| 西岩手主火山体が
形成された噴火ステージで,噴出物は主に安山岩質の溶岩流や降下火砕物であるが,噴出規模の小さな火砕流堆積物が複数枚認められる.末期には玄武岩質の小規模な山体(黒倉火山)が形成された.また,このステージには,大規模な山体崩壊が少なくとも4回発生し,岩手火山の周辺域を広く覆った. |
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| 西岩手主火山体(Ws) |
中川(1987)の洞ヶ沢溶岩類,イタザ沢溶岩類,屏風尾根火砕岩類,赤倉岳溶岩類,鬼ヶ城火砕岩類を一括した.土井(2000a)の西岩手外輪山噴出物にほぼ相当する.
活動が開始した時期は明確でないが,噴出物の岩石磁気はこれまでのところ逆帯磁したユニットは見いだされていないことから,更新世中期(およそ80万年)以降に活動を開始したと考えられる.岩手火山地質図では,地形的・岩質的に明瞭な黒倉火山噴出物(Wk)のみを区分して図示し,それ以外は西岩手主山体(Ws)として一括した.
西岩手主火山体(Ws)は,主に安山岩質の溶岩および火砕岩からなる成層火山で,有根沢や妻神沢の上流部では火砕流堆積物が複数枚挟在される.
また,地形的にも明らかなように,網張火山群を埋積するように成長し,南斜面では正徳沢火山や鞍掛山火山が半ば埋積されるように露出している.また,妻神沢の上流部では,円礫質の二次堆積物を挟んで,変質の進んだ正徳沢火山噴出物(中川,1987は妻ノ神変質溶岩類として独立した地質ユニットとしたが,岩手火山地質図では分布と岩質の類似から正徳沢火山噴出物に含めた)が沢底に露出するなど,網張火山群の分布高度が比較的高いと判断される.それに比べて北麓では,洞ヶ沢およびイタザ沢においても,網張火山群に相当する火山構成物は見いだされておらず,網張火山群の分布高度は,西岩手外輪山の北部と南部で著しい非対照が想像される.
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図1. 鬼ヶ城に露出する西岩手主火山体の断面
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図2.屏風尾根に露出する西岩手主火山体の断面
西岩手主火山体中央部には,東西約2.5km,南北約1.5kmの西岩手カルデラが開いている.このカルデラ壁面に西岩手主火山体を構成する火砕物と溶岩の互層がよく露出する.
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図3.西岩手主火山体(Ws)の断面露頭
薄い溶岩と火砕物が積み重なる成層火山の断面が露出している.
[御神坂沢]
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図4.網張火山群前期の正徳沢火山噴出物(As)を覆う西岩手主火山体(Ws)
変質を被った正徳沢火山噴出物を,円礫を含む二次堆積物を挟んで不整合に覆う西岩手主火山体
[妻神沢上流部]
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| 黒倉火山噴出物(Wk) |
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中川(1987)の黒倉岳溶岩類に相当する.黒倉火山噴出物は,西岩手外輪山の西端に小規模な火山体を形成した.網張火山群のうち姥倉山火山および犬倉東火山を不整合および著しい熱水変質帯を介在して覆う.また,西岩手外輪山噴出物を緩やかな傾斜不整合で覆う.構成物は,玄武岩〜玄武岩質安山岩質の溶岩及び火砕岩であることから,中川(1987)に従い岩手火山の一部とした. |

図5.網張火山前期の犬倉東火山噴出物(Ae)を覆う黒倉火山噴出物(Wk)
強変質した犬倉東火山噴出物を,黒倉火山噴出物の溶岩・火砕岩互層が覆う
[有根沢上流部]
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| 西岩手−鬼ヶ城ステージの大規模な山体崩壊堆積物 |
西岩手外輪山の噴火活動の期間中に,大規模な山体崩壊が少なくとも4度発生して,五百森岩屑なだれ堆積物(Dg;分布域は主に東−北東域;およそ190ka),青山町岩屑なだれ堆積物(Da;東−南東域:およそ150ka),大石渡・小岩井岩屑なだれ堆積物(Do;東−南東域;およそ130ka),雫石岩屑なだれ堆積物(南域ただし岩手火山地質図区域外:およそ130ka)が山麓部を覆った.これまでのところ,これらの山体崩壊の発生にマグマ活動が直接関与したことを示す地質学的証拠は見いだされていない.
これらの山体崩壊をもたらした崩壊壁は,のちの噴火活動によって埋積され,現在では地形的に明確にすることは困難である.しかしながら,大石渡・小岩井岩屑なだれ堆積物の崩壊源は,その後発生した噴火活動のマグマの岩質が特徴的であったため,鬼又カルデラとして南東山腹に存在したと推定されている.また,後述する西岩手カルデラの壁面で観察される溶岩および火砕岩からなる成層構造のパターンには場所によって斜交関係が認められ,これは西岩手外輪山がもともと,噴出中心の異なる中・小規模の複数の成層火山体が複合したものであるか,あるいは規模の大きな山体崩壊の発生と,その後の噴火活動による崩壊カルデラの埋積の繰り返しを反映したものと考えられる. |

