西岩手火山における水蒸気爆発噴出物の発生履歴

 西岩手カルデラ内の大地獄谷と呼ばれる活発な噴気地域では,水蒸気爆発を繰り返し発生し,変質岩片に富む粘土質火山灰を周辺地域(まれに規模の大きなものでは,東岩手の東部山麓にまで達する)に堆積させている.この様な活動は,少なくとも7千年前以降に始まったと考えられている(土井,1999a).



図1.岩手火山おける代表的地点の火山灰柱状図と14C年代 (土井,1999aに加筆)

14C年代の出典 a:浦部(1975),b;井上(1980), c;土井ほか(1983), d;遠藤 (1977), e;土井ほか(1986), f;和知ほか(1997),g;井上(1978),h;Hayakawa(1985)や大池・庄司(1977)など, i;土井(1999)


図2.図1の地点2付近で認められる水蒸気爆発噴出物層

矢印で示した地点が約4千年前の年代を示し,その上部の白色火山灰が図1のPHD5に対応する.

 上図で示されるように,西岩手の大地獄谷付近では7千年前〜3千年前までの間に,水蒸気爆発が頻繁に(少なくとも6回)発生していたことが知られている(土井,1999a).
 大地獄谷で発生した水蒸気爆発噴出物において,これまでのところもっとも規模が大きいものは,約 3.7kaに噴出した大地獄谷火山灰1(Oj-ph1)で,この火山灰は広域に分布することが確認されている(伊藤,2002b).



図3.約 4〜2千年前に発生した水蒸気爆発噴出物の分布域(伊藤,2002b)

 図中で,3.7ka火山灰とされているものが,大地獄谷火山灰1(Oj-ph1)に相当する.


図4.岩手火山東麓で確認される大地獄谷火山灰1
写真中央下の黄白色の火山灰層.

最近1千年間の水蒸気爆発
 大地獄谷周辺地域における堆積物調査では,十和田−aテフラ(西暦915年)の上位2層準に水蒸気爆発噴出物の存在が確認される.このうち,大地獄谷周辺にのみ確認される地表直下の変質岩片に富む水蒸気爆発噴出物が1919(大正7)年に噴出した火山灰で,その下位におよそ14世紀に発生した水蒸気爆発噴出物が認められた(伊藤,1998a).

図5.大地獄谷近傍の登山道に露出する水蒸気爆発噴出物

 2層の白色の粘土質火山灰層が認められる。地表面直下に岩片混じりの粘土質火山灰層[1]がとぎれとぎれに認められる.その下には黒ボク土を挟んでその下に存在する粘土質火山灰層[2]がある.
 [1]が1919(大正8)年の水蒸気爆発による噴出物と考えられる。[2]は14-15世紀の古記録には残されていない水蒸気爆発噴出物である.また,[2]の下位には黄褐色の軽石層[3](粒径1mm以下)が認められ十和田火山起源の降下軽石層(To-a火山灰,西暦915年噴火)である.