重力図 24
Gravity Map Series 24
森尻 理恵, 佐藤 秀幸, 名和 一成, 広島 俊男, 村田 泰章, 牧野 雅彦, 駒澤 正夫, 上嶋 正人, 石原 丈実, 岸本 清行, 大熊 茂雄, 小室 裕明, 大野 一郎, 志知 龍一
MORIJIRI Rie, SATOH Hideyuki, NAWA Kazunari, HIROSHIMA Toshio, MURATA Yasuaki, MAKINO Masahiko, KOMAZAWA Masao, JOSHIMA Masato, ISHIHARA Takemi, KISIMOTO Kiyoyuki, OKUMA Shigeo, KOMURO Hiroaki, OHNO Ichiro, SHICHI Ryuichi
2006年 6月30日 発行

本重力図は,北緯33度55分から35度20分,東経130度
50分から132度7分30秒までの範囲について重力データの
測定及び編集を行い作成された.当該範囲で使用した測
定点は合計16,274点で,そのうち陸域は6,107点,海域は
10,167点ある.海域は全て1985年の地質調査所白嶺丸
GH85-2航海で,LaCoste & Romberg SL-2型船上重力計
を用いて測定したデータを用いている.陸域の測定点の
内訳は,地質調査総合センター2,352点,新エネルギー・
産業技術総合開発機構173点,宇部興産(株)112点,石
油天然ガス・金属鉱物資源機構(旧金属鉱業事業団)
2,065点,国土地理院313点,名古屋大学44点,島根大学
1,004点,愛媛大学44点である.ここには,測定点密度
が比較的粗かった防府市,周南市,萩市を中心とした地
域で2001年から2004年にかけて地質調査総合センターが
新規に取得した844点も含まれる.新規の測定には
LaCoste & Romberg G型重力計を用いた.編集作業では,
東経132度を境界として本区域東側で「広島」と接する
部分を含め,作図には「山口」周辺部分のデータも含め
て処理を行っている.
産業技術総合研究所地質調査総合センターの重力図シ
リーズでは全国カバーのために統一的な処理方法を採用
している.測定重力値は日本重力基準網1975に準拠した
ものであり,広域重力場は測地基準系1980に基づく正規
重力式を使用した.地形補正は,「国土情報整備事業」
の一環として国土交通省国土地理院において作成された
標高に関する国土数値情報資料,数値地図50mメッシュ
(標高)並びに海上保安庁発刊の海底地形図を用いて
60kmまで実施した.各種の重力補正の方法は,地質調
査所重力補正手順SPECG1988(地質調査所重力探査グルー
プ,1989:地調月報,Vol.40,601-611)に基づいている.
ブーゲー補正,大地補正及び地形補正に用いた仮定密度
は,2.3g/cm
3である.また,海域の船上重力データにつ
いては,変針点付近の不良データを予め除去し,その他
の船上重力データ取得に関わる誤差から生じる不自然な
短波長異常は,水深に対応する上方接続フィルターを施
して除去した(駒澤ほか,1999).
本重力図(ブーゲー異常,仮定密度2.3g/cm
3)では,
新規に測定点を追加したことによって,広域の重力図(例
えば100万分の1日本重力図(駒澤ほか,1999))では,
測定点密度が低いため不明瞭であった防府市や周南市徳
山湾周辺,萩市などで,新規に測定点を追加したことに
よって,地質境界も重力異常にはっきり表れるようになっ
た.具体的には,地質図(例えば20万分の1シームレス
地質図(地質調査総合センター編,2005))上で見られ
る萩市や防府市の市街地のような平地に分布する新生代
の堆積層と周辺の山岳地を形成する白亜紀後期の非アル
カリ火山岩類や中生代の変成岩類との境界が,本重力図
にはかなり明瞭な境界となって表れている.
特徴的なブーゲー異常としては,本区域の陸域東部よ
り中央部の防府市付近まで分布する低ブーゲー異常帯が
挙げられる.この低ブーゲー異常帯は,100万分の1重力
図で見ると広域的なパターンを示し,広島県西部から西
は山口県東部,南は瀬戸内海にかけて広がっている.この
低ブーゲー異常帯の西端がちょうど当該区域の東部に位
置する山岳地域に対応している.20万分の1シームレス
地質図(地質調査総合センター編,2005)と比較すると,
ここは白亜紀後期の珪長質火山岩類や深成岩類の山地になっ
ており,仮定密度2.3g/cm
3で計算したブーゲー異常が負に
なるほど表層密度が小さいとは考えにくい.そこでこの
負異常は,局所的な地質構造を反映したものではなく,
広域的な大構造の影響だと考えられる.また,日本海側
の角島から下関市北部付近,萩市の高山付近,益田市の
沖合に局所的な高重力異常が見られる.下関市北部には
中生代の深成岩類,高山では,新生代の苦鉄質深成岩類,
などの岩体が分布する(地質調査総合センター編,2005).
高重力異常の広がり方から,これらの岩体は日本海側へ
延びていることも示唆される.
本重力図では仮定密度2.3g/cm
3のものを提示したが,ブー
ゲー異常は,仮定密度(もしくは,補正密度)のとり方
で地形との相関度が異なる(付図3参照).ブーゲー異常
の計算には,地形のパターンと無相関になる最適な仮定
密度を採用するのが理想であるが,1枚の図画の中で表層
地質のバリエーションが大きいと,図面全体に対して最
適な仮定密度を設定するのは困難である.そこで,異な
る仮定密度で計算されたブーゲー異常図を比較すること
によって,おおまかな密度構造を把握することができる.
第1図と第2図にそれぞれ仮定密度が2.0g/cm
3と2.67g/cm
3
のブーゲー異常図を示す.広域的な概略の特徴は2.3g/cm
3
のブーゲー異常図とあまり変わらないが,特に東部域の
山岳部でのブーゲー異常のパターンに着目すると,仮定
密度が小さいほうが山岳地で地形とより相関の大きいパター
ンになっており,密度が高いほどなめらかなコンターパター
ンを示している.よって,東部の山岳地域の仮定密度は
2.67g/cm
3に近い値が適しているといえ,花崗岩の分布と
整合的である.逆に表層密度が小さいと予想される防府
市付近では,地形が平坦で標高が低いために,仮定密度
を変えてもさほど大きなブーゲー異常のパターンの差となっ
て表れていない.

