大規模カルデラ噴火の影響範囲評価

大規模カルデラ噴火の影響評価を支援するツールとして作成された影響範囲表示Arc-GISプログラム(山元ほか,2009)を、Web-APIプログラムとして作成し直しました。この影響範囲表示プログラムでは、マグマ溜まり形成による地殻変形範囲(シルモデル)と大規模火砕流の到達範囲(サブ臨界火砕流モデル)を、各カルデラに対して、既存の文献から取得したカルデラ噴火事例の値を参考値として利用しながら、影響範囲の計算をすることができます。

計算画面では、複数のカルデラに別々のパラメータを設定して計算を行うことができ、複数のカルデラからの影響範囲を評価できます。

大規模カルデラ噴火の影響範囲についての計算

マグマの蓄積による地殻の変形範囲(先行隆起) [シルモデル]

 対象カルデラ一覧から選択したカルデラに対して、以下のパラメータを設定して地表面の垂直変位量Wを示す同心円を地図上に表示することができます(山元ほか, 2009)。

  • マグマの体積 Vm (km3 DRE*) * dense rock equivalent
  • マグマ溜まりの深さ h (km)
  • マグマ溜まりの厚さ B (km)
  • マグマ溜まりの半径 a (km)

 マグマ溜まりについては水平な回転楕円体を仮定し(シルモデル)、カルデラ形成噴火に至るマグマ溜まりの体積変化がもたらす地表変位についての解析解を使用し計算を行います。この解析解は、溜まりの半径に対し深さが小さくなると実際の変位との誤差が大きくなるものの、本サイトでの参考値はそのような条件にはありません。計算にあたっては、次式 (1-1) (Sun, 1969) を使用し任意の地点の半径 r と垂直変位量 W の関係を求めます。

(式1-1)

 変数 θ は次式(1-2)で表されます。

(式1-2)

 変数k は次式(1-3)で表されます。

(式1-3)

 なお、プログラム上では上の式(1-2)の解 θ が計算不能とならないよう、arccot の変数部が 0 の際は、解 θπ/2 とします。あわせて解 θ が負の値となる際は、解に π 加えたものを θ とします。

 本計算で必要なマグマ溜まりの半径 a と厚さ B についての情報は既存文献では皆無であるため、本計算においては、マグマ溜まり半径をカルデラ半径と仮定し、入力したマグマの体積からマグマ溜まりの厚さを概算することとしました。マグマの体積は総マグマ噴出量と同じで、巨大カルデラ噴火によりマグマ溜まりは底まで空になるものと仮定しています。ユーザーが任意の値を入力して計算することも可能となっています。

大規模火砕流の到達範囲 [サブ臨界火砕流モデル]

 対象カルデラ一覧から選択したカルデラに対して、以下のパラメータを設定して大規模火砕流の到達範囲を示す同心円を地図上に表示することができます(山元ほか, 2009)。

  • 総マグマ噴出量 (km3 DRE)
  • 噴出時間 (s)
  • 初期 fountain 半径 r0 (km)
  • マグマ温度 T (K)
  • 初期ガス質量分量 n0
  • 火砕物終端速度 νs (m/s)
  • 大気温度 Ta (K)
  • ガス定数 R (J/K・kg)
  • 大気密度 α (kg/m3 )
  • 大気圧 α・Ra・Ta (N/m2)

 Bursik and Woods (1996) の火砕流到達域モデルは供給源から同心円上に広がる大規模火砕流を対象にしたもので、その最大到達距離は一定の噴出率と混相流からの粒子堆積率で記述されます。密度成層した境界層流れの不安定性を表す無次元数リチャードソン数が 1 以下の場合は大気の取り込みによる浮力効果が著しい超臨界火砕流に、1 より大きい場合はその効果が無視し得るサブ臨界火砕流となります。最大到達距離は同じ噴出率でサブ臨界火砕流の方が大きく、ほとんどの火砕流事例もこれに属すので、ここでの計算には彼らのサブ臨界火砕流の式を用いました。計算においては式 (2-1) 及び式 (2-2)の 2 つの式相互の関係を求めることにより、任意の噴出率(Mf : 噴出質量流量)の際の到達半径 rf を算出しました。

(式2-1)
(式2-2)

 必要なパラメータのうち初期 fountain 半径についてはカルデラ半径を参考値として用います。また、火砕物終端速度については、単一粒径を仮定し、Bursik and Woods (1996) と同様に参考値として 1 m/s を用います。そのほかの使用するパラメータについては、文献から収集したデータ若しくは常識的な一般値とし、ユーザーが任意に入力できるものとしました。マグマ噴出率 Mf については、Bursik and Woods (1996) の仮定のように一定とし、Mf = (総マグマ噴出量) / (噴出時間) で与えました。噴出時間については、大規模火砕流の多くが 103~105 s の範囲にあることを Bursik and Woods (1996) が指摘しており、参考値には 104 s (2.7 時間)がデフォルトとして表示されるようにしました。この値は約50 km3 DRE のマグマを噴出し、直径 6~7 km のカルデラを形成したタンボラ火山1815年噴火の破局噴火継続時間(4月10日深夜~11日早朝)と同程度です。実際に参考値として収録したカルデラ形成火砕流事例の多くは、噴火時間を 104 s 程度にしたときに到達範囲実績とよく対応します。例えば、九州の阿蘇4火砕流や入戸火砕流のような大規模なものについては継続時間が 40,000 s (約11時間)で、到達範囲同心円と噴火実績とよく一致します。

担当

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門
山元 孝広

参考文献

  • Bursik, M.I. and Woods, A.W. (1996) The dynamics and thermodynamics of large ash flows. Bull. Volcanol., 58, 175-193. link
  • Sun, R.J. (1969) Theoretical size of hydraulically induced horizontal fractures and corresponding surface uplift in an idealized medium, J. Geophys. Res., 74, 5995–6011. link
  • 山元孝広, 千葉達朗, 松永義徳, 宮本輝, 田中倫久 (2009) 巨大火山噴火の影響範囲評価のための地理情報システム構築. 火山, 54, 73-80. link

動作環境

影響範囲計算は、以下の環境での動作を確認しました。

・Windows 7, 8: Internet Explorer 10, 11, Firefox 41, Chrome 46

・iOS 8, 9: Safari, Chrome