主に,安達太良山頂部付近から鉄山に至る稜線ないしその周辺の山体を構成するユニットです(写真1).頂部で識別できる 7つの降下火砕物に,山体西部の元山火砕流堆積物が含まれます.元山火砕流を除いて全てが降下堆積物です.各噴出物とも,堆積面がおおよそ西傾斜であることから,安達太良山頂〜鉄山稜線の東側に噴出源が推定されます.
写真1 安達太良山頂から北部を望む.画面中央部から左にかけて,山頂部ユニットの噴出物が見える.矢筈森第1・第2降下火砕物(YH1・YH2)は,藤縄(1980)の矢筈森溶岩流,阪口(1995)による鉄山−矢筈森噴出物の中央部に相当します. YH1は矢筈森北斜面の標高約1530m地点,YH2は矢筈森山頂を模式地とします.矢筈森の中腹部に,岩相,とりわけ溶結度に関する不連続面が認められることからYH1とYH2に2分できます.北西傾斜の堆積構造を示し,噴出口は南西側の安達太良山頂,篭山,矢筈森に囲まれた凹地付近と思われます.
第1降下火砕物(YH1)は,地形から判断すると総層厚およそ70m,露頭で確認できるのは10m程度のアグルチネートで,厚さ10cm程のフォールユニットが積層しています.風化,変質が著しく,沼の平溶岩流を被覆します.第2降下火砕物(YH2)は,総層厚およそ50m,第1降下火砕物よりも変質が著しく,強溶結です.それでも,降下堆積物の成層が,直径10cm程度で楕円体をした多数の本質物質とともに確認できます.
写真2 矢筈森第1・第2降下火砕物鉄山第1・第2降下火砕物(TE1・ TE2)は,藤縄(1980)の矢筈森溶岩流,阪口(1995)の鉄山−矢筈森噴出物の各々北部上部層に相当します.馬の背下部の標高約1620mにある模式地から,鉄山南側の東向き斜面,鉄山北東下部にかけて露出します(写真2).鉄山から矢筈森の急斜面に露出する噴出物群のうち,下位層準のアグルチネートです. TE1, 2ともに,西傾斜を示すフォールユニットが複数確認できます.鉄山南側急斜面のフォールユニット境界(標高約1620m付近)を挟んで,構成岩石の主化学組成が異なることから2分しています.TE1は沼の平溶岩流を被覆し,YH2にアバットします.
牛の背降下火砕物(US)は,藤縄(1980)の矢筈森溶岩流,阪口(1995)の鉄山−矢筈森噴出物の,各々南部上部層に相当します.東傾斜に見える傾動ブロックも認められますが,概ね西傾斜をすので,噴出源は安達太良山頂部・篭山・矢筈森に囲まれた凹地形付近であると推定できます.フォールユニットが数枚確認でき,層厚10m程度です.YH2にアバットします.
安達太良第1降下火砕物(AT1)は,安達太良山頂下の標高約 1650m付近に露出する降下火砕物です(写真3).溶結度の異なるフォールユニットが複数確認でき,アグルチネートを含みます.変質は顕著です.堆積面の傾斜方向から,噴出源は模式露頭東方の凹地付近に推定できます.安達太良山溶岩流,牛の背降下火砕物を被覆します.
写真3 安達太良山頂とAT1,AT2の露頭
安達太良第2降下火砕物(AT2)は,安達太良山頂部に露出する,粗粒の火山灰層,スコリア層,およびアグルチネートから成る降下火砕物を指します.全層厚は約30mで,岩相及び岩質から, 19層に区分できます(柱状図).各層とも分級がよく,一部で高温酸化が認められますが,概して新鮮です.下位よりJ層までとM, P, Q層は,軽石が主体で,J層までの軽石層間に5層の火山灰層が挟まります.L, N層はスコリア主体の降下火砕物層,O層と最上位のR層はアグルチネートからなります(写真4).軽石主体層にも10〜40(体積)%の割合でスコリアが含まれています.L層より上位では最大径約50cmの火山弾もみられます.
本質物質は,肉眼で見た色調から,軽石(淡灰色)と,スコリア・溶岩餅・火山弾(黒灰色)の2種に区分され,中間色調を示す噴出物はありません.ただし,墨流し状に両者の混合した縞状軽石が,A,N層中に確認されます. AT2は,二次堆積物を挟んで,AT1を覆います.本層は,元山火砕流および東山麓の湯川火砕流堆積物と対比され,その噴出年代は,約12万年前とされています.

元山火砕流(MO)は,藤縄(1980),阪口(1995)の元山火砕流堆積物に,障子ヶ岩溶岩流の西部,白糸の滝右岸上部を併せたものに相当します.硫黄川を挟んで白糸の滝付近の両岸上方の尾根に露出しています.厚さ約10mの土壌を挟んで,白糸溶岩流を被覆します( 写真5).白糸の滝左岸,標高約1250m地点の模式地では,層厚は30m,赤色酸化した基質中に,長径10cm程のレンズ状のスコリア質の岩塊を多数含むのが観察できます(写真6).
写真5 元山火砕流堆積物周辺の地形
写真6 元山火砕流堆積物の露頭写真