重力図 26
Gravity Map Series 26
名和 一成, 駒澤 正夫, 村田 泰章, 佐藤 秀幸, 広島 俊男, 牧野 雅彦, 岸本 清行, 村上 文敏, 上嶋 正人, 西村 清和, 大熊 茂雄, 大野 一郎, 村上 英記, 志知 龍一, 小室 裕明, 山本 明彦
NAWA Kazunari, KOMAZAWA Masao, MURATA Yasuaki, SATOH Hideyuki, HIROSHIMA Toshio, MAKINO Masahiko, KISIMOTO Kiyoyuki, MURAKAMI Fumitoshi, JOSHIMA Masato, NISHIMURA Kiyokazu, OKUMA Shigeo, OHNO Ichiro, MURAKAMI Hideki, SHICHI Ryuichi, KOMURO Hiroaki, YAMAMOTO Akihiko
2008年 5月30日 発行

産業技術総合研究所地質調査総合センターでは,20万分の1重力図の系統的
整備を行っている.「松山地域重力図(ブーゲー異常)」は,20万分の1地
質図幅「松山」(地質調査所地質部編図課, 1957),「宇和島」(寺岡・栗
本, 1989)の領域を含む北緯32度40分から34度5分,東経131度52分30秒か
ら133度7分30秒までの範囲において,重力データの新規測定及び既存重力
データの編集作業を行い作成された.
当該範囲で使用した測定点は合計10,819点で,そのうち陸域は5,850点,海
域は4,906点である.陸域で取得された測定点の内訳は,産業技術総合研究
所地質調査総合センター622点,新エネルギー・産業技術総合開発機構45点,
国土地理院380点,愛媛大学4,236点,高知大学417点,名古屋大学149点,
島根大学58点, 京都大学6点である.また海域については,地質調査所白嶺
丸GH831 及びGH832航海により取得された2,624点のデータ,海上保安庁が取
得した124点,東京大学海洋研究所淡青丸KT91-10次航海(小泉ほか,1994)
により瀬戸内海で取得された2,158点のデータを使用した.本重力図編集
にあたり,地質調査総合センターでは,愛媛県・高知県にわたる四国西部と
山口県南東部地域において,2002年から2006年にかけて新たに重力測定を実
施した(新規測定分は506点).新規測定点の位置決定にはGPSを利用した.
山間部を中心にした地域で,可能な限り標高の高いところで測定を行い,
既存データとの標高差が大きくなるように留意した.なお,上記の愛媛大学の
データには2,206点の未公表データが含まれている.特に松山平野周辺で稠密
な測定を行っている(池田ほか, 2003; 市原ほか, 2004).
測定重力値は,日本重力基準網1975に準拠したものであり,広域重力場は測
地基準系1980に基づく正規重力式を使用した.地形補正は,「国土情報整備
事業」の一環として国土交通省国土地理院において作成された標高に関する
国土数値情報資料,数値地図50mメッシュ(標高)及び海上保安庁発刊の海底
地形図を用いて60kmの範囲まで実施した.各種の重力補正の方法は,地質調査
所重力補正手順SPECG1988(地質調査所重力探査グループ,1989)に基づいて
いる.ブーゲー補正,大地補正及び地形補正に用いた仮定密度は,2.3g/cm
3で
ある.また,海域の船上重力データについては,変針点付近の不良データを予
め除去し,その他の船上重力データ取得に関わる誤差から生じる不自然な短波
長異常は,水深に対応する上方接続フィルターを施して除去した(駒澤ほか,
1999).このような処理手順により得られた仮定密度2.3g/cm
3の重力異常分布
を地形陰影に重ねたコンターで示した(重力図面).
本地域は,大局的には中央構造線に沿ってコンター間隔が密であるブーゲー異
常の急変帯を挟んで,南東側が正異常域,北西側が負異常域になっている(第3図 も
参照のこと).足摺岬付近で最大約80 mgalとなり,伊予灘で最小の約 −50 mgal
となっている. 急変帯の南東側にも一部負異常域がみられるが,大局的には
豊後水道を境に東の四国側では正異常が卓越し,西の九州側では負異常が卓越
している.正異常が卓越する四国側の北緯33度15分以南では比較的滑らかな重
力異常分布である.一方,それより北側で急変帯と挟まれる地域は,正異常と
負異常が交錯し,かつ,短波長の重力異常が卓越している.
このように特徴づけられる重力異常分布は,大局的な地質構造(例えば,日本
の地質「四国地方」編集委員会編(1991))との対応が見られる.中央構造線に
沿う急変帯より北側の負異常域は花崗岩が広く分布する領家帯,四国南部の滑
らかな正異常域は堆積岩類が分布する四万十帯と対応し,また,その間の重力
異常分布が複雑な地域は,表層に現れている地質分布も複雑な三波川帯・秩父
帯と対応している.
第1図と第2図に,それぞれ仮定密度2.0 g/cm
3及び2.67 g/cm
3の重力図を示す.
本重力図(重力図面)では単一の仮定密度2.3g/cm
3で計算したブーゲー異常を示
したが,実際の表層地質は変化に富んでいることから,仮定密度の違いにより,
地域によって地形との相関度が異なる場合がある(参考の付図3参照).これら
異なる仮定密度の重力図と比較したとき,大局的に見ると,コンターのパターン
は2.3g/cm
3の重力図と大きく変わることはない.しかし,本地域全体に対して,
特に久万高原や大野ヶ原周辺の山間部の重力異常のコンターパターンに着目する
と,標高と地形との間には,仮定密度が小さいほどより大きな相関のあるパター
ンを,仮定密度が大きいほどよりなめらかなパターンを示していることがわかる.
このことから本重力図には地形の影響が残っていると考えられ,重力異常のパタ
ーンを解釈するときには注意が必要である.

