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Photo of the volcano
噴火初日6/4,南東80 kmのPuerto Varasから.
作成・引用: Andrej Kupina, ライセンス: CC BY-NC-ND 2.0

プジェウエ=コルドン・カウジェ
2011年噴火

Puyehue Cordon-Caulle 2011 Eruption
  • 発生地域: チリ
  • アンデス南部火山帯(SVZ)
  • 噴火規模: VEI 5
  • ※VEIはスミソニアン博物館GVP (Global Volcanism Program)による

    1.09 km3 (テフラ) + 0.5-0.8 km3 (溶岩) + ~0.8 km3 (潜在溶岩ドーム)

    最高噴煙高度: 13.7 km

  • マグマ組成: 流紋岩質
  • 噴火トレンド: 減衰型
火山の位置(厳密な火口の位置を示すものではない).

主要な噴出物等

  • 降下火砕物
  • あり

  • 火砕流
  • あり

  • 溶岩
  • ピーク後,潜在溶岩ドームの形成,およびオブシディアン溶岩の噴出

外部リンク:

米スミソニアン博物館 Volcanoes of the World: Puyehue Cordon-Caulle

噴火の全体的な推移

カーソルを合わせると詳細が表示される.噴出率(MER)はBonadonna et al. (2015)による.火山活動の強度を示す縦軸にとったVUCの詳細は【こちら】

前兆現象・噴火開始

2011年の活動は1921年および1960年の活動と類似して(サブ)プリニー式噴火に始まり珪長質溶岩の噴出で終息したが,火砕物と溶岩双方において噴出量がやや大きかった点,溶岩が黒曜石質の形態をとっていた点,割れ目火口ではなくほぼ単一の火口で噴出が起こった点などが異なる.なお前年2月のMw 8.8 マウレ地震と同時期にCordillera Nevadaカルデラにおいて圧力源深さ~2 kmの小さな中心部の隆起と縁辺部の沈降がおきたと見られているが,Cordon-Caulleに変化はなく,熱水溜まりに関連する活動とみられる (Jay et al. 2014).

2011年の活動に先立ち,Cordon-Caulleは隆起傾向にあった.InSAR解析によれば,2003-2005年には1 cm/y,2004-2006年では3 cm/y,そして2007-2008年には19.8 cm/yもの隆起がみられており (Fournier et al. 2010),その頃浅い地震も起こるようになっていた(Bertin et al. 2015).しかしながら噴火前の隆起から推定される膨張量は2011噴火の噴出量より一桁以上少なかった(Jay et al. 2014).2011年に入ると2月には構造性,低周波,ハイブリッド型の地震が北部で起きるようになった.4月末には顕著な地震活動の高まりが起き現地住民が噴気の増加を通報したが,チリ国立地質鉱山調査所(SERNAGEOMIN)の航空調査では異常はみつからなかった.27日の時点で震源は4-6 kmの深さに集中しており,多くがハイブリッド型地震で最大マグニチュードはM3.9であった.地震活動は29日までに減少したが,5月4日と17日にはそれぞれMw3.5と4.2の地震が発生し継続した.6月1日に地震活動は再び激しくなり,2日には深さ2-5 km付近を震源に毎時60回に達した.SERNAGEOMINおよび現地当局関係者が航空調査をしたが,この時点でも顕著な異常は見られなかった.4日に入ると地震活動は毎時230回に達し,震源深さは1-4 kmと浅くなっていた.6時間でマグニチュード3以上が50回,4以上が12回と規模の大きな地震も含まれていた(Global Volcanism Program, 2011).