第1図 重力(ブーゲー異常)図
仮定密度:2.0 g/cm3.コンター間隔:1 mGal.波線は負値を示す.
HとLは各々高重力異常および低重力異常を示す.
太線は活断層分布(活断層研究会編,1991)を示す.
Fig.1 Gravity map (Bouguer anomaly)
Assumed density: 2.0 g/cm3. Contour interval: 1 mGal.Dashed lines indicate negative values.H and L indicate high and low gravity anomalies, respectively.Thick solid lines indicate active faults.

第2図 重力(ブーゲー異常)図
仮定密度:2.67 g/cm3.コンター間隔:1 mGal.第1図参照.
Fig.2 Gravity map (Bouguer anomaly)
Assumed density: 2.67 g/cm3. Contour interval: 1 mGal.See Fig. 1.
上方接続フィルターは,ローパス・フィルター操作と
同様で,地下深部の構造や大局的な構造を見易くする.
第3図「上方接続図」は,本重力図(ブーゲー異常,仮
定密度2.3g/cm
3)の500mメッシュデータから,2kmの高
さでのブーゲー異常を計算したものである.第3図では,
ブーゲー異常の広域的特徴が明瞭で,本地域の東側半分(陸
域)では負値の低ブーゲー異常が広く分布し,日本海側
沿岸部においては高ブーゲー異常が卓越して分布するこ
とがわかる.