第1図 重力(ブーゲー異常)図
仮定密度:2.0 g/cm3.コンター間隔:1 mGal.波線は負値を示す.
HとLは各々高重力異常および低重力異常を示す.
太線は活断層分布(活断層研究会編,1991)を示す.
Fig.1 Gravity map (Bouguer anomaly)
Assumed density: 2.0 g/cm3. Contour interval: 1 mGal.
Dashed lines indicate negative values.H and L indicate high and low gravity anomalies, respectively.
Thick solid lines indicate active faults.

第2図 重力(ブーゲー異常)図
仮定密度:2.67 g/cm3.コンター間隔:1 mGal.第1図参照.
Fig.2 Gravity map (Bouguer anomaly) Assumed density: 2.67 g/cm3. Contour interval: 1 mGal.See Fig. 1.
最適な仮定密度を定量的に推定する方法は,ABIC最小化法(Murata, 1993)など,
数多く提案されている.最適な密度は,重力異常と地形の相関を小さくするとい
う考えのもと,Komazawa (1995)にならい,本地域の陸域のデータから計算した
上方接続残差(第4図参照)の分散をもっとも小さくする仮定密度を探索した.
その結果は2.59 g/cm
3となった.つまり,地形の影響の少ない地下構造を反映し
た重力異常パターンは第2図に近いものになる.
本地域の重力異常の特徴を明瞭にし,かつ,地質構造との対応を示すために,各
種フィルターを施した図を作成した.第3図に,上方2kmの高さにおけるブーゲー
異常を計算した上方接続図を示す.第4図には,第3図を広域トレンドとして除去
した上方接続残差図を,そして,第5図に水平微分図を示す.
上方接続図(第3図)は,地下深部の構造や大局的な構造,すなわち長波長成分,
を見やすくするために,本重力図に対してローパス・フィルター処理を施したも
のである.大局的な構造は,前述したように地質帯の区分とよく対応している.
同じ四万十帯に属する地域でも四国側が高異常で九州側が低異常であるのは,地
下に沈みこむスラブ(フィリピン海プレート)の影響の違いによると考えられる.
フィリピン海プレートなど深部構造に起因する重力異常は,例えば領木(1999),
Furuse and Kono (2003)によって示されている.

第3図 上方接続図
仮定密度が2.3 g/cm3の重力(ブーゲー異常)図を2 km上方接続.
コンター間隔:1 mGal.負値には影を付けて表示している.太い実線は,活断層(活断層研究会編,1991)を示す.
Fig.3 Regional Bouguer anomalies continued upward 2km Contour interval: 1 mGal. Gray areas indicate negative values.
Thick short solid lines indicate active faults.
上方接続残差図(第4図)は本重力図に対して,ハイパス・フィルター操作を施し
たものである.この図は,深部構造による重力異常が除去されているので,深度
数km(必ずしも上方接続高度と同じ2kmではない)よりも浅い構造が抽出できる.
また,水平微分図(第5図)は,断層のような線状の構造異常がある場所などで,
水平微分値が大きくなるという特徴を持つ.
第4図には,東西に比較的連続性のよい低異常が領家帯に対応する地域にあり,
またその南側に沿って三波川帯に対応する地域に高異常が連続している.それよ
り南側には,スポット的に高異常があり,御荷鉾緑色岩類の分布と対応している.
南側突端に位置する足摺岬付近にも同心円状の高異常があるが,斑れい岩類が露出
する地域と一致する.

