西岩手−大地獄谷ステージ
構成
ユニット
噴出源近傍堆積物(Cp),大地獄谷火山灰1(Oj-ph1),大地獄谷火山灰2(Oj-ph2)
 大地獄谷において少なくとも約7千年前以降,噴気・地熱活動が活発化し水蒸気爆発が複数回発生した.これにより大地獄谷周辺には火口地形が認められるほか,変質岩塊に富む水蒸気爆発噴出物が厚く堆積しており,これを地質図上に噴出源近傍堆積物として図示した.また,山麓部を覆う水蒸気爆発噴出物のうち,分布域の広いものを大地獄谷火山灰1(約3.7ka)及び2(約3.2ka)として等層厚線を示した.大地獄谷での噴気・地熱活動は現在も継続している.

噴出源近傍堆積物(Cp)
 土井(1990)の大地獄谷中央火口丘堆積物,中川(1987)の崖錐性堆積物に相当する.
 大地獄谷の左岸の登山道沿いには変質した溶岩が露出するが,その南部は活発な噴気活動が継続する噴気地帯が広がっている.噴気地帯の強変質部の上位を赤褐色のスコリア層を挟んで噴出源堆積物が覆う.噴出源堆積物は,雑多な火山岩塊を含む黄褐色の不淘汰な堆積物が主体を占めるが,白色粘土に富むユニットなど,構成物組成や粒度の異なる少なくとも4層が認められる.堆積物は強度の変質作用を被っており,詳細を明らかにすることができなかった.



図1.大地獄谷噴気地帯の強変質帯を覆う,噴出源近傍堆積物



図2.大地獄谷(大正火口壁)に露出する噴出源近傍堆積物

赤褐色のスコリア層の上位を,角礫質の噴出源堆積物が覆う.

大地獄谷火山灰1(Oj-ph1)
 伊藤(2002b)の3.7ka水蒸気爆発噴出物に相当する.約3千7百年前に大地獄谷周辺で発生した水蒸気爆発により放出された粘土質火山灰.東岩手−薬師岳火山の東麓にまで分布し,これまでのところ西岩手−大地獄谷ステージに発生した水蒸気爆発の中では最大規模である.この水蒸気爆発に関連して東岩手火山においても泥流が発生している



図3.薬師岳−第3活動期に大地獄谷から噴出した水蒸気爆発噴出物の分布図
伊藤(2002b)より引用

上図の3.7ka水蒸気爆発噴出物が,大地獄谷火山灰1に相当する.



図3.岩手火山東麓で認められる大地獄谷火山灰1

 写真で白〜白黄色の火山灰層が大地獄谷火山灰1.層厚20cm以上に達する厚い黒ボク層を覆い,厚さ数cmの黒ボク土を挟んで,薬師岳スコリア丘形成期の小噴火堆積物層(写真では暗青灰色)に覆われる.薬師岳−第3活動期の最初期の噴出物である.
[岩手火山東山麓]



図4 大地獄谷火山灰1に関連する土石流堆積物

 岩手火山北東山麓(イタザ沢の下流部)に露出する,変質岩片・白色変質粘土に富む土石流堆積物.下面を不規則に削り込んでいるが,部分的に大地獄谷火山灰1が残されている.
[県道焼走り線工事現場]

大地獄谷火山灰2(Oj-ph2)
 土井(1999a)の3,190 y.B.P.の噴火堆積物に相当する.約3千2百年前に大地獄谷周辺で発生した水蒸気爆発によって噴出した粘土質火山灰.大地獄谷から南西方向に分布し,黒倉山から姥倉山にかけての登山道沿いによく露出する.


図5.大地獄谷火山灰2

 姥倉山付近では,直径1cm以下の変質岩片を含む,黄白色の粘土質火山灰として露出する.
[網張り登山道,姥倉山南麓]