噴火推移

Cordon-Caulleのグラーベン東部にWe Pillán火口が形成され噴火が開始したのは6月4日14:30ないし14:45(18:45 UTC)頃であった.噴煙柱は15:15には10-12 kmの高度に達し(サブ)プリニー式噴火に発展した.噴煙は4日のうちに高度10.7-13.7 kmに達して東南東方向へ870 kmにわたって流され,5日も噴煙柱は高度10.7-12.2 kmを維持し側方に伸びた噴煙の全長は1778 kmに達した(VAAC Buenos Aires, 2011).噴煙柱高度からモデリングにより推定されたこの期間の質量噴出率(MFR)はほぼ107 kg/sに達した(Bonadonna et al. 2015).Pistolesi et al. (2015)は4日から5日にかけての24-30 hを一連の噴火のピークとし,粗粒の軽石質の噴出物からなる0.75 km3のUnit Iをこのときの噴出物として識別した.またこの間噴煙柱は噴火開始以降少なくとも5回にわたって部分的崩壊を起こし,これに伴う火砕流が主に北へ流下した.5日以降,Bonadonna et al. (2015)による推定ではMFRはその後15日までやや減少しながらも106 kg/s以上で変動しながら推移した.6日から7日にかけては風向の急激な変化があり,北北東であった6日には噴煙柱高度は5.5-9.8 km,西風であった7日には5.5-9.8 kmに低下した(VAAC Buenos Aires).この風向変化と同期してPistolesi et al. (2015)のUnit IIおよびIIIがそれぞれ堆積したが,そのうちUnit IIにはそれまでなかった新鮮な黒曜石質の岩片が多量に含まれており,火道の状態が変化したことを示唆していた.7日以降のUnit III噴出物は降下火砕物はより細粒になる一方,噴火様式がより間欠的になり弾道放出物がみられるようになった.また前後関係は不明ながら6~11日にかけて火口西側に潜在溶岩ドームとみられる隆起が発達し,1ヶ月後の7月6日までに火口周辺の~12 km2にわたって最大200 m以上の隆起を引き起こした(Castro et al. 2016).

溶岩は15日に観測されたTerraSAR-X衛星のレーダー画像に初めて登場し,その時点で既に1 km以上流下していた(Bertin et al. 2015).同じ15日頃に火口における爆発的噴火のMFRは安定して106 kg/sを下回るようになったとみられ(Bonadonna et al. 2015),また噴出物も粗粒なものを含ず近傍のみに堆積したUnit IVに転じていた(Pistolesi et al. 2015).溶岩の時間あたり噴出量は25日頃に72.1±5.6 m3/sのピークを迎え,7月中旬に20 m3/sで下げ止まった(Bertin et al. 2015).この溶岩は黒曜石質のブロック状溶岩であり,2012年1月時点での先端での厚さは30-40 mであった.噴出は2012年3月15日まで続いたと推測されているが,溶岩先端は2013年1月11日時点でも流動を続けていたことが観察されている(Tuffen et al. 2013).最終的にこの2011年溶岩は30 km以上にわたる溶岩原を形成した.

2011年の一連の噴火では無斑晶質な流紋岩とデイサイトの境界付近の68-72% SiO2のマグマが噴出し,微量元素組成の範囲からも比較的均質なマグマだまりであったことが推定されている(Pistolesi et al. 2015).またCastro et al. (2013)は鉄チタン酸化物温度計と水飽和条件からこれらのマグマが当初保存されていた深さを2.5-5.0 kmと推定した.噴出物の体積はテフラであるUnit Iが0.75 km3,Unit IIが0.21 km3,Unit III中の最も粗粒なK2層が0.05 km3であり,火砕流堆積物の総量が0.08±0.01 km3,それ以外の噴出物はそれ未満と見積もられている(Pistolesi et al. 2015).また溶岩の総噴出量は0.5-0.8 km3であったほか(Tuffen et al. 2013; Farquharson et al. 2015),潜在溶岩ドームとして地下浅所で隆起を引き起こしたマグマの体積も最大0.8 km3あったと見積もられている(Castro et al. 2016).

日付時刻継続時間(h)VUC内容出典
2011 2月1構造性・低周波・ハイブリッド型の地震活動が開始Global Volcanism Program (2011)
2011/04/26約72時間2顕著な地震活動の高まり。震源深さ4-6 km。多くがハイブリッド型地震。Global Volcanism Program (2011)
2011/04/260住民が異常な噴気活動を通報したが、航空調査では異常は見つからなかったGlobal Volcanism Program (2011)
2011/06/012地震活動の再活発化。震源深さ2-5 km。Global Volcanism Program (2011)
2011/06/010航空調査では異常見つからずGlobal Volcanism Program (2011)
2011/06/04約6.0日間2地震活動が更に活発化。震源深さ1-4 kmと浅くなる。6時間でM4以上が12回。Global Volcanism Program (2011)
2011/06/04 14:455噴火開始。We Pillán火口の形成。Global Volcanism Program (2011)
2011/06/04 14:45約27時間5サブプリニー式噴火Pistolesi et al. (2015)
2011/06/06 00時頃約36時間4噴出物中の岩片の減少、黒曜石の増加。風向変化による噴煙柱高度、ユニットの変化。Pistolesi et al. (2015)
2011/06/06約5.0日間2We Pillán火口西側に潜在溶岩ドーム形成Castro et al. (2016)
2011/06/07約8.0日間4細粒物の噴出とまれにブルカノ式噴火Pistolesi et al. (2015)
2011/06/11約30日間21ヶ月かけて潜在溶岩ドームがWe Pillán火口全体に広がり200m以上隆起Castro et al. (2016)
2011/06/15約9.1ヶ月3黒曜石質の溶岩の噴出(~2012/3/15)Bertin et al. (2015)
2011/06/253溶岩の噴出率ピーク(72.1 m3/s)Bertin et al. (2015)
2012/03/150溶岩の噴出終了?Bertin et al. (2015)
噴火推移のイベント一覧.時間は全て現地時刻.

