| 14-15世紀の活動(尻志田スコリアと一本木原岩屑なだれ) |
| −山頂噴火とそれに引き続いて発生した表層崩れ− |
薬師岳第3活動期のあと約1千年近く山麓部に噴出物をもたらすような噴火活動の発生は確認されないが,およそ14-15世紀中葉から噴火活動が再開した.これ以降,現在を含む時期が薬師岳−第4活動期と呼ばれる.伊藤(2002b)は噴火層序に応じた噴出物の全岩組成変化の傾向に基づき,薬師岳第3活動期から第4活動期への推移は,単に爆発的な噴火活動の休止期による区分というだけでなく,新たな未分化マグマが噴火活動に関与するといったマグマ供給系の変化に対応することを指摘している. |
| 14-15世紀中葉の噴火経過は伊藤ほか(1998)により,以下のような経過を辿ったと考えられている(図1).薬師岳火山の山頂火口からスコリア(尻志田スコリア)を放出する活動が繰り返された.この時期,土石流が頻発するようになっており,山体の植生が破壊されたと考えられている.この活動の末期に,比較的規模の大きな噴火活動が起こり粗粒なスコリアが噴出し,山体にも厚く降り積もった.薬師岳上部では不安定さが増した表層部が一気に東部山麓に滑り落ちた.薬師火口東部の崩落壁がこのときの表層崩落の痕跡と考えられる. 崩壊物は,山腹部の表土や火山灰層を巻き込みながら流下し,東部山麓に小規模な岩屑なだれ堆積物(一本木原岩屑なだれ堆積物:Di)として東部の山麓に堆積した.尻志田スコリア噴出後,薬師岳火口内でごく小規模な噴火活動が継続し,薬師岳山頂部に薬師岳溶結火砕岩(Yu)を堆積した.このほかに,スコリア丘および溶岩流からなる妙高岳スコリア丘(Ym)が薬師岳火口内に形成された.また,この一連の活動とほぼ同時期に,西岩手火山大地獄谷において小規模な水蒸気爆発が発生している(伊藤1999aのTb2ユニット). なお,これらの活動は14C年代測定よりも14-15世紀と考えられているが,この火山活動に関係した古記録は現在のところ見いだされていない. |
![]() 図1.小噴火から成層火山表層部の崩壊に至る活動の過程 (伊藤ほか, 1998)より |
一本木原岩屑なだれ堆積物は,土井(1990)により命名された小規模な岩屑なだれ堆積物で,東岩手-薬師岳火山の東部山麓に分布する.高さ5m弱の末端崖を持ち,空中写真に判読により複数のローブに区分することができる.降下スコリア層や黒ボク土,十和田-aテフラなどが変形(一部小断層状)した状態で取り込まれる.構成物の大部分がスコリア,黒ボク土,風化火山灰質土壌および火山岩塊〜火山礫などの山腹から山麓にかけての火山体表層部の構成物からなり,溶結火砕岩や溶岩流からなる岩塊相は認められない. 一本木原岩屑なだれ堆積物の最大流下高度差と最大到達との比(いわゆるH/L比)は約0.21である.典型的な大規模山体崩壊による岩屑なだれ堆積物のH/L比は0.2以下であることが示されており(Ui et al,2000),このことからも一本木岩屑なだれ堆積物が流動性の比較的乏しい流れ堆積物であることが分かる. |
![]() 図2.尻志田スコリアを覆う一本木岩屑なだれ堆積物. |
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図3.一本木岩屑なだれ堆積物とその下部の降下火砕物
一本木原岩屑なだれ堆積物が覆う尻志田スコリアは,下部の細粒スコリアと上部の粗粒スコリアに区分される.これらの降下火砕物火砕物の間には,露頭によっては有機分多いユニットが介在される場合があるが,山体に近づくと細粒の火山灰が噴火の休止.このことから,この火砕物は,長期間にわたり断続的に発生した小噴火により堆積したと考えられる.
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![]() 図4.一本木岩屑なだれ堆積物 流下するに連れて山腹や山麓部の表土や火山灰層を巻き込み,山麓で岩屑なだれ堆積物に特徴的な堆積構造(パッチワーク構造)を示す.
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![]() 図5.流下中に巻き込まれた樹木 樹皮の残る木材片が,岩屑なだれ堆積物中に散在する. |
図6.最大崩壊高度差(H)と最大流下到達距離(L)の関係
一本木原岩屑なだれ堆積物の最大崩壊高度差と最大流下到達距離の比(H/L比)の値は0.2程度である.これは,火山体で一般的に認められる大規模な岩屑なだれ堆積物と比較すると,一本木原岩屑なだれ堆積物の流動性が乏しかった事を示している.
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![]() 図7.東岩手−薬師岳火山山頂部の表層崩壊の痕跡 伊藤・土井(2005)の一部を陰影化 |