| 大規模な山体崩壊 (岩屑[ガンセツ]なだれ) |
火山体は噴火活動によって地表に放出された火山灰(火口近くでは溶岩のように固着[溶結]することもある)や溶岩流(あるいは溶岩ドーム)が累積することで作られている.数十万年にも及ぶ火山体の成長の歴史のなかでは,岩手火山のような急峻な成層火山では,山体の大部分が一挙に崩壊し,山麓部を埋積するできごとが,数万〜数千年の頻度で発生することが知られている. このような大規模な山体崩壊は“岩屑[ガンセツ]なだれ”と呼ばれ,火山体には長径1-2kmに達する馬蹄形の崩壊壁が形成される.また,山麓部には,火山体を構成していた溶岩や火砕物が破砕を受けながら巨大な岩塊として流下し,地形的には“流れ山”と呼ばれる無数の小丘を作って堆積する.また崩壊した岩屑が河川に沿って流れ下り,流下するにつれて土石流に移化して,火山からはるか下流部にまで被害をもたらす危険性を内包している. 火山体に作られた馬蹄形の崩壊壁は,後の噴火活動により埋積され,ほとんど痕跡が残されない場合もあるが,山頂部に一部が埋積され残ったり,火山体斜面の傾斜角の食い違いなどとして地形的にも確認される事も多い(岩手火山の例では,薬師岳を取り巻く不動平南側の円弧状の崖や,平笠不動付近の弧状の平地部など).また,流れ下った岩屑は,山麓で多数の流れ山を作り,水田の中に岩塊が突出した小丘が取り残される特徴的な地形(鳥海火山の象潟,岩手火山の周辺では八幡平市(旧西根町)大更から五百森付近で良く認められる)として保存されている場合も多い.岩屑が海や湖に突入した場合には,多数の小島(九州雲仙岳の九十九島)や小規模な起伏に富んだ海底地形として保存されていることもある. このような大規模な山体崩壊が日本で発生した最近の事例としては,1888年の磐梯山,1792年の雲仙火山(眉山[マユヤマ])が知られているほか,海外では1980年のセントヘレンズ山(アメリカ合衆国)が知られている. 大規模な山体崩壊としては, 1)火山体内へ新たなマグマが貫入することで火山体を変形させ,ついに山体が崩壊してしまう事例[1980年セントヘレンズ山:これにより発生する岩屑なだれはベズミヤニ・タイプと呼ばれる] 2)火山体直下の地震活動による事例[1792年雲仙火山眉山:雲仙タイプ] 3)山体内での大規模な水蒸気爆発による事例[1888年磐梯山;磐梯タイプ] が知られている(Ui et al., 1998).地熱活動により山体内に変質地域が形成され,もともと重力的に不安定な火山体が種々の理由で一挙に崩壊する場合もあると考えられている. |
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図1.大規模山体崩壊によって発生する災害要因の概念図
セントヘレンズ山1980年5月18日の山体崩壊をモデルとした
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| 大規模山体崩壊によって引き起こされる災害 ・直接的な災害; 崩れ落ちた岩屑による埋積 山体崩壊時に発生する爆風(ブラスト)による破壊 ・間接的な災害; 河川に流入し,流下中に土石流に移化し,下流部への被害 河川閉塞による堰止め湖の形成による水没地域の拡大 堰止め湖決壊による土石流発生 湖や海域に突入した場合は,湖水面の急上昇による水害や津波が発生する |