活断層・火山研究部門地質調査総合センター



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地域の情報

高知県

南海トラフでは過去から繰り返し巨大地震が発生し,沿岸地域に大きな被害をもたらしてきました.南海トラフの地震・津波の履歴は約1300年間に及ぶ歴史記録を中心に研究が進められ,さらに1980年代以降は,地震・津波の地質学的痕跡(考古遺跡での噴砂痕,津波堆積物,地震性地殻変動の痕跡など)の情報も総合して履歴の推定が行われています(例えば,Ishibashi, 2004;石橋,2014)(図1).それらの研究によると,南海トラフでは100~200年程度の間隔でM8クラスの地震が発生しているとみられます.しかし,南海トラフの地震は多様な破壊領域を持つと評価され(地震調査研究推進本部,2013),過去の地震の破壊領域やその再来間隔は依然として解明されていません.歴史記録を補完・検証するとともに,歴史記録よりさらに古い過去数千年にわたって地震の繰り返しを検討するためには,地震・津波の地質学的痕跡の調査密度を上げ,データを蓄積する必要があります(藤原・谷川,2017).そこで産業技術研究所では,文部科学省の南海トラフ広域地震防災研究プロジェクトの一環として,高知県の東洋町,南国市,高知市,四万十町,黒潮町の沿岸低地で津波堆積物調査を実施しました.

 

図1.南海トラフの歴史地震と推定される破壊領域(Ishibashi (2004)に基づく).

図1.南海トラフの歴史地震と推定される破壊領域(Ishibashi (2004)に基づく).図中のオレンジの実線・太い点線・細い点線はそれぞれ,確実な・可能性の高い・可能性のある破壊領域を示す.波線で示した1605年慶長地震は津波地震と考えられている.

四万十町

【高知県四万十町で行った調査の結果は2017年に活断層・古地震研究報告(谷川ほか,2017)に公表しました.以下に記述する地域の情報は谷川ほか(2017)の解釈に基づくものです.】

高知県四万十町の興津低地において,機械ボーリングおよびジオスライサーを用いて地下最大20mまで掘削を行いました.興津低地の地質は深さ約1~15mまでシルト質粘土層からなり,当地域ではこのような細粒質の堆積物が連続的に堆積する静穏な環境が長期間続いたことを示唆しています.このシルト質粘土層は最上部の約1.5mを除き,多くの貝化石を含んでおり,その大部分が海域で堆積したと考えられます.この海成粘土層中には層厚1 cm以下の薄い細粒砂層が多く見られ,深さ約1.5~2mには層厚約40cmの厚いイベント砂層が確認されました.このイベント砂層は,下位の明瞭な地層境界や上方細粒化などの堆積学的特徴および,周囲を丘陵に囲まれ大きな河川が存在しない調査地の地形条件から,津波もしくは高潮による突発的な強い流れにより堆積した可能性が高く,その堆積年代は西暦 410-550年と推定さました.このイベント堆積物より上位の西暦約1650年までの地層からはイベント堆積物が確認されませんでした.

引用文献

藤原 治・谷川晃一朗(2017)南海トラフ沿岸の古津波堆積物の研究:その成果と課題.地質学雑誌,123,831-842.
Ishibashi, K. (2004) Status of historical seismology in Japan. Annals of Geophysics, 47, 339–368.

石橋克彦(2014)南海トラフ巨大地震.岩波書店.205pp.

地震調査研究推進本部(2013)南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)について,https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/nankai_2.pdf