網張火山群
 網張火山群は三ッ石山(本地質図の範囲外)から鞍掛山まで東西約12kmの範囲に分布する安山岩〜玄武岩質の火山群で,葛根田川や松川などの谷地形との関係や溶岩地形の保存の程度から前期及び後期噴出物に区分される.
 前期の活動ではそれぞれが独立した噴出中心を持つ小型の成層火山群(松川二ッ森火山,松川湯ノ森火山,鞍掛火山,正徳沢火山,鎌倉森火山,姥倉火山,犬倉東火山,犬倉山火山)を形成している.それらは山体の一部が失われた後に,岩手火山(西岩手外輪山)噴出物にその大部分が埋積されている.
 一方,後期には,爆発的な活動による直径数100m規模の火口の形成とその後の溶岩流出を主体とする小規模な活動(有根沢溶岩,1343m峰溶岩,玄武洞溶岩,玄武温泉溶岩)が東西10数kmの範囲内で噴出中心の位置を変えながら起こった.溶岩流の原地形が比較的保存され,後述する西岩手外輪山の山腹から流下したものも認められることなどから,その活動時期は西岩手主火山体と重複すると考えられる.



図1.網張火山群の分布  土井(2000)を一部修正し,地形陰影化処
定義  中川(1987)は三ッ石山以東に分布する更新世以降の火山群(これらの火山群に対して河野・上村,1964は岩手火山群と命名している)を,基底部の松川安山岩と,それを覆う中・小火山群,および比較的大きな山体をつくる岩手火山に区分し,このうち中・小火山群について網張火山群と命名した.一方,土井(1990)は,玉川溶結凝灰岩より上位の火山岩類に対して,火山体と葛根田川,松川およびその支流との浸食関係など地形的な特徴を基に火山体区分を行い,葛根田川・松川の谷壁を構成する火山噴出物に対して,分布範囲と地形的なまとまりに応じて,地質ユニットの区分と命名を行った.それにより,“鞍掛火山噴出物”と同列の地質単位として“網張火山群噴出物”(これは中川(1987)の正徳沢溶岩類に相当する)が定義された.
 「岩手火山地質図」伊藤・土井(2005)においては,中川(2000)が示した岩石学的な特徴と地形的な特徴から,中川(1987)の命名区分に従い,比較的巨大な山体を形成した岩手火山とは対照的な中・小火山群を一括して網張火山群と呼ぶこととした.



図2.網張火山群の火山地形(岩手火山鬼ヶ城より望む)


図3.三石山山頂部より西部の網張火山群の火山地形
 姥倉山,犬倉山,大松倉山,三ッ石山などを代表として,なだらかな山体からなる中・小規模の火山体を形成する.三石山や大倉山の頂部には直径1km以下の火口状の地形が認められる.火口状地形の底部は変質地帯となっていることが多く,かつての噴出中心が浸食や崩壊作用により拡大されたものと考えられる.

網張火山群 前期
構成
ユニット
松川二ッ森火山噴出物 (Af) 安山岩溶岩および火砕岩
松川湯ノ森火山噴出物 (Ay) 安山岩溶岩および火砕岩
鞍掛火山噴出物 (Ak) 安山岩溶岩および火砕岩
正徳沢火山噴出物 (As) 玄武岩質安山岩溶岩および火砕岩
鎌倉森火山噴出物 (Am) 玄武岩質安山岩溶岩および火砕岩
姥倉火山噴出物 (Au) 安山岩溶岩および火砕岩
犬倉東火山噴出物 (Ae) 安山岩溶岩,火砕岩および岩脈
犬倉山火山噴出物 (Ai) 安山岩溶岩および火砕岩
 それぞれが独立した噴出中心を持つ小型の成層火山群で,岩手火山地質図に図示された地域に分布するものの一部は,山体の一部が失われた後に,岩手火山(西岩手外輪山)噴出物に埋積されている.構成物は安山岩質および玄武岩質の溶岩および火砕物で,多くの火山では変質作用が発達してる.中川(1987)の網張火山群前期にほぼ対応し,土井(2000a)の岩手火山第1火山群の一部を指す.



図3.西岩手−鬼ヶ城ステージの噴出物に覆われる犬倉東火山噴出物(Ae)
強度の変質作用を被った犬倉東火山噴出物(Ae)の上部を,西岩手−鬼ヶ城ステージの噴出物(未変質の黒倉火山噴出物;Wk)が覆う.


図4.犬倉火山南方の火口状地形
 網張火山群前期に形成された火山には,数百m〜1kmに達する円弧状の地形が複数認められ,犬倉山や三石山火山の南方の円弧状地形の底部は変質地帯となってる.写真は犬倉山の南方に開いた円弧状地形底部の変質帯(網張り元湯)で,現在も噴気活動が活発で,条件によっては噴気が山麓から噴気が観察される.
[犬倉山登山道より望む]

網張火山群 後期
構成
ユニット
有根沢溶岩 (Aa) 安山岩溶岩
1318m 峰溶岩 (Az) 安山岩溶岩
玄武洞溶岩 (Ag) 安山岩溶岩
玄武温泉溶岩 (Ao) 安山岩溶岩
 比較的厚い溶岩流からなり,溶岩流出に先立ち直径数100m規模の火口を形成したものも認められる.溶岩流の原地形が比較的保存され,後述する西岩手主火山体の山腹から流下したものも認められることなどから,その活動時期は西岩手主火山体と重複すると考えられる.中川(1987)の網張火山群後期にほぼ対応し,土井(2000a)の岩手火山第2火山群の一部である.



図5.玄武温泉溶岩
 西岩手主火山体の山腹部に火口を開いて流下した溶岩流.層厚約15m.溶岩下位の円礫層は葛根田川に発達する段丘礫層(高松段丘礫層)で,写真には写っていないが,この溶岩の上部を篠ヶ森火砕流堆積物(Cs;後述)が覆う.       
[雫石町玄武温泉裏]




図6.玄武洞溶岩
 柱状節理が発達することで知られる厚い安山岩溶岩.
[葛根田川左岸]