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Photo of the volcano
「夜分大焼之図」
作成・引用: 作者不詳(美斎津洋夫氏所蔵), ライセンス: 禁転載.All rights reserved.

浅間
天明噴火

Asama 1783 Eruption
  • 発生地域: 日本
  • 本州中部
  • 噴火規模: VEI 4
  • ※VEIは産総研 1万年噴火イベントデータ集による

    0.48 km3 DRE

    最高噴煙高度: 不明

  • マグマ組成: 安山岩質
  • 噴火トレンド: エスカレート型
火山の位置(厳密な火口の位置を示すものではない).

主要な噴出物等

  • 降下火砕物
  • あり

  • 火砕流
  • あり

  • 溶岩
  • ピーク後,火砕成溶岩の噴出

産総研リンク:

第四紀火山: 浅間山

1万年噴火イベントデータ集: 1783年噴火

外部リンク:

気象庁 全国の活火山の活動履歴等: 浅間山

米スミソニアン博物館 Volcanoes of the World: Asamayama

噴火の全体的な推移

カーソルを合わせると詳細が表示される.火山活動の強度を示す縦軸にとったVUCの詳細は【こちら】

前兆現象・噴火開始

浅間前掛火山では,B ́軽石を噴出した1128年噴火以降,1783年噴火までの間,山麓に顕著な堆積物を残す規模の噴火は記録されていない.しかし,信頼できる歴史記録が残る16世紀末以降では,1783年噴火までの間に数年~10数年おきに山頂火口からの小規模な噴火が記録されている.これらの噴火は,噴出物の特徴からブルカノ式噴火がが卓越していたと考えられる.

噴火推移

1783年噴火は浅間前掛山頂火口から発生した.その噴火推移は歴史記録およびそれに対応した地質記録からまとめられている.Aramaki (1956, 1957)により噴火推移がまとめられたのち,田村・早川(1995)やYasui and Koyaguchi (2004)などにより再解釈が行われた.このまとめは主にこの二つの文献による.それらによると,1783年5月9日(田村・早川1995では8日)に小噴火が発生し,その後静穏状態を経て6月25日午前10時ごろやや規模の大きなブルカノ式噴火が発生した.その後小規模な噴火があるものの小康状態を経て,7月18日夜にサブプリニー式噴火が発生し,北~北西に軽石が降下した.21日ごろから断続的な噴火に推移し,27日には断続的なサブプリニー噴火が発生し,北東方向に軽石が降下した.その後31日ごろまで断続的に小~中規模の噴火が発生した.8月2日午前まで比較的静穏な状況で推移したが,午後になって噴火が激化した.噴火規模が断続的に変化しながら, 大量の降下軽石を東南東方向に降下させた.4日夕から5日未明にかけて噴火規模は極大となり,大量の降下軽石を東南東方向に降下させた.プリニー式噴火に伴い,火口周辺には釜山火砕丘が成長し,その一部は北麓にむけて流下し鬼押出溶岩となった.同時に北麓に吾妻火砕流が数次にわたり流下した.5日朝には噴火は小康状態となった.5日午前,北麓の鬼押出溶岩の先端部から鎌原岩屑なだれが発生し,吾妻川から利根川沿いに泥流となって流下した.その後9月中旬ごろまで小規模な噴火が断続的に発生した.

6月25日のブルカノ式噴火に伴う降下物は,浅間前掛山山頂から北北西に分布するテフラ(NWN)に相当すると考えられる.北東に伸びる降下軽石(NE)は7月18日のサブプリニー式噴火の噴出物と考えられる.東南東方向に分布する天明噴出物(浅間A軽石:ESE)の大部分は,8月2日午後から開始したプリニー式噴火の産物と考えられ,その大半は4日夜から5日未明の噴火最盛期の噴出物と考えられる.東南東方向に分布する軽石の下半分と互層する細粒火山灰は,同時に北麓に流下した吾妻火砕流からの灰かぐら堆積物と解釈されている(田村・早川1995など).鬼押出溶岩は火砕成溶岩であり,8月2日午後から開始したプリニー式噴火に伴い火口周辺に堆積した火砕物の二次流動による溶岩流と解釈されている(安井・小屋口1998など).

1783年噴火以降,1803年まで噴火は記録されていないが,1803年以降は再び数年~数10年おきに噴火の記録がある.特に,20世紀前半には活発なブルカノ式噴火がみられた.