長期的活動推移

Puyehue Cordon-Caulle(PCC)火山群はCordillera Nevadaカルデラと成層火山のPuyehue,そして両者をつなぐ長さ9 kmのグラーベン構造に噴出した珪長質単成火山群Cordon-Caulleからなる.活動史はLara et al. (2006)に詳しく,遅くとも40万年前にはCordillera NevadaとCordon-Caulle火山が山体の形成を開始し,Puyehue火山も24万年前には存在したものとみられている.

Cordillera Nevada火山は玄武岩質安山岩からデイサイト質までのマグマ組成であり,13~7万年前のいずれかの時点でSan Pablo火砕流(>15 km3)を噴出,直径8.5 kmのカルデラを形成した.カルデラ形成後も環状断層沿いに安山岩質溶岩を噴出するなどしたが,完新世に顕著な活動を行った痕跡はない.現在は後述のCordon-Caulleのグラーベン構造に取り込まれている.

Puyehue火山も同様に玄武岩質から流紋岩質まで幅広いマグマの組成レンジをもち,現在の成層火山体は山頂に直径2.4 kmのカルデラを持つ.山体はチリ海溝南部の沈み込み帯に沿って1200 kmにわたって南北に伸びる長大なLiquiñe-Ofqui断層帯(LOFZ)と重なっている.歴史記録に噴火はないが,この山頂カルデラは6.4 kaの年代が得られている流紋岩質溶岩を切っている.また北西側の山腹には直径0.6 kmの火口があり,2.2 kaより新しいと考えられている.

Cordon-Caulleはデイサイトから流紋岩質のマグマを溶岩や火砕物として噴出する火山であり,Cordillera Nevadaカルデラの形成と前後して遅くとも7万年前までには独特なグラーベン構造内部での単成火山活動を行うようになった.PCC火山群で唯一歴史記録のある噴火を引き起こしており,1921年と1960年そして2011年に規模の大きい噴火があり,いずれもサブプリニーないしプリニー式噴火に始まりデイサイト~流紋岩質の溶岩流出を経て終息している.加えて溶岩噴出はないものの,1990年に形成されたと推定されている小さな火砕丘も存在する.やや不確かではあるものの,1996~99年の干渉ペアによるInSAR解析では3 cm/y程度の沈降が観測されている(Pritchard and Simons, 2004).

引用文献

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Castro, J.M., Cordonnier, B., Ian Schipper, C., Tuffen, H., Baumann, T.S., Feisel, Y., 2016. Rapid laccolith intrusion driven by explosive volcanic eruption. Nat. Commun. 7, 13585. https://doi.org/10.1038/ncomms13585

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Fournier, T. J., Pritchard, M. E., & Riddick, S. N. (2010). Duration, magnitude, and frequency of subaerial volcano deformation events: New results from Latin America using InSAR and a global synthesis. Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 11(1). https://doi.org/10.1029/2009GC002558

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Jay, J., Costa, F., Pritchard, M., Lara, L., Singer, B., Herrin, J., 2014. Locating magma reservoirs using InSAR and petrology before and during the 2011–2012 Cordón Caulle silicic eruption. Earth Planet. Sci. Lett. 395, 254–266. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2014.03.046

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Pistolesi, M., Cioni, R., Bonadonna, C., Elissondo, M., Baumann, V., Bertagnini, A., Chiari, L., Gonzales, R., Rosi, M., Francalanci, L., 2015. Complex dynamics of small-moderate volcanic events: the example of the 2011 rhyolitic Cordón Caulle eruption, Chile. Bull. Volcanol. 77. https://doi.org/10.1007/s00445-014-0898-3

Pritchard, M. E., & Simons, M. (2004). An InSAR-based survey of volcanic deformation in the southern Andes. Geophysical Research Letters, 31(15), 993. https://doi.org/10.1029/2004GL020545

Tuffen, H., James, M.R., Castro, J.M., Ian Schipper, C., 2013. Exceptional mobility of an advancing rhyolitic obsidian flow at Cordón Caulle volcano in Chile. Nat. Commun. 4. https://doi.org/10.1038/ncomms3709