第3図 上方接続図
本重力図(ブーゲー異常,仮定密度2.3g/cm3)を2km上方接続.
コンター間隔:1mGal.負値には影を付けて表示している.太線は,活断層分布
(活断層研究会編,1991)を示す.
Fig.3 Regional Bouguer anomalies continued upward 2km
Contour interval:1mGal. Gray areas indicate negative values. Thick solid lines indicate active faults.
さらに,第4図には,第3図(2kmの上方接続)を広
域トレンドとして除去した,上方接続残差図を示す.こ
れはハイパス・フィルター操作を施したものと同様になる.
上方接続残差図では,深部構造によるブーゲー異常が除
去されているため,深度数km(必ずしも上方接続高度と
同じ2kmではない)よりも浅い構造が抽出されている.
先に述べた広域的な低ブーゲー異常帯も広域トレンドと
して除去されている.そのため,20万分の1縮尺程度の地
質図との対比には,むしろブーゲー異常図そのものより
も対比がし易くなっていることが多い.第4図を見ると
浅部の高密度岩体(基盤岩)の起伏がより明瞭になった.
特に海域では,北東から南西方向の日本海側の海岸線に
平行な方向で,高ブーゲー異常帯と低ブーゲー異常帯が
ほぼ平行に,そして交互に見えることが特徴的である.
陸域にもこの傾向が続いているようにも見え,北東―南
西方向が当該地域の大局的な地質構造の方向でもあるが,
もう少し複雑な地下構造を反映している.

第4図 上方接続残差図
2km上方接続図(第3図)を仮定密度が2.3g/cm3の重力 (ブーゲー異常) 図から引い
た残差図.コンター間隔:1mGal.第3図参照.
Fig.4 Residual Bouguer anomalies with the removal of the 2km upward-continuation. See Fig.3
断層等の構造境界の抽出に良く用いられる手法に水平
微分図がある.本重力図(ブーゲー異常,仮定密度2.3g/cm
3)
の500mメッシュデータから計算された水平(1次)微分
図を第5図に示す.断層のような線状の構造異常がある
場所では,水平微分の大きい点が線上に並ぶ.第5図では,
角島から宇部市にかけて水平微分が大きい点が線上に並
ぶ部分があるが,そこは菊川断層(活断層研究会編,1991)
に相当する.そのほかに,山陽小野田市から宇部市北方
にかけても水平微分値が高く,この付近に構造境界の伏
在が推定される.また,断層に起因する不均質密度構造
が浅いところにある方が微分値は大きくなることに留意
する必要がある.山口地域では,多くの構造境界が海岸
線にほぼ平行に並んでいるように見える.

第5図 水平微分図
仮定密度が2.3g/cm3の重力(ブーゲー異常)図から計算.
コンター間隔:1mGal/km.2mGal/km以上の部分に陰を付けた.第3図参照.
Fig.5 Horizontal gradients of Bouguer anomaly
Contour interval : 1mGal/km. Gray areas indicate values more than 2mGal/km. See Fig.3
Gravity Map of Yamaguchi District (Bouguer Anomalies)
A new gravity map of Yamaguchi district has been published.
Compiled gravity data within the map area were 16,274 stations including 844 new gravity stations on land.
All measured gravitydata were referred to the Japan Gravity Standardization Net 1975 (JGSN75) and normal gravity values were calculated according to the Geodetic Reference System 1980 (GRS80). Bouguer,
terrain and other corrections were made by the standard procedure of gravity data processing at the Geological Survey of Japan (SPECG1988).
The Bouguer and terrain corrections were carried out as an effect of bounded spherical crust and actual to-pographic undulation relative to the spherical surface, respec-tively, within the same distance range of 60km.
The density for both Bouguer and terrain corrections is taken to be 2.3g/cm
3. We show gravity maps assumed densities were 2.0g/cm
3 (Fig.1) and 2.67g/cm
3 (Fig.2), respectively.
Regional Bouguer anomalies (Fig.3), a residual Bouguer anomalies with the removal of the 2km upward-continuation (Fig.4) and horizontal derivation (Fig.5) maps were shown in this side.
The Bouguer anomalies caused by local geological feature are clearer on the residual map. The horizontal derivation map clearly shows structural boundaries like active faults.
文献
活断層研究会編(1991)新編日本の活断層―分布図と資料―.
東京大学出版会,437p.
駒澤正夫・広島俊男・石原丈実・村田泰章・山崎俊嗣・上嶋正人・牧野雅彦・森尻理恵・志知龍一・岸本清行・木川栄一(1999)100万分の1日本重力図(ブーゲー異常).
地質調査所.産業技術総合研究所 地質調査総合センター(編)(2005)20万分の1日本シームレス地質図データベース 2005年10月20日版.
産業技術総合研究所研究情報公開データベースDB084,産業技術総合研究所 地質調査総合センター.