2013年4月13日5時33分頃に発生した淡路島付近の地震(M6.3)の後に,広範囲で地下水位・地下水圧の変化が観測された.図1の地図上に空間分布を示すとともに,図2に地下水位・地下水圧の観測結果を示す.
淡路島内の観測点については,H平林では地震直後に最大0.01m上昇し,その後は低下中である(4月19日時点で約1.76m低下).I西淡では,地震直後に約0.01m上昇した.今回の地震前に地下水位・地下水圧の変化は観測されなかった.
地震時および地震直後の地下水位・地下水圧変化については,主に(1)断層変位による地殻変動(静的な体積ひずみ変化)と(2)地震動(動的な体積ひずみの振動)によって生じると考えられる.
(1)の断層変位による地殻変動は震源からの距離による減衰が大きいため,今回の地震については地殻変動による地下水位・地下水圧の変化は震源域に近い領域に限られる.
(2)の地震動は(1)の地殻変動よりも震源からの距離による減衰が小さいので,震源から近い領域だけでなく,震源から遠い領域でも地下水位・地下水圧の変化を生じさせることがある.地震動は一時的にスパイク状の地下水位の振動を生じさせる.加えて,地震動が地下水の溶存ガスの遊離や帯水層※中の目詰まり解消をもたらし,ステップ状の地下水位・地下水圧の変化を生じる場合もある.
震源に近いH平林とI西淡の地震直後の0.01mの地下水位の上昇については,それぞれの観測点における地下水位の潮汐ひずみに対する感度を考慮すると,10-8程度の縮みの体積ひずみ変化でも説明可能である.しかしながら4/19現在,今回の地震による地殻変動を説明する断層モデルが発表されておらず,地震によるH平林とI西淡での体積ひずみの値を推定することができないため,それぞれの観測点での地下水位の変化の原因が(1)の断層変位であるか,(2)の地震動によるものか断定することは難しい.
地震後から数時間以上にわたる地下水位・地下水圧変化は,震源に近い地点では(3)地震動によって亀裂などが生じ地層内の透水性が変化した,または(4)液状化,が原因である場合がある.1995年兵庫県南部地震の後には,淡路島北部の活断層や花崗岩類と周辺の地層の境界で,新たに大量の湧水が観測され,また,上流側では井戸涸れやため池の水位の低下が観測された(佐藤ほか, 1995).その原因は透水係数の著しい増加であると説明されている(Sato et al., 2000).
震源から遠い地点での地震後から数時間以上にわたる地下水位・地下水圧変化は, 従来からいろいろな観測点で観測されている(たとえばMatsumoto et al, 2003).原因の1つとして,上述の(2)の地震動によって井戸のストレーナ※※や帯水層自体の目詰まりが解消し,透水係数が変化するためであるという説明がなされている(たとえばBrodsky et al., 2003).今回の地震においても,震源から遠い観測点での地下水位・地下水圧のゆっくりとした上昇あるいは低下は,その観測点での地震動が帯水層の透水係数の変化などの何らかの現象を引き起こし,帯水層内の地下水が流動したためではないかと考えられる.
なお,各地点の地下水位・地下水圧変化およびその原因については今後さらに検討を行う予定である.
※帯水層:地下水を含む地層.
※※ストレーナ:井戸を保護する鉄管のうち,地下水が帯水層から井戸に出入りするために作成した孔やスリットの区間.
参考文献
E. E. Brodsky, Roeloffs, E., Woodcock, D., Gall, I. and Manga, M. (2003) A mechanism for sustained groundwater pressure changes induced by distant earthquakes, J. Geophys. Res. 108, doi:10.1029/2002JB002321.
N. Matsumoto, Kitagawa, G., and Roeloffs, E. A.(2003) Hydrological response to earthquakes in the Haibara well, central Japan - I. Groundwater level changes revealed using state space decomposition of atmospheric pressure, rainfall and tidal responses, Geophys. J. Int., 115, 885-898.
佐藤 努・高橋 誠・松本則夫・佃 栄吉(1995) 1995年兵庫県南部地震後に生じた淡路島の湧水,地質ニュース, no.496,61-66.
T. Sato, Sakai, R., Furuya, K. and Kodama, T. (2000) Coseismic spring flow changes associated with the 1995 Kobe earthquake, Geophysical Research Letters, 27, 1219-1222.