図6.岩手火山を起源とする岩屑なだれ堆積物周辺の分布
土井(1990)から八幡平火山起源と思われる松尾岩屑なだれ堆積物(Dm)の分布域を消去し,地形陰影化処理を施した
脊梁山脈側(岩手火山西部)を除き,岩手火山の周囲には,複数の岩屑なだれ堆積物が広く分布する.
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| 五百森[ゴヒャクモリ]岩屑なだれ堆積物(Dg) |
橘(1973)の 五百森火山泥流を,大上ほか(1980)が細分化して,改称・再定義した.青木・中川(1986)の五百森火砕流に対応する.
西根町五百森を中心として松川から赤川にかけての地域に分布する.外山火山灰下部の火山灰群の中位スコリアに覆われる(大上ほか,1980).
構成物として安山岩質火山角礫岩やスコリア流堆積物からなる岩塊相の存在が報告されている(土井,2000a).露頭によって確認される層厚は数m程度であるが,土井(2000a)は周辺の状況から10m以上と推測している.表面を後の降下火砕物等に覆われているため,流れ山地形を現状ではほとんど確認することはできない.
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| 青山町[アオヤマチョウ]岩屑なだれ堆積物(Da) |
水野(1960)
の青山町泥流,大上ほか(1977),大上・土井(1978)では青山町火山泥流と命名されていたが,土井(1990)により青山町岩屑なだれ堆積物と改称.青木・中川(1986)の青山町火山泥流に対応する.
盛岡市北西部の青山町周辺の水源試錐によって,埋もれ木を含む泥流堆積物として認識された(水野,1960).大上ほか(1977),大上・土井(1978)により分布域が,青山町を中心として滝沢村北方(渋民村〜好摩付近)にまで分布することが示された.
大上・土井(1978)は,青山町岩屑なだれ堆積物を,北上川沿いで渋民溶結凝灰岩を不整合で覆う「古北上川・雫石川堆積物」を不整合に覆い,外山火山灰(群)の四十四田軽石に覆われるとした.ただし,外山火山灰(群)全層に覆われる岩屑なだれ堆積物も同一地域で確認され,少なくとも2層準の存在することが判明しているが,明瞭な区分ができないこととから青山町岩屑なだれ堆積物として一括したとしている.
層相としては,暗灰〜青灰の砂質〜スコリア質基質に,安山岩,軽石層塊,スコリア層塊,デイサイト質凝灰岩,シルト岩などからなる岩塊(数cm〜2m),円礫,軽石,木片を不均質に含む(大上・土井,1987).ボーリング試料によると,層厚は60-70m.
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| 雫石岩屑なだれ堆積物(岩手火山地質図範囲外) |
水野(1960)の小岩井泥流を,土井(1990,1982)が細分し再定義した.青木・中川(1986)の雫石火山泥流に対応する.
外山火山灰上部に覆われる(土井,1990).岩手火山南方の葛根田川周辺の雫石盆地に分布し,河床堆積物に覆われながらも埋積され残った流れ山地形が多く認められる.構成物は主に安山岩質火山角礫岩やスコリア,黄褐色風化火山灰である.土井(2000a)は遠方域での層相は主に砂質の基質部に火山礫,シルト片,円礫,木片を不規則に含み,泥流堆積物に類似する事を示唆している. |

図7.雫石岩屑なだれ堆積物がつくる流れ山
雫石岩屑なだれ堆積物は雫石盆地の東西の側部になだらかに流れ山地形が認められる.葛根田川による沖積層,雫石段丘堆積物,外山火山灰上位の降下火山灰および風化火山灰土に覆われる.
[雫石町中村付近]
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| 大石渡[オオイシワタリ]・小岩井岩屑なだれ堆積物(Do) |
水野(1960) の滝沢泥流に対応し,中川ほか(1963)の大石渡火山角礫岩を大上・土井(1987)が再定義し,土井(1990)が大石渡岩屑なだれ堆積物と改称した.また,水野(1960)の小岩手泥流堆積物を土井(1982)が姥屋敷火山泥流堆積物とした後,土井(1990)が小岩井岩屑なだれ堆積物と再定義した.これと同時に,土井(1990)は大石渡岩屑なだれ堆積物と小岩井岩屑なだれ堆積物が,火山灰層序が同じで,分布においても連続することから,両者は同一の堆積物であることを示した.これにより両岩屑なだれ堆積物は,「大石渡岩屑なだれ・小岩井岩屑なだれ堆積物」(土井,2000)と標記されるが,岩手火山地質図ではこれを略し「大石渡・小岩井岩屑なだれ堆積物」と標記した.青木・中川(1986)の姥屋敷アバランシュおよび大石渡アバランシュに対応する.
洞爺火山灰を含む外山火山灰上部の火山灰層に覆われ,四十四田第1軽石に覆われることはないことから,外山火山灰上部の層準にあると考えられている(大上・土井,1978).岩手火山南東山麓の雫石町鵜飼周辺には低平な丘陵が不規則に分布する.この地域は,飯岡層などの新第三系火山岩類が地表付近まで分布する地域で,これらの基盤岩類の上に本堆積物が重なることによって,基盤岩の起伏と岩屑なだれ堆積物が作る流れ山地形が複合したものと考えられる.
大石渡・小岩井岩屑なだれ堆積物は,岩手火山南東方向に主に分布することから,山体崩壊の源は岩手火山の南東山麓にあると推測される.青木・中川(1986)は後の噴火活動による鬼又火山噴出物に埋積された地域に,その崩壊源を求め「鬼又カルデラ」と命名している.構成物は安山岩質火山角礫岩に富み,赤褐色スコリアが混在する.
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図8.大石渡・小岩井岩屑なだれ堆積物の流れ山の断面
山体を構成していた溶岩およびスコリアからなる岩塊相が露出する.溶岩流および褐色のスコリア層からなる.溶岩流は変形・破砕されジグソークラックの発達が認められる.上面には風化火山灰土をはさんで,雪浦軽石を含む生出黒色火山灰層,秋田駒ヶ岳起源の軽石層(小岩井,柳沢軽石)が認められる.
[雫石町安達]
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