東岩手−薬師岳ステージ
 約7千年前に平笠不動火山が北東方向に大規模に崩壊し,平笠岩屑なだれが発生した.その後の噴火活動により,現在の薬師岳を山頂火口とする薬師岳火山が形成された.主火山体は平笠岩屑なだれをもたらした崩壊カルデラの大半を埋積し,一部は西岩手カルデラ内に流下して中央火口丘である御苗代溶岩(Cn)および御釜溶岩(Ck)の東縁部を覆っている.また,北-東部山麓には,微細な溶岩地形を保存する複数の溶岩流が認められる.薬師岳火山の噴火活動は,山麓のテフラ層序において比較的静穏な時期を挟む4つの活動期に区分される(土井,1998).なお,活動期区分のできなかったものについては,主火山体(Y0)として一括した.

 第1期噴出物は,およそ6-5千年前に北-北東山麓部に流下した薬師岳第1期溶岩(Y1)が主要な噴出物で,東麓部おいてもわずかに分布が認められる.
 第2期噴出物はおよそ5-4千年前に噴出した巣子スコリアとそれに伴う火砕サージ堆積物(Iw-SuS-s)および薬師岳第2期溶岩流(Y2)からなる.「岩手火山地質図」では,巣子スコリア(Iw-SuS)に伴う火砕サージ堆積物の等層厚線図を図示した.
 第3期噴出物は約3.7から1.8千年前の噴出物で,薬師岳スコリア丘(Yc)生出スコリア(Iw-OdS)薬師岳第3期溶岩(Y3)からなる.薬師岳スコリア丘は現在の薬師岳山頂部を構成する溶岩およびアグルチネートで,溶岩の一部は東麓部に流下している.生出スコリアは複数の降下ユニットからなる粗粒な降下スコリア層で,薬師岳の南東から北東方向に分布する.薬師岳第3期溶岩は生出スコリアの噴出後,薬師火口から溢れ出した溶岩流で薬師火口北東縁,不動平,北部山麓および東部山麓に分布する.この活動期の最末期にはごく少量の珪長質ガラス火山灰(薬師岳−不動平火山灰)が噴出している.
 第4期噴出物は約1千年近い噴火静穏期を挟んで開始した10世紀以降の噴出物で,薬師岳第4期溶岩(Y4)薬師岳溶結火砕岩(Yu)妙高岳スコリア丘(Ym),1686年噴出物(刈屋スコリア;Iw-KS),1732年噴出物(焼走り溶岩;Yaスコリア丘;y)および成層火山体表層部の崩壊による小規模な岩屑なだれ堆積物(一本木原岩屑なだれ堆積物;Di)からなる.



図1.薬師岳火山から噴出した火山灰の代表的地点における柱状図
伊藤・土井(2005)に一部加筆

 東部山麓の火山灰層層序を模式的な柱状に,優勢な黒ボク層によって境される薬師岳火山の4つの活動期の噴出物区分を示した

[全岩組成における特徴]

 岩手火山の噴出物について,噴火層序と噴出物のFeO*/MgO比の変化を見ると,より未分化なマグマの噴出から,時間とともにより分化の進んだマグマの噴出へ至る組成変化のサイクルが認められる.特に,噴火層序が明確な最近6千年間(すなわち薬師岳火山噴出物)に着目すると,約3千年前の生出スコリア(薬師岳第3活動期の主要噴出物)と,15世紀に噴出した尻志田スコリア(薬師岳第4活動期の初期噴出物)との間には,FeO*/Mg0比が約2.5から約1.5に急激に減少するギャップが認められる(図2).しかも,生出スコリアの上位には,ごく少規模ではあるが,SiO2=70wt%以上の珪長質ガラス質火山灰(岩手-不動平火山灰)が噴出する.以上のことから,およそ15世紀を境とする第3活動期から第4活動期の推移は,単に爆発的な噴火活動の休止期による区分というだけでなく,新たな未分化マグマが噴火活動に関与するといったマグマ供給系の変化に対応したものと考えることができる(伊藤,2002a).




図2.東岩手火山における最近約3万年間の全岩組成(FeO*/MgO比)の変化
伊藤(2002a)に一部加筆

薬師岳火山主火山体(Y0)



図3.東岩手−薬師岳火山主火山体(Y0)
 東岩手−薬師岳火山には溶岩流側端崖などの火山地形が良く保存されているが,写真の薬師岳西斜面のように露頭状態が悪い地域では,溶岩流地形が明瞭に残されていても,活動期区分を行うことができず主火山体(Y0)として一括されている.