山頂部(表層堆積物)の崩壊
−山頂噴火に引き続き発生した成層火山表層部の崩壊による岩屑なだれ−
 

図1.一本木原岩屑なだれ堆積物の分布域
Di :一本木原岩屑なだれ堆積物, Ya : 焼走り溶岩, Y4: 薬師岳第4期溶岩 

 一本木原[イッポンギハラ]岩屑なだれ堆積物は,土井(1990)により命名された小規模な岩屑なだれ堆積物で,東岩手-薬師岳火山の東部山麓に分布する.高さ5m弱の末端崖を持ち,空中写真に判読により複数のローブに区分することができる.降下スコリア層や黒ボク土,十和田-aテフラなどが変形(一部では小断層により破断)した状態で取り込まれる.構成物の大部分がスコリア,黒ボク土,風化火山灰質土壌および火山岩塊〜火山礫などで,山腹から山麓にかけての火山体表層部の構成物からなり,溶結火砕岩や溶岩流からなる岩塊相は認められない.
 岩屑なだれ堆積物は,土石流などの二次堆積物よりも流動性が高いことが示されている(宇井,1989).この流動性を示す指標として,堆積物が落下した高度差と流れ下った水平距離の比(いわゆるH/L比)がの値が示されるが,一本木原岩屑なだれ堆積物のH/L比は約0.21である.典型的な大規模山体崩壊による岩屑なだれ堆積物のH/L比は0.2以下であることが示されており,このことからも一本木原岩屑なだれ堆積物が流動性の乏しい,典型的な大規模岩屑なだれ堆積物とは若干性質が異なることが推測される.



図2.尻志田スコリア(平笠岩屑なだれ堆積物を覆う黒色部)を覆う一本木原岩屑なだれ堆積物.下部の黄褐色部が平笠岩屑なだれ堆積物.


図3.一本木原岩屑なだれ堆積物に見られるパッチワーク構造
 一本木原岩屑なだれ堆積物の構成物は,山腹から山麓の地表部で認められる降下テフラおよび黒ボク土・風化火山灰土に火山礫が散在するものが主体で,火山体中心部を構成している溶岩や溶結スコリアの成層部からなる岩塊相はほとんど認められない.
 また,降下スコリア層や黒色土壌が折り畳まれたり,小断層が発達する不規則な形状(パッチワーク構造)が末端部で認められる.


図4.流下中に巻き込まれた樹木

樹皮の残る木材片が,岩屑なだれ堆積物中に散在し,堆積物が低温であったことがわかる.


図5.最大流下到達距離−最大崩壊高度差の関係

 図中の数字は最大崩壊高度差(H) と最大流下到達距離(L)の比の値.非火山性の地すべりに対して,岩屑なだれ堆積物はH/L比が小さく,これは同じ高度差をなだれ下っても岩屑なだれ堆積物のほうが遠方まで到達することを示す.一本木原岩屑なだれ堆積物のH/L 比は,大規模な岩屑なだれ堆積物に比べると大きな値を示し,.


図6.薬師岳火山山頂部の表層崩壊の痕跡

薬師岳火山の東部山頂部には,浅く表層部がえぐられた部分が存在する.この崩壊部が一本木原岩屑なだれの主要な発生源の可能性が高い.

 岩手火山においては,小規模な噴火活動の継続により植生が破壊された成層火山体の上にさらに降下スコリア(尻志田スコリア)が堆積したことにより,不安定の増した成層火山斜面の表層崩れが発生した.山体斜面からの崩壊物は,流れ下るにつれて山腹や山麓部の表土や火山灰層を巻き込み,山麓で岩屑なだれ堆積物に特徴的な堆積構造(パッチワーク構造)を示す崩壊堆積物として定置・堆積した(伊藤ほか,1999).この小規模な岩屑なだれ堆積物は,一本木原岩屑なだれ堆積物(火山地質図上の記号,Di)と呼ばれる.



図6.一本木原岩屑なだれ堆積物発生までの火山活動の歴史
伊藤ほか(1998)より引用