活断層・火山研究部門地質調査総合センター



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地域の情報

茨城県 北茨城市

【茨城県北茨城市で行った調査結果は,2018年 に活断層・古地震研究報告に掲載されました(澤井,2018).以下に記述する地域の情報は,澤井(2018)を要約したものです.詳細版は活断層・古地震研究報告をご覧ください(PDFファイル).】

 

産業技術総合研究所では, 日本海溝沿いで発生した巨大地震・ 津波の履歴を明らかにするために, 地形・地質調査を行ってきました.その結果,西暦869年貞観津波などの波源を推定することができました(詳しくは,「地域の情報 宮城県」をご覧ください).しかしながら,こうした研究は,宮城県や福島県の限られた地域から得られたデータに基づいており, 日本海溝全域における地震・津波の履歴を知るためには,さらに広範囲における調査を継続的に行う必要があります.こうした背景から,産業技術総合研究所では,過去の津波浸水履歴を明らかにする目的で,茨城県北茨城市の沿岸において掘削調査を行いました.

掘削調査は,関南町神岡上地域, 中郷町足洗地域, 中郷町粟野地域で行いました.関南町神岡上地域は, 北茨城市の中心地にある里根川・ 江戸上川低地の西端に位置し,砂丘に隔てられた場所にあります.中郷町の足洗および粟野地域は,一部が段丘化した湯長谷層(下部中新統)に囲まれた小規模な低地で,関南町神岡上と同様に浜堤列によって海から隔てられている場所です.こうした閉塞された場所では,普段は湿地や池沼の堆積物が静かにたまっています.しかしながら,洪水・高潮・津波といった急な流れがきた際には,大量の水とともに土砂がたまり「イベント堆積物」と呼ばれるものを残します.このイベント堆積物を詳細に調べることにより,過去に発生した津波などの履歴を知ることができます.

図1は,中郷町粟野地域で行った掘削調査の結果をまとめ,地下の断面図として地層の分布を示したものです.この図で示されているように,連続性が悪いもののイベント堆積物を4層(W1,W2,W3,W4) 認めることができました.このうち,最上位のイベント(W1)の直下の5つの試料からは,4200~3700 cal yr BPという放射性炭素年代測定値が得られました.また,最下位のイベント(W4)の直上の試料からは,6500~6400 cal yr BPという放射性炭素年代測定値が得られました.

図2は,中郷町足洗地域で行った調査結果から,粟野地域と同様の断面図を作成したものです.ここでは,連続性の良いイベント堆積物を1層(A3),連続性の悪いイベント堆積物を2層(A2, A4) 認めることができました.このうち,最も連続性の良いイベント堆積物(A3)の直下の3つの試料から,4800~3900 cal yr BPという放射性炭素年代測定値が得られました.

両地域の放射性炭素年代測定結果から判断すると,中郷町粟野地域のイベントW1,中郷町足洗地域のイベントA3は同時期のものである可能性があります.このイベントについて,現段階ではその起源(津波なのか洪水なのか)を議論するための十分なデータがありません.今後は,イベント層中の微化石分析を行ってその海成・ 非海成を確認することや, 他地域で同様のイベント堆積物が見られるかどうかを検討する必要があります.

 

図1.中郷町粟野地域におけるイベント堆積物の分布.

図1.中郷町粟野地域におけるイベント堆積物の分布.

 

図2.中郷町足洗地域におけるイベント堆積物の分布.

図2.中郷町足洗地域におけるイベント堆積物の分布.