第4図 上方接続残差重力図
上方接続図(第3図)を仮定密度が2.3 g/cm3の重力(ブーゲー異常)図から引い
た残差図.
コンター間隔:1 mgal. 第3図参照.
Fig.4 Residual Bouguer anomalies with the removal of the 2 km upward-continuation. See Fig.3.
第5図では,中央構造線に対応して水平微分値の大きい領域がほぼ東西に延びて
いる.
また,第4図でスポット的に高異常がみえていた御荷鉾緑色岩類・斑れい岩類とまわ
りの地質境界で,水平微分値が大きくなっている.ここで述べた第4図,第5図の特
徴は,仮定密度を2.67 g/cm
3にしても変わらず,むしろ北緯33度35分,東経133度付
近のスポット的高異常は,2.3 g/cm
3の場合よりも明瞭になる.

第5図 水平微分図.
仮定密度が2.3 g/cm3の重力(ブーゲー異常)図から計算.
コンター間隔:1 mgal/km.3 mgal/km以上に陰を付けた.第3図参照.
Fig.5 Horizontal gradients of Bouguer anomaly
Contour interval: 1 mgal/km. Gray areas indicate values more than 3 mgal/km. See Fig.3.
Gravity Map of Matsuyama District (Bouguer Anomalies)
A new 1:200,000 gravity map of Matsuyama district has been published.
Compiled gravity data within the map area were 17,605 stations including new 506 gravity stations on land, mainly in mountains area.
All measured gravity data were referred to the Japan Gravity Standardization Net 1975 (JGSN75) and normal gravity values were calculated
according to the Geodetic Reference system 1980 (GRS80).
Bouguer, terrain and other corrections were made by the standard procedure of gravity data processing at the Geological Survey of Japan (SPECG1988).
The Bouguer and terrain corrections were carried out as an effect of bounded spherical crust and actual topographic undulation relative to the spherical surface,
respectively, within the distance range of 60 km. The density for both Bouguer and terrain corrections is taken to be 2.3 g/cm
3 (shown on map side).
Maximum and minimum values of the Bouguer anomaly map are approximately 80 mgal near the Ashizuri Cape and -50 mgal near Iyo-nada in the Seto inland sea,respectively.
The Bouguer anomaly map shows clear correlation with a geological structure pattern in general. Long-wavelength patterns of gravity anomalies are coincident with distributions of the geological belts:
The Ryoke belt (the northwestern part of this area) roughly shows negative anomalies. The Sanbagawa and the Chichibu belts (the middle area) show a mix of negative and positive anomalies.
The Shimanto belt (the southeastern area) shows positive anomalies.
It is noted that short-wavelength high anomalies correspond to areas of the Mikabu greenstone complex and gabbro near the Ashizuri Cape. We show gravity maps with assumed densities of 2.0 g/cm
3 (Fig.1) and 2.67 g/cm
3 (Fig.2).
Regional Bouguer anomalies continued upward 2 km (Fig.3), gravity residual anomalies with the removal of the 2 km upward-continuation (Fig.4) and horizontal derivation (Fig.5) maps are also shown in this description side.
The Bouguer anomalies caused by local geological feature are emphasized on the residual map.
The horizontal derivation map clearly shows structural boundaries like active faults as the Median Tectonic Line between the Ryoke belt and the Sanbagawa belt.
文献
地質調査所地質部編図課(1957),20万分の1地質図幅「松山」,地質調査所.
Furuse, K. and Y. Kono (2003) Slab residual gravity anomaly: gravity reduction dueto subducting plates beneath the Japan Islands, J. Geodynamics, 36, 497-514.
活断層研究会編(1991) 新編日本の活断層−分布図と資料−,東京大学出版会,437p.
Komazawa, M. (1995) Gravimetric analysis of Aso volcano and its interpretation. J.Geod. Soc. Japan, 41, 17-45.
Murata, Y. (1993) Estimation of optimum average surficial density from gravity data:An objective Bayesian Approach. J. Geophys. Res., 98, 12097-12109.
日本の地質「四国地方」編集委員会編(1991) 日本の地質8四国地方,共立出版,266p.
領木邦浩(1999) 西南日本の3次元深部構造と広域重力異常,地震2, 52, 51-63.
寺岡易司・栗本史雄(1989) 20万分の1地質図幅「宇和島」,地質調査所.