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蔵王火山地質図 解説地質図鳥瞰図
第7図
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第7図 蔵王火山.全活動期の K2O‒SiO2 図及び第V活動期噴出物の FeO *, Cr, Zr‒SiO2
6:噴出物の岩石学的特徴 - 7:最近の状況 - 8:火山活動の監視体制

6:噴出物の岩石学的特徴

 活動期 I の噴出物はソレアイト系列に,それ以降はカルクアルカリ系列に属する.前者は玄武岩が主体で安山岩も認められるのに対し,後者は安山岩〜デイサイト主体で玄武岩質安山岩が付随している.ソレアイト系列内の組成変化は玄武岩質マグマからの結晶分化作用によって,カルクアルカリ系列は玄武岩質マグマとデイサイト質マグマの混合によって形成されたこと,またデイサイト質マグマの温度は時間が進むにつれ高くなること,玄武岩質マグマは背弧側のマグマに匹敵する液相濃集元素量を持つことが,酒寄(1991)によって明らかにされた.さらに Tatsumi et al. ( 2008 )は,カルクアルカリ玄武岩(馬の背溶岩)は上部マントル起源,ソレアイト質玄武岩は下部地殻起源であるという,従来の東北日本の第四紀火山で得られた見解とは逆のマグマ成因論を提唱した.活動期 VI の噴出物の一部については,Ban et al. ( 2008 ) によって地殻内マグマプロセスについて詳しい検討が進められている.各山体の代表的な噴出物の分析値を 第2表に示す.

6.1 活動全体を通した変遷
 活動期 II〜VI の全岩組成は,いずれも中間カリウム系列(Gill, 1981)に属し,時間変化が認められる.特に液相濃集元素である K2O 量の変化が顕著であるため,ここでは中間カリウム系列を細分し,低・中・高カリウムレべルと表現する( 第7図).大局的に見て,カリウムレべルは,活動期 II に低,活動期 III では低・中共存,活動期 IV では中・高共存,活動期 V では主に高と概ね増加し,活動期 VI ではトレンドの傾きが,他の活動期の噴出物に比べてやや大きく低〜高レべルに跨るような特徴を示すという.系統的な時間変化が認められる.なお,活動期 VI の噴出物を除き,苦鉄質包有物が認められる.これらの組成は母岩のトレンドの低 SiO2 側延長上に乗らない場合が多く,その場合にはほとんどが低カリウム領域にプロットされる.その一方,延長上に乗る場合は中〜高カリウムレべルを示している.

6.2 活動期内での変遷
 同じ活動期内でもユニット毎に組成は異なる.特に活動期 II 〜V 内 での変遷は顕著である.各活動期の噴出物はマグマ混合によって形成されたものであるが,このような組成の変化は,両端成分マグマの時間変化すなわち地殻内マグマ供給系が時間的に発展した結果を反映している.この中の代表として,活動期 V の組成時間変化を 第7図 に示す.熊野岳西方溶岩・火砕岩類,観松平溶岩類,地蔵山溶岩,熊野岳主山体溶岩・火砕岩類,馬の背下部溶岩・火砕岩類は概ね一連のトレンド上に乗るが,後 2 者は Cr 量が高い.これら 5 者の SiO2 量が 57.5 % 以上,その上位のユニットはそれ以下である.地蔵山東溶岩,
熊野岳山頂溶岩は,下位のユニットに比べ FeO* 量などに乏しい.最上位の馬の背溶岩は最も SiO2 量が低く,FeO*,Cr 量などが他に比べて際立って高い.


7:最近の状況

 1939〜43 年の異常後,気象庁(2013)によると 1995 年までに以下の異常が記録されている.1949 年丸子山にて噴気活動が活発化.1962 年 8 月 19〜 20 日 20数回鳴動し地震群発,噴気活発化.1966 年振子沢にて噴気活発化.新温泉湧出.1971 年 10 月 4 日鳴動.1972 年 5 月14,28,29 日鳴動.1984 年 7 月 8 日〜 9 月頃,熊野岳の南東約 5 km付近で地震群発. 1990 年 7 月 14 日〜15 日御釜から刈田岳付近で地震群発.1992 年 2 月 22 日不忘山西方付近で地震多発.9 月 1 日,山頂付近で地震多発.1995 年 4 月不忘山付近,12 月熊野岳北西 10 km で地震多発.

 その後,顕著な火山活動は認められていなかった.しかし,2013 年 1 月 22 日に,2010 年 9 月 1 日の坊平での観測開始以来初めて火山性微動が観測され,それ以降断続的に続いている(気象庁, 2014).2013 年 4 月,10 月には低周波地震が観測された.なお,深部低周波地震は 2010 年 2 月 12 日,2013 年 11 月 22 日に観測されている.(以上,2014 年 5 月時点)


8:火山活動の監視体制

 2009〜10 年に気象庁により,坊平に地震計,空振計,傾斜計,GPS が設置された.その他,東北大の観測点として,蔵王観測点に地震計,傾斜計,温度計が,七ヶ宿観測点(地質図外)に地震計が設置されていた.2013 年に火山性微動が観測されたのを契機に,東北大が新たに観測点の設置を,笹谷(地質図外),不忘山(地質図外),刈田岳(刈田岳避難小屋),地蔵山(山形大学蔵王山寮)で行い,観測を開始した.また,遠望カメラは山体東方の遠刈田温泉(地質図外)に設置されていたのに加え,御釜南方の刈田岳や山体西方の上山金谷(地質図外)にも設置された.


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