日付時刻継続時間(h)VUC内容出典
1783/05/094小噴火.一連の噴火活動の開始.鳴動が数地点で記録される.Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/05/10約46日間0静穏状態Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/06/25 06時頃約4.0時間1山鳴田村・早川 (1995)
1783/06/25 10時頃約2.0時間5規模の大きなブルカノ式噴火.音響と地響きを伴う鳴動が数地点で記録される.垂直な黒色の噴煙が目撃される.東南東.南東方向に降灰.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/06/25 21時頃約3.0時間3鳴動,東~東南東方向に降灰.Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/06/26 16時頃約2.0時間3鳴動,降灰.田村・早川 (1995)
1783/07/17 20時頃約60時間5サブプリニー式噴火.鳴動が記録され,火口から南西に13 km地点で火山雷が目撃される.北~北北西方向に降灰.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/21約7.0日間3小規模で断続的な噴火.鳴動と降灰が記録される.Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/25 06時頃約6.0時間3鳴動田村・早川 (1995)
1783/07/26 16時頃約8.0時間3鳴動田村・早川 (1995)
1783/07/27 12時頃5断続的なサブプリニー式噴火.厚い噴煙が当方へたなびき,北東方向で降灰.北東地区に火砕流落下.Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/27 16時頃約2.0時間4北東方向での降灰は夜まで続く.北東へ176 km地点でも降灰が記録される.南西300 km以遠でも鳴動が記録される.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/28 12時頃約12時間4浅間山から200 km以遠を含む広範囲かつ多数の地点で鳴動が感じられる.北東,東南東で降灰.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/29 14時頃約5.0時間5約5時間の噴火の間に噴火の強度パルスがいくつか認められる.16時頃噴火が激しくなり,19時頃に止む.降灰は浅間山の北東440 km(東北地方陸中)まで記録される.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/30 12時頃約7.0時間514時頃噴火が激しくなる.日暮れ頃に止む.東,東南東方向で降灰.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/30 20時頃約8.0時間5北,東方向で降灰.31日2時から大鳴動,4時に止む.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/07/31約48時間2弱い噴火が継続.北東と南東で降灰.Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/02 12時頃約8.0時間4噴火が継続.徐々に強まる.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/02 20時頃約60時間5噴火が激化.噴火の強度の盛衰のサイクルが2回あった.ほぼ夜通し東南東方向に激しい降灰,江戸にも降灰があった.名古屋を含む多くの地点で鳴動が感じられる.安井 (2015)
1783/08/03 14時頃約18時間5連続的な噴火.噴火の強度に変動がみられる.東南東方向に激しい火砕物降下.17時に上州で赤い灰が降下.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/04 12時頃約4.0時間6激しい噴火.東方で雨のような激しい降灰,,東南東方向で暗闇となる.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/04 16時頃6吾妻火砕流の発生.東南東方面で噴煙がとぎれ,一時的に明るくなる.東北から東北東の山腹斜面に火砕流が流下.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/04 18時頃約14時間6噴火の最盛期.火柱や火の玉の降下,東南東で最も激しい火砕物降下が起こる.午後9時頃から軽井沢住民が南西に避難を開始.浅間山から200 km以上地点で空が赤く見える. 関西でも自身のような鳴動が記録される.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/05 03時頃6極大.田村・早川 (1995), Yasui et al. (2004)
1783/08/05 08時頃約40日間3小規模な噴火が断続的に発生田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
1783/08/05 10時頃6鎌原火砕流/岩屑なだれの発生.岩屑なだれは浅間山北麓の鎌原村を埋没させた後,吾妻川に流入し天明泥流となって広範囲に被害を与え,銚子および江戸まで到達した.田村・早川 (1995),Yasui et al. (2004),安井 (2015)
噴火推移のイベント一覧.時間は全て現地時刻.

長期的活動推移

浅間山は太平洋プレートの沈み込みによる東北弧の南端と,フィリピン海プレートの沈み込みによる伊豆弧の北端の延長の交点付近に位置する大型の成層火山である.噴出物の殆どはSiO2 60%前後の安山岩質である.浅間山の活動は形成した火山体構造や噴出したマグマ組成などから,黒斑期(約13万年前~2.6万年前),仏岩期(2.6萬年前~1.3万年前)および前掛期(1.3万年前以降現在)に区分される.現在活動している前掛火山は,約1.3万年前から成長を開始した成層火山である.

前掛火山から噴出した複数の降下軽石層が知られている.そのうち,4世紀ごろに噴出したC軽石,1108年噴火(天仁噴火)の噴出物であるB軽石,1128年噴火噴出物に対比されているB ́軽石,および1783年噴火(天明噴火)の噴出物であるA軽石は比較的規模の大きな降下軽石で,準プリニー式~プリニー式噴火の噴出物である.これらの軽石層の間には,より規模の小さなブルカノ式噴火などの噴出物がみられる事から,前掛火山では数100年おきに準プリニー式~プリニー式噴火が発生し,その間に小規模な噴火活動を繰り返す時期が続いたと考えられている.

引用文献

Aramaki, S. (1956) The 1783 activity of Asama volcano. Part I. Japan J. Geol. Geogr. 27, 189–229.

Aramaki, S. (1957) The 1783 activity of Asama volcano. Part II. Japan J. Geol. Geogr. 28, 11–33.

田村知栄子・早川由紀夫(1995)史料解読による浅間山天明三年(1783年)噴火推移の再構築.地学雑誌,104,843-864. https://doi.org/10.5026/jgeography.104.6_843

安井真也・小屋口剛博(1998)浅間火山1783年のプリニー式噴火における火砕丘の形成.火山,43,457-465. https://doi.org/10.18940/kazan.43.6_457

Yasui M., and Koyaguchi T., 2004, Sequence and eruptive style of the 1783 eruption of Asama Volcano, central Japan: a case study of an andesitic explosive eruption generating fountain-fed lava flow, pumice fall, scoria flow and forming a cone. Bull Volcanol. 66, 243-262. https://doi.org/10.1007/s00445-003-0308-8

安井真也(2015)降下火砕堆積物からみた浅間前掛火山の大規模噴火.火山,60:211-240 https://doi.org/10.18940/kazan.60.2_211