位置
 岩手火山は東北日本における火山フロントを構成する,玄武岩〜安山岩からなる大型の成層火山(最高標高2038m)である.岩手火山を東端として,その西部には姥倉山,黒倉山,犬倉山,三ツ石山などを経て脊梁山脈部にまでのほぼ東西12kmにわたって,中・小規模の火山群(網張火山群)が分布する.
 岩手火山,網張火山群から八幡平および秋田駒ヶ岳に至る地域は,東西約60km,南北約50km範囲内に数多くの第四紀火山が密集しており,仙岩火山地帯(あるいは仙岩地熱地域)等と呼ばれることもある.
 特に近年は,火山岩類の放射年代データの蓄積により,日本列島の火山の時間−空間分布に関する研究が進んだ.その結果,東北日本において第四紀火山が集中して分布する地域と,ほとんど存在しない空白地域とが比較的明瞭に区分されることが判明してきた(林ほか,1996;梅田ほか,1999;Tamura et al.,2002).岩手火山は網張火山群とともに,林や梅田による「仙岩火山地域」,あるいはTamura et al.(2002)の七時雨山から森吉火山を経て男鹿半島の目潟火山に至る,北緯40°付近の火山クラスターに属することが示されている.




図1.東北日本弧の第四紀火山の分布
(田村ほか(2005)に岩手火山の位置を赤丸で強調・加筆した)

 上図で丸印が第四紀火山(玄武岩を噴出する火山は白丸),破線は深発地震面の深さを示す.Tamuraほか(2002;英文)は,第四紀火山のクラスター状の分布・地形的特徴・地下深部の地震波伝搬速度から,(1-10のグループに区分されている灰色で表示された領域の地下では,マントルウェッジ内が周辺よりも高温でマグマが発生しやすい環境にあり,結果的に第四紀火山の分布は,この灰色の領域内に限定されると考えた.

図2.岩手火山および周辺の位置図
 第四紀火山の位置は,第四紀火山カタログ委員会編(1999),地質調査総合センター「日本の第四紀火山」を参考にした.第四紀断層の位置は,都市圏活断層図-盛岡-(国土地理院,2002),土井(2000a),須藤・石井(1987)等を参考に,活断層,伏在断層および推定断層を一括して表示した

岩手火山から西部地域には八幡平,秋田駒ヶ岳などの過去約200万年間に形成された火山が集中的に分布する.また,岩手山南方には地形的にも明瞭な北北東−南南西方向に伸びた断層帯(北上低地西縁断層と雫石西縁断層帯)が存在するが,両断層帯とも岩手火山周辺域ならびに北方への延長部については明確ではない.

 岩手火山および網張火山群については,脊梁山脈を構成する秋田駒ヶ岳から烏帽子岳に至る南北配列の「駒ヶ岳火山列」に対して,東西方向に突出して配列する「岩手火山列」(桜井,1904),あるいは八幡平周辺に分布する複数の火山群の1つとして「岩手火山群」(河野・青木,1959)と呼ばれることもあ る.
 また,東北日本弧の第四紀火山は,地質および岩石学的特徴から,島弧にほぼ平行する4つの火山列に大別されている.中川ほか(1986)はそれらを,東から西へ(すなわち火山フロント側から背弧側へ),青麻−恐火山列,脊梁火山列,森吉火山列,鳥海火山列に区分した.岩手火山はこのうち脊梁火山列の東端に位置し,青麻−恐火山列に属する七時雨火山とは直線距離で25kmしか離れていない.




図3.岩手火山およびその西方の火山体の分布
 八幡平火山群については須藤(1992),高倉山・小高倉山については須藤・石井(1987),網張火山群については土井(2000a),岩手火山については伊藤・土井(2005)に基づく.火山体の原地形が浸食等により失われているものがあるので,マークの位置は必ずしも噴出中心を示していない.

 網張火山群前・後期及び西岩手火山を構成する火山体は,それぞれがほぼ東西方向に配列するのに対し,東岩手火山は比較的狭い範囲で噴火活動を続けている.また網張火山群前期・後期の活動範囲は重複しているが,後述するように網張火山群後期噴出物の一部は西岩手火山の主火山体の形成後に活動したと考えられる.従って,網張火山群および西岩手火山および東岩手火山の噴火中心は,必ずしも西から東方へ単純に移動したわけではないと思われる.