,高波堆積物などがあります.

地震の規模(じしん の きぼ)

地震の規模を表す指標には,エネルギー量を示すマグニチュードを用いる.マグニチュードは「M」と標記され,値が1大きくなるとエネルギーは約31.6倍になり,2大きくなると1000倍となる.Mの算定方法には幾つかある.例えば,地震学ではモーメントマグニチュード(Mw)が用いられることが多いが,気象庁は気象庁マグニチュード(Mj)を用いている.同じ地震のマグニチュードでも,複数の異なる値が発表されることがある.これは,地震の規模を1つの指標で表すことができないということを意味している.

西暦869年貞観地震(せいれき869ねん じょうがんじしん)

平安時代に編さんされた歴史書「日本三代実録」に記された,貞観十一年五月二十六日(西暦869年7月9日)に陸奥国(現在の宮城県中南部、山形県の内陸部、福島県のほぼ全域を含む範囲)で起こったとされる地震.多賀城を大きな津波が襲ったことも記されている.産総研による研究結果では,地震の規模を示すMw(モーメント マグニチュード)は少なくとも8.4であった.

堆積物のはぎ取り(たいせきぶつのはぎとり)

地層に残された構造などを浮き上がらせ,それを詳しく観察する方法として行う作業.また,地層の保管方法としても利用される作業.地質調査の過程で,現地だけでなく,後日に研究室などで地層を詳細に観察できるようにするため,特別な接着剤を使用して露出した地層の表面やボーリングなどで採取した堆積物の表面を“はぎ取る”ことがある.粗い砂や石の地層には接着剤が多く染み込んで厚く堆積物が付着するが,逆に細かい泥質層には接着剤が染み込みにくいために堆積物が薄くしか付着しない.このコントラストによって,堆積物がたまった過程でできた様々な構造を明瞭に観察することができる.

津波供養碑(つなみくようひ)

津波で亡くなった人を弔う目的で建立された碑のこと.いつ,何により(津波により),何名亡くなった,などという情報が石碑に彫刻されていることが多い.広義には,単に「津波がここまで到達した」という内容のものも含まれる.供養碑の位置や内容を調べることで,その地域に過去どのような津波が来襲したか把握できる場合がある.主として太平洋沿岸に点在し,とくに千葉県房総半島沿岸や徳島県~高知県沿岸に多く見られる.

テフラ

火山の噴火に伴って噴出する火山灰,軽石,スコリア,火砕流堆積物・火砕サージ堆積物などの総称.広い範囲に降下したテフラは広域テフラと呼ばれ,大規模な噴火により,日本全国で見つかっている火山灰もある. テフラは短い期間に広い範囲に降下するため,離れた地域での地層の対比や年代の推測に利用される.

ピットとトレンチ(ぴっと と とれんち)

野外で地層を観察するためにやや広く掘削する穴のことを,形状に応じてピットやトレンチと呼ぶ.ピット(pit)とは穴を,トレンチ(trench)とは溝を意味する言葉で,通常のボーリングで掘る穴よりも広く(幅1m程度),浅い(深さ1-2m程度)ものをピットと呼び,そのピットを拡大して溝状に細長く掘ったものをトレンチと呼ぶことが多い.ボーリングよりも広い範囲で地層の状態が観察できるため,地層がたまった時の状況などを推定する上で適している.トレンチの掘削による調査は,津波堆積物だけでなく,内陸の活断層を調査する際によく行われる.

浜堤と堤間湿地(ひんてい と ていかんしっち)

海浜において暴浪時などに波によって打ち上げられた砂礫が,海岸線に沿って堤状に堆積してできた高まりの地形.その高さは数10cmから数mまである.海岸から内陸に向かって複数の浜堤が何列も発達したものを浜堤列と呼び,浜堤と浜堤との間の低まりには堤間湿地と呼ばれる湿地が形成される.津波や暴風によって形成された堆積物は,堤間湿地の堆積物(泥炭や泥)に残されていることが多い.

放射性炭素(14C)年代(ほうしゃせいたんそ(しーじゅうよん[または,じゅうよんしー])ねんだい)

放射性炭素14原子(14C)が約5,730年で半減する性質を利用し,堆積物の年代を推定する方法.大気中には一定量の14Cが含まれており,生物が体内に取り込んだ14Cは,大気と同じ割合に維持されている.しかし生物が死ぬと,14Cが取り込まれなくなるため,その時点で体内にあった14Cは時間の経過とともに放射性崩壊によって徐々に減っていく.この減少率を利用し,測定物(例えば,炭素を多く含む植物の化石など)に含まれる14Cの割合から,その地層の堆積した時期を知ることができる.なおこの方法は半減期の長さから,約6万年前から約400年前までの年代測定に有効とされている.

歴史地震(れきしじしん)

現代の地震は様々な機器で観測されているが,そのような機器観測が行われるようになる前に発生した地震で,特に古文書などに記録されている地震のこと.古文書には,当時起きた地震に伴う揺れや津波の浸水など様々な現象が記されていることがあり,それらはいつ,どこで,どのような地震や津波が起きたのかを知る鍵となる.しかし通常,江戸時代以前の歴史記録では,地震や津波などに関する記録の数が限られており,具体的に地震を発生させた震源を推定することが難しい.津波を引き起こすような海溝型地震の場合,その震源や波源の範囲を知るために,津波の浸水範囲,地盤の上下動など様々な記録を収集し,総合的に判断する必要がある.

暦年較正年代(れきねんこうせいねんだい)

放射性炭素(14C)年代の測定において半減期に基づいて算出された値を暦の年代に補正する方法のこと.14C年代測定では,まず大気中の14C濃度について,過去のいつの時代も常に一定であったと仮定して,そこからの減少率で算出する.しかし過去の大気中の14C濃度は,自然放射能の増減の影響を受けて時代毎に変化しており,実際の年代(暦年代)と放射性炭素年代の間に若干のずれが生じる.このため実際の年代を知るために,14C年代を暦年代に補正するプログラムがあり,これによって得られた年代を,暦年較正年代と呼